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番外編
001.この手を離さないでね
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窓の外へ目を向ける。果実のついた木に鳥が集う、そんな模様の飾りが窓に施されていた。透明のガラスの間に入っている金属板が、まるで絵画の線のよう。このガラスに色を付ける技術があるらしい。すごく綺麗でしょうね。窓が絵画になるわ。でも外の風景はもっと綺麗だけれど。
「マリー、外へ出たいの?」
「あなたと一緒なら行きたいわ、シリル」
いつからだろう。私はシリル様を呼び捨てにしている。ああ、思い出したわ。やり直した初夜の後からだった。ベッドの中でシリルに強請られて、翌朝「シリル様」と呼んだらすごく悲しそうな顔をしたの。あれからずっと「シリル」と呼び捨てにしている。
「わかった、一緒に行こう」
公爵の地位を授かって、新しい屋敷に引っ越したのは三年前。結婚して三年目だったわ。私が嫁いでから、もう六年になるのね。大きく膨らんだお腹をゆっくりと撫でる。先日まで、お父様とお母様がいらしていた。
気が早いことに、生まれてくる赤ちゃんの服や遊び道具、哺乳瓶……ベビーベッドまで! 馬車いっぱいに詰め込んで遊びに来たの。隠居してからは気楽になったと笑うお父様は、孫が楽しみで仕方ないみたい。男の子なら剣術を教えたいし、女の子なら着飾らせてお姫様にすると意気込んでいる。
お母様のほうが冷静ね。赤ちゃんの心配もするけれど、私の体調を気遣ってくれた。妊娠した際の注意事項や経験を聞いて、私も心構えができたわ。まず転ばない、とにかく転ばない、転ぶような場所に行かない。これに尽きるみたい。
力仕事をしないのも重要らしいけれど、私が重い物を持つことはないわ。シリルがいるもの。今日もお姫様抱っこで移動しようとして、侍女長になったラーラに叱られる。
「転んだらどうなさるのです? 足元が見えないでしょう。気を付けて歩いて、転びそうになったら支える! わかりましたか?」
「……おまえ、僕が公爵だと忘れているだろう」
「覚えていますが、大切な奥様が優先です」
ラーラが私を呼ぶ名称は、次々と変わった。お嬢様、姫様、妃殿下、最後は奥様よ。他国まで一緒に来てくれて、本当に有難いわ。
「確かに、まずはマリー優先だ」
そこは赤ちゃんではなくて? 公爵家の跡取りよ? ソールズベリー王国は男女関係なく、爵位を継げるから、長子は跡取り確定だった。でも心配されるのは嬉しい。
「ねえ、早くお庭に出ましょう」
「待って、この帽子を被ってヴェールをかけて……よし!」
シリルはいつもと同じ。ツバの広い帽子に薄絹のヴェール、これを装備しないと外へ出してくれない。日焼け防止なんて理由をつけているけれど、本当は私を独占したいの。誰かに見られると、減るような気がするって言ってたわ。
暑かったり邪魔だったりしても、シリルが安心するならいいの。素直に被って手を繋いだ。シリルが私の目になって歩いてくれるから……この手は離さないでね?
「マリー、外へ出たいの?」
「あなたと一緒なら行きたいわ、シリル」
いつからだろう。私はシリル様を呼び捨てにしている。ああ、思い出したわ。やり直した初夜の後からだった。ベッドの中でシリルに強請られて、翌朝「シリル様」と呼んだらすごく悲しそうな顔をしたの。あれからずっと「シリル」と呼び捨てにしている。
「わかった、一緒に行こう」
公爵の地位を授かって、新しい屋敷に引っ越したのは三年前。結婚して三年目だったわ。私が嫁いでから、もう六年になるのね。大きく膨らんだお腹をゆっくりと撫でる。先日まで、お父様とお母様がいらしていた。
気が早いことに、生まれてくる赤ちゃんの服や遊び道具、哺乳瓶……ベビーベッドまで! 馬車いっぱいに詰め込んで遊びに来たの。隠居してからは気楽になったと笑うお父様は、孫が楽しみで仕方ないみたい。男の子なら剣術を教えたいし、女の子なら着飾らせてお姫様にすると意気込んでいる。
お母様のほうが冷静ね。赤ちゃんの心配もするけれど、私の体調を気遣ってくれた。妊娠した際の注意事項や経験を聞いて、私も心構えができたわ。まず転ばない、とにかく転ばない、転ぶような場所に行かない。これに尽きるみたい。
力仕事をしないのも重要らしいけれど、私が重い物を持つことはないわ。シリルがいるもの。今日もお姫様抱っこで移動しようとして、侍女長になったラーラに叱られる。
「転んだらどうなさるのです? 足元が見えないでしょう。気を付けて歩いて、転びそうになったら支える! わかりましたか?」
「……おまえ、僕が公爵だと忘れているだろう」
「覚えていますが、大切な奥様が優先です」
ラーラが私を呼ぶ名称は、次々と変わった。お嬢様、姫様、妃殿下、最後は奥様よ。他国まで一緒に来てくれて、本当に有難いわ。
「確かに、まずはマリー優先だ」
そこは赤ちゃんではなくて? 公爵家の跡取りよ? ソールズベリー王国は男女関係なく、爵位を継げるから、長子は跡取り確定だった。でも心配されるのは嬉しい。
「ねえ、早くお庭に出ましょう」
「待って、この帽子を被ってヴェールをかけて……よし!」
シリルはいつもと同じ。ツバの広い帽子に薄絹のヴェール、これを装備しないと外へ出してくれない。日焼け防止なんて理由をつけているけれど、本当は私を独占したいの。誰かに見られると、減るような気がするって言ってたわ。
暑かったり邪魔だったりしても、シリルが安心するならいいの。素直に被って手を繋いだ。シリルが私の目になって歩いてくれるから……この手は離さないでね?
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