【完結】年下夫は妻の訛りが愛おしい ~ただしヤンデレ風味~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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86.雨には傘を、晴れれば木陰を ***SIDE使節団長

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 自国内の旱魃が原因で、需要と供給の天秤が傾いた。普段は大人しく平伏する民も、衣食住に困窮すれば牙を剥く。何度も忠告したが聞かなかった王が、ようやく鎖国解除の指示を出した。

 他国から仕入れるには、何らかの対価が必要になる。交渉術に優れた私が、使節団として近隣国を回る役目を請け負った。何としてもサルセド王国の危機を救わねばならない。使命感に燃えながら準備を進める私に、足枷をしたのは何故なにゆえか。

 サルセド王国には三人の姫君がいる。一番上の姫は美しい白い肌をもち、賢く聡かった。人の心の機微を読むことに長けた上の姫は、食糧支援と引き換えに島国の老いた王の側妃となる。己の身と引き換えに、多くの支援を引き出した。さすがは王家の姫様だと称賛の声が上がる。

 続いたのは、二人目の姫君だ。弓術に優れ、健康的に日焼けした肌の活発な方だった。少し離れた豊かな森を持つ国へ嫁ぐ。結納の品として。木材や家畜が大量に届けられる。かの国では弓の扱いに長けた者は、男女関係なく大切にされると聞いた。お幸せになってほしい。

 残されたのは、何も持たない末姫だけ。せめて愛嬌があれば求める者もいただろう。清楚で大人しければ、国内貴族に嫁ぐ方法も選べた。王によく似た娘は、妃の美しさも聡明さも引き継がなかった。甘やかされて好き勝手に過ごした結果、特筆する点が何もない。

 利点がないのに、地位と気位ばかり高い姫など不要だった。はっきり言うなら、迷惑ですらある。だが王の命令ならと我慢して連れてきた。到着した最初の国は、国境を接する強国ソールズベリーだ。新興国と呼ばれる若い国だが、圧倒的な強さと団結力があった。

 全体に若くて力が余っている印象だ。年老いたサルセド王国とは真逆だった。眩しいほどの輝きに目を焼かれながら、ソールズベリー王国の夜会に参加する。友好の使節団であると歓迎する彼らに、唾を吐いたのが王女だった。能力がないなら大人しくしていればよいものを……舌打ちして仲裁に入る。

「まあまあ、待たれよ。腐ったなら潰してしまうのも手だ」

 腐った果実なら叩き落し、来年の芽を育てる肥やしにする。婉曲的な言い回しだが、なるほどと頷いた。ソールズベリー王国は、辺境伯殿も勤勉なようだ。騒ぎを起こして落ちていく王女の姿に、額を手で覆った。自分の言動ではないのに恥ずかしすぎる。

 夜這いを掛けて失敗したと聞き、王弟アスター殿下に申し訳ないと謝罪する。にやりと笑った少年は、まだ十歳前後。愚かな王女より年下とは思えぬ、腹黒い一面を持っていた。最愛の妻を傷つけた王女の始末について要望を口にした。より無残な方法で、すり潰すように死ねばいい……と。

 反省の意味も知らぬ王女に望むのは、反省ではなく後悔だった。夜這いで王族の名前を間違えたと聞くが、そもそも王弟殿下は既婚者だ。恋愛対象ではないだろうに。

 我々の裁判は形ばかりで、労働刑が言い渡される予定だ。真面目に数年働けば、周辺国への移住が認められる。一種の恩情だった。代わりに王女と祖国の転落を見逃す。王への報告書を書く手を止め、夜明けの空を眺めた。

「雨には傘を、晴れれば木陰を……か」

 それぞれに望まれる立場で、己に相応しい振る舞いをせよ。そんな意味の言葉だった。国王に向けて呟いた私は、丁寧に折りたたんだ報告書を封筒に入れる。最後の務めは終わった。裁判を経て、私は異国の雨に濡れる傘になろう。いつか、祖国の者を迎える木陰になれるように。
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