【完結】年下夫は妻の訛りが愛おしい ~ただしヤンデレ風味~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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83.なんだったかしら?

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 朝からお庭を散歩して、シリル様とお茶の時間を楽しんだ。もちろんお昼は軽く、午後のお茶のためにお腹を空けておく。お昼寝をしたくなったけれど、お茶の時間を寝過ごしそうなのでやめた。だって、夜中に眠れなくなったら困るわ。

 ラーラに教えてもらいながら、三角にならないよう慎重に編んでいく。目が落ちると細くなってしまうから、一段編むごとに数えた。途中で話しかけられたら、いくつまで数えたか忘れそう。だいぶ長くなったけれど、今度はひし形になってしまった。

「ラーラ、数は合っているのにどうして?」

「毛糸の引っ張り具合ですね」

 揉むようにラーラが動かすと、ひし形はちゃんと長方形に戻る。不思議だった。まるで魔法みたい。手を叩いて喜んだら、見守っていたアーサーが口を開く。

「編み物は妻もやっておりましたが……たいていは途中で放置されましてな」

「あら、途中で止まった作品がたくさんあるの?」

「いや、残りはわしが仕上げました」

「……え?」

「はい?」

 ラーラと私で、似たような反応をした。この国では男性も編み物をするのね。ヴァイセンブルク王国では、女性の仕事に分類されていた。刺繍もほとんどが女性で、大きな壁に飾るタペストリーのような作品でも男性の職人はいなかったわ。

 雑談の中で、互いの国の慣習や常識を語るのは大事ね。知らないことがたくさんあるもの。隣の国なのに、こんなに違うなんて。勉強不足だったわ。

 これなら遠い国の人はもっと違う……あら? 何か忘れているような??

「マリー、一段落した? 兄上達がお茶の準備をしているよ」

「シリル様、いま行きます」

 編み棒から毛糸が抜けて解けないよう、ラーラがキャップで止めてくれる。毛糸玉と一緒に籠へ入れて、落し物がないか確認した。それからワンピースの裾を揺らして、シリル様と手を繋ぐ。並んで歩きながら、午後は鍛錬に励んだシリル様の話を聞いた。

 新しい剣術の先生が来たらしく、夢中になって時間を忘れそうになったと笑う。楽しかったならよかったと微笑み返し、ふとに気づく。さっき、何かを思い出しかけたわ。なんだったかしら?

「先日のスコーンを褒めたら、今日は新作だってさ。乾燥果実を混ぜて焼いたと聞いて、楽しみにしているんだ」

「まあ、素敵。ジャムと違う感じが楽しみです」

 仲良く扉をくぐり、室内に用意されたお菓子に目を奪われる。忘れたけれど思い出せたのだし、きっと夜眠る前にはまた思い出すはず。いまは目の前の甘味を堪能しましょう!
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