52 / 108
52.お兄様とシリル様の初対面
しおりを挟む
王太子であるクリストフお兄様は、我が王家で一番豪華な馬車でやってきた。馬が六頭で引くタイプよ。他国の手前、お父様から借りたのね。
「お久しぶりです。お兄様」
「マリー、元気そうでよかった。あなたがソールズベリー王国の王弟殿下ですか? 初めてお目にかかります。アンネマリーの兄、クリストフ・ヴァイセンブルクです」
穏やかな話し方は、いつものお兄様だった。旅の疲れはあまりなさそう。中で執務をしていたのか、側近のシリングス卿が書類を運び出している。旅に持ってくるのだから、雑務に追われているのね。
「義兄上なのですから、気楽になさってください。マリーの夫アリスターです。どうぞ、気軽にアルとお呼びください」
「では、アル殿と呼ばせていただきます。私のことはクリスと」
固い握手をしているけれど、力を入れすぎではないかしら? 真っ赤になっているわ。近づいてシリル様と腕を絡める。得意げな顔をするシリル様の機嫌が直った。お兄様は苦笑いして、解いた手をさすっている。
「一緒にお茶にしましょう。まずはお部屋に案内しますね」
同行したラーラとシリングス卿が、何やら会話を始めた。お兄様は私の斜め後ろに立って、髪飾りを眺めている。
「珍しい宝石だな」
「こちらから輸出しようと思っているのが、これよ。先日連絡したでしょう?」
「ああ、ラピスラズリだったか。これがそうなんだね」
この国では大量に産出しても、祖国には入ってこない。その理由が需要があると思わなかったから。ソールズベリー王国にしたら、高価でないうえ希少価値もない。磨いて輸出しても、採算がとれないと考えた。
でも、ヴァイセンブルク王国から見れば、見たことのない宝石よ。最初のうちは、高価で希少価値が高い。大量に入って貴族が買わなくなったら、民の装飾品として需要があった。実は青色は祖国で人気が高いの。海の色として珍重されてきた。
我が国を護る神様も、海や風に所縁のある方々ばかりよ。青はその意味でも大切にされる。きっと人気が出るわ。
そんな雑談をしながら客間を案内し、一時間後にお茶の時間を設定した。王宮の侍従達が、お兄様の荷物を運び込む。シリングス卿もすぐ隣の部屋を割り当てられた。宰相様のご子息なのよ。
「お兄様、またあとで」
「わかった。楽しみにしているよ」
旅装を解いて寛ぐには短いけれど、お兄様は微笑んで頷いた。シリル様が無言になっているわね。どうしたのかしら?
「マリー、帰らないよね?」
「……シリル様の隣が帰る場所ですわ」
きょとんとして首を傾げる。すぐに気づいて、望む答えを口にした。お兄様と仲良く話していたから、不安になったのかも。執着が強いって、こういう部分で発揮されるみたい。
「何度でも言います、私はシリル様の妻ですもの」
「うん、ありがとう」
ふふっ、意外な一面を知ってしまったわ。なんだか嬉しい。
「お久しぶりです。お兄様」
「マリー、元気そうでよかった。あなたがソールズベリー王国の王弟殿下ですか? 初めてお目にかかります。アンネマリーの兄、クリストフ・ヴァイセンブルクです」
穏やかな話し方は、いつものお兄様だった。旅の疲れはあまりなさそう。中で執務をしていたのか、側近のシリングス卿が書類を運び出している。旅に持ってくるのだから、雑務に追われているのね。
「義兄上なのですから、気楽になさってください。マリーの夫アリスターです。どうぞ、気軽にアルとお呼びください」
「では、アル殿と呼ばせていただきます。私のことはクリスと」
固い握手をしているけれど、力を入れすぎではないかしら? 真っ赤になっているわ。近づいてシリル様と腕を絡める。得意げな顔をするシリル様の機嫌が直った。お兄様は苦笑いして、解いた手をさすっている。
「一緒にお茶にしましょう。まずはお部屋に案内しますね」
同行したラーラとシリングス卿が、何やら会話を始めた。お兄様は私の斜め後ろに立って、髪飾りを眺めている。
「珍しい宝石だな」
「こちらから輸出しようと思っているのが、これよ。先日連絡したでしょう?」
「ああ、ラピスラズリだったか。これがそうなんだね」
この国では大量に産出しても、祖国には入ってこない。その理由が需要があると思わなかったから。ソールズベリー王国にしたら、高価でないうえ希少価値もない。磨いて輸出しても、採算がとれないと考えた。
でも、ヴァイセンブルク王国から見れば、見たことのない宝石よ。最初のうちは、高価で希少価値が高い。大量に入って貴族が買わなくなったら、民の装飾品として需要があった。実は青色は祖国で人気が高いの。海の色として珍重されてきた。
我が国を護る神様も、海や風に所縁のある方々ばかりよ。青はその意味でも大切にされる。きっと人気が出るわ。
そんな雑談をしながら客間を案内し、一時間後にお茶の時間を設定した。王宮の侍従達が、お兄様の荷物を運び込む。シリングス卿もすぐ隣の部屋を割り当てられた。宰相様のご子息なのよ。
「お兄様、またあとで」
「わかった。楽しみにしているよ」
旅装を解いて寛ぐには短いけれど、お兄様は微笑んで頷いた。シリル様が無言になっているわね。どうしたのかしら?
「マリー、帰らないよね?」
「……シリル様の隣が帰る場所ですわ」
きょとんとして首を傾げる。すぐに気づいて、望む答えを口にした。お兄様と仲良く話していたから、不安になったのかも。執着が強いって、こういう部分で発揮されるみたい。
「何度でも言います、私はシリル様の妻ですもの」
「うん、ありがとう」
ふふっ、意外な一面を知ってしまったわ。なんだか嬉しい。
309
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
夏の眼差し
通木遼平
恋愛
伯爵令嬢であるティナの婚約者とティナの妹が恋仲になり、ティナは婚約を解消することになる。婚約者に対して特に思い入れはなかったが、姉妹の婚約のすげ替えについての噂と勝手なことばかり言う妹に気疲れしたティナは、昔から彼女を気にかけてくれていたイライザ夫人の紹介で夫人の孫娘リネットの話し相手として雇われることになった。
家から離れ、リネット共に穏やかな日々を過ごすティナは、リネットの従兄であるセオドアと出会う。
※他サイトにも掲載しています
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる