【完結】年下夫は妻の訛りが愛おしい ~ただしヤンデレ風味~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
62 / 108

62.これって襲撃? 夜這い?

しおりを挟む
 手を繋いで横になったけれど、すぐにシリル様が抱きついてきた。胸元に引き寄せて、彼の黒髪を撫でる。寝息が聞こえたので、私も眠りに身を委ねた。

 ここまではいつも通りだったのに、なぜかしら。夜中に目が覚めた。一度寝たらあまり起きるほうではないのに? 自分でも不思議に思う。喉も乾いていないし、トイレも大丈夫。そこで気づいた。

 腕の中のシリル様が、人差し指を唇に押し当てているの。これって「しぃ」の合図よね。黙っていてほしいのね。動かないほうが良さそう。寝たふりで体の力を抜いたら、シリル様が僅かに体の位置をずらした。目を閉じているから、状況がわからない。

「っ! 誰だ!」

「きゃああ!」

 え? いまの悲鳴は誰?! この部屋は王弟夫妻の寝室だから、私とシリル様以外はいないはずよ。目を開けたら、身を起こしたシリル様が、短剣を構えていた。護身用に枕の下に入っていたやつだわ。

 扉を叩く音に、シリル様が「入れ」と命令を下す。護衛の騎士が飛び込んできた。剣の柄を握る彼らがゆっくり近づき、私はショールを羽織る。使用人は異性に数えないけれど、既婚者が夫以外に肩や胸元を見せるのは問題だわ。

「ご無事ですか?」

 王宮の侍女も飛び込んだ。今日はラーラが当番ではないので、控え室にいた侍女ね。彼女は大急ぎでベッドに駆け寄り、私の盾になる位置へ身を滑り込ませた。その間に、私はベッドから降りる。

「誰なの? 何が……」

「妃殿下、まずはお下がりください。危険です」

 侍女の言い分も尤もだし、シリル様がまだ険しい顔をしているので後ろに下がった。廊下側の壁まで移動し、背を壁に押し当てる。王族教育で習った通り、背中から襲われない方法よ。可能なら部屋の角を使うのだけれど、逃げ場もなくなるし。

「……怖いです、アルスター様」

「名を呼ぶ栄誉を与えていない。無礼だ」

 いまの声、サルセド王国のカルロータ王女? 首を伸ばして確認しようとするも、侍女の背中に阻まれてしまう。厳しいシリル様の返しは、怒りが滲んでいた。

「牢へ放り込め」

「はっ!」

「やめて、離して! 私はサルセドの王女なのよ!?」

 命令を受けた騎士が動き出す。他国の王族であろうと、自国の王弟夫妻の寝室に忍び込んだ以上、賊として処理する。命を狙った暗殺未遂の可能性もあった。実際のところは、シリル様と既成事実を作ろうとした、とか? でもまだ十五歳……いえ、その年齢なら考えられるわね。

 十歳のシリル様と既成事実が作れるかどうかは、別として。一緒のベッドで朝を迎えるだけでも、十分過ぎる醜聞だもの。困った王女様ね。引きずられていく彼女の寝着は透け透けで、目のやり場に困った。あんなの痴女同然じゃないの。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

夏の眼差し

通木遼平
恋愛
 伯爵令嬢であるティナの婚約者とティナの妹が恋仲になり、ティナは婚約を解消することになる。婚約者に対して特に思い入れはなかったが、姉妹の婚約のすげ替えについての噂と勝手なことばかり言う妹に気疲れしたティナは、昔から彼女を気にかけてくれていたイライザ夫人の紹介で夫人の孫娘リネットの話し相手として雇われることになった。  家から離れ、リネット共に穏やかな日々を過ごすティナは、リネットの従兄であるセオドアと出会う。 ※他サイトにも掲載しています

私に用はないのでしょう?

たくわん
恋愛
サクッと読める短編集

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...