69 / 108
69.腐った大木は倒れてしまうの
しおりを挟む
サルセド王国に対して、どう対応するか。シリル様はそう口にした。確かにそうだわ。とりあえずソールズベリー王国は直接の被害を受けたから、抗議するでしょう。実家であるヴァイセンブルク王国も、しっかり苦情を申し立てるはず。
武力に優れた強国と歴史が古い祖国、どちらも影響力が大きかった。
「とても可哀想だわ」
「どうして、そう思うの?」
シリル様は向こうが悪いと言い切る。実際に秋波を送られ、夜這いを掛けられたシリル様が怒るのは当然だけれど。
「だって、国がなくなってしまうもの」
シリル様の唇が「気づいていたの?」と動いた。声に出さなかったけれど、私だって王族よ。それなりに厳しい教育は受けたし、礼儀作法や外交に関する知識もあった。どう考えても、サルセド王国が巻き返す方法が思いつかないの。
それが答えなんだわ。取り返しのつかない失敗をして、そのお詫びすらしない。誰も助けてくれる人は現れない状況を、自ら作り出したんだもの。でも国民に罪はない……いえ、そうかしら?
王族や貴族が横暴な振る舞いをしているのを、見過ごしてきた。もちろん簡単に状況が覆せないことは承知しているわ。それでも声を上げなかった。声を上げた人が処分されたなら、そこに重ねて抗議するべきよ。
「どこまでいっても、理想論だけれど」
自分の考えを口にしたあと、悲しくなって付け加えた。殺されるかもしれない状況で、声を上げる勇気が私にあるかしら? 怖いと思うし、死にたくないと膝を抱えて動けないかも。外からいうだけなら、誰でも出来る。
「それでも、僕はマリーの考えを支持するよ」
「私も同じですな。だからこそ辺境伯を勤められた」
シリル様とダレルは、私の身勝手な考えを肯定してくれた。少しだけ嬉しくなる。
「鎖国していた状況で、民に逃げ場はなかった。独裁状態なら逆らうのも命がけだろう。それでも、誰一人声を上げなかったとは考えられない」
ダレルは淡々と考えを述べた。いつもアーサーと話す際の方言はなしで、綺麗な発音で聞き取りやすく、辛辣な言葉が並ぶ。
「国民は己の安寧のために、声を上げた人を見殺しにした。そんな悲劇が何回か繰り返されれば、さらに声を上げにくい環境が出来上がる。すべて自分達が招いたことだ」
悲しそうな顔のダレルに、私は「そうね」と声を重ねた。最悪の事態になれば、サルセド王国は封鎖されて自滅する。多くの人が王侯貴族の足元で亡くなるとしても、全滅はあり得なかった。民としての血や文化を受け継ぐ場所は残る。
せめて振られた王女が諦めていたら、国王が彼女をあんな風に育てなかったら……何か違っていたのかもしれないわ。
武力に優れた強国と歴史が古い祖国、どちらも影響力が大きかった。
「とても可哀想だわ」
「どうして、そう思うの?」
シリル様は向こうが悪いと言い切る。実際に秋波を送られ、夜這いを掛けられたシリル様が怒るのは当然だけれど。
「だって、国がなくなってしまうもの」
シリル様の唇が「気づいていたの?」と動いた。声に出さなかったけれど、私だって王族よ。それなりに厳しい教育は受けたし、礼儀作法や外交に関する知識もあった。どう考えても、サルセド王国が巻き返す方法が思いつかないの。
それが答えなんだわ。取り返しのつかない失敗をして、そのお詫びすらしない。誰も助けてくれる人は現れない状況を、自ら作り出したんだもの。でも国民に罪はない……いえ、そうかしら?
王族や貴族が横暴な振る舞いをしているのを、見過ごしてきた。もちろん簡単に状況が覆せないことは承知しているわ。それでも声を上げなかった。声を上げた人が処分されたなら、そこに重ねて抗議するべきよ。
「どこまでいっても、理想論だけれど」
自分の考えを口にしたあと、悲しくなって付け加えた。殺されるかもしれない状況で、声を上げる勇気が私にあるかしら? 怖いと思うし、死にたくないと膝を抱えて動けないかも。外からいうだけなら、誰でも出来る。
「それでも、僕はマリーの考えを支持するよ」
「私も同じですな。だからこそ辺境伯を勤められた」
シリル様とダレルは、私の身勝手な考えを肯定してくれた。少しだけ嬉しくなる。
「鎖国していた状況で、民に逃げ場はなかった。独裁状態なら逆らうのも命がけだろう。それでも、誰一人声を上げなかったとは考えられない」
ダレルは淡々と考えを述べた。いつもアーサーと話す際の方言はなしで、綺麗な発音で聞き取りやすく、辛辣な言葉が並ぶ。
「国民は己の安寧のために、声を上げた人を見殺しにした。そんな悲劇が何回か繰り返されれば、さらに声を上げにくい環境が出来上がる。すべて自分達が招いたことだ」
悲しそうな顔のダレルに、私は「そうね」と声を重ねた。最悪の事態になれば、サルセド王国は封鎖されて自滅する。多くの人が王侯貴族の足元で亡くなるとしても、全滅はあり得なかった。民としての血や文化を受け継ぐ場所は残る。
せめて振られた王女が諦めていたら、国王が彼女をあんな風に育てなかったら……何か違っていたのかもしれないわ。
322
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
夏の眼差し
通木遼平
恋愛
伯爵令嬢であるティナの婚約者とティナの妹が恋仲になり、ティナは婚約を解消することになる。婚約者に対して特に思い入れはなかったが、姉妹の婚約のすげ替えについての噂と勝手なことばかり言う妹に気疲れしたティナは、昔から彼女を気にかけてくれていたイライザ夫人の紹介で夫人の孫娘リネットの話し相手として雇われることになった。
家から離れ、リネット共に穏やかな日々を過ごすティナは、リネットの従兄であるセオドアと出会う。
※他サイトにも掲載しています
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる