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本編
67.油断も隙もないが罠はある
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スフェーン国王ギルベルトの署名が入った手紙に目を通し、ウルリヒは立ち上がった。貴族の屋敷に造られた温室前の階段に腰掛けていたのだ。温室は南庭の開けた場所にある。
誰かが近づけば、すぐに分かる場所だった。上にあるのは透き通った温室の屋根だ。丸い屋根は潜むのに最悪だった。滑るし影が下に落ちる。やや曇りの空を見上げ、ウルリヒは手紙をたたみ直した。
何事もなかったように一つ伸びをして、屋敷の一室に足を踏み入れる。ガラス扉を開いてた部屋は、客間の隣室だった。通常は控え室として使われる。訪ねてきた貴族の従者や侍女、御者などを待たせる場所だった。
そのため豪華さはない。立派な調度品も不要だった。最低限の設備として、棚にお茶の道具が並ぶ程度だ。お湯だけ貰えば、お茶を飲んで待っていることが可能だった。
今はカップや茶器だけの棚へ、手紙を押し込む。視線を感じながら、何度も茶器の位置を変えて隠した。満足げに頷いて、部屋を出る。
アンネリースは、二階の主寝室がある続き部屋にいた。女主人の部屋として作られた一室で、浴槽や衣装部屋が立派である。ノックして許可を得て入れば、ルードルフが不在だった。
「困りましたね」
「侍女同席なら問題ないのでは?」
「書類がちょっと」
ちらりと胸元から手紙を覗かせる。政の話なら、とアンネリースは刺繍の手を止めて立ち上がった。同じ二階の一角に、屋敷の主人の書斎と執務室がある。そちらへ移動となった。
女王の執務室に宰相が訪ねてくるのは、問題にならない。異性でも関係ない。なぜなら、職責による縛りが存在するからだ。先ほどの女主人の私室へ、夫以外の男性が同席するのは、かなり外聞が悪かった。
せめて親族なら構わないのだが、ウルリヒは赤の他人である。気遣う彼に、アンネリースは驚いていた。意外な部分で、貴族らしい。皇帝まで勤めた男なのだから当然だと思う反面、そういった過去の慣習に囚われないと思っていた。
「その手紙は何?」
「スフェーン国王陛下より、ムンティア王国宰相への根回しです」
こういうところが食えない男なのだ。一般的な宰相なら、女王への取り次ぎと紹介するだろう。内容が違っている、女王はそう理解した。
差し出した手に触れた手紙を細部までしっかり読む。軍備増強や兵士の召集に至るまで。すべての経緯が記されていた。警戒する先がルベリウス国だとはっきり明記してある。
「陛下のはとこでしたか」
「ええ、そうよ」
「優秀な統治者を輩出する一族のようですね」
これは素直に褒めているらしい。ウルリヒの言葉の裏を読むことに、慣れてきた。曖昧に頷いて、齎された情報を組み立てる。先日のルードルフの指摘、増強した軍備の内容、ウルリヒが調べた貴族籍を持たない養子や妻の話。
組み立てバラし、違う形で組めないか考える。その時間は短かった。
「では、当初の計画通りに」
「承知いたしました、陛下の仰せのままに」
恭しく頭を下げるウルリヒは、アンネリースの指示と判断に従った。
誰かが近づけば、すぐに分かる場所だった。上にあるのは透き通った温室の屋根だ。丸い屋根は潜むのに最悪だった。滑るし影が下に落ちる。やや曇りの空を見上げ、ウルリヒは手紙をたたみ直した。
何事もなかったように一つ伸びをして、屋敷の一室に足を踏み入れる。ガラス扉を開いてた部屋は、客間の隣室だった。通常は控え室として使われる。訪ねてきた貴族の従者や侍女、御者などを待たせる場所だった。
そのため豪華さはない。立派な調度品も不要だった。最低限の設備として、棚にお茶の道具が並ぶ程度だ。お湯だけ貰えば、お茶を飲んで待っていることが可能だった。
今はカップや茶器だけの棚へ、手紙を押し込む。視線を感じながら、何度も茶器の位置を変えて隠した。満足げに頷いて、部屋を出る。
アンネリースは、二階の主寝室がある続き部屋にいた。女主人の部屋として作られた一室で、浴槽や衣装部屋が立派である。ノックして許可を得て入れば、ルードルフが不在だった。
「困りましたね」
「侍女同席なら問題ないのでは?」
「書類がちょっと」
ちらりと胸元から手紙を覗かせる。政の話なら、とアンネリースは刺繍の手を止めて立ち上がった。同じ二階の一角に、屋敷の主人の書斎と執務室がある。そちらへ移動となった。
女王の執務室に宰相が訪ねてくるのは、問題にならない。異性でも関係ない。なぜなら、職責による縛りが存在するからだ。先ほどの女主人の私室へ、夫以外の男性が同席するのは、かなり外聞が悪かった。
せめて親族なら構わないのだが、ウルリヒは赤の他人である。気遣う彼に、アンネリースは驚いていた。意外な部分で、貴族らしい。皇帝まで勤めた男なのだから当然だと思う反面、そういった過去の慣習に囚われないと思っていた。
「その手紙は何?」
「スフェーン国王陛下より、ムンティア王国宰相への根回しです」
こういうところが食えない男なのだ。一般的な宰相なら、女王への取り次ぎと紹介するだろう。内容が違っている、女王はそう理解した。
差し出した手に触れた手紙を細部までしっかり読む。軍備増強や兵士の召集に至るまで。すべての経緯が記されていた。警戒する先がルベリウス国だとはっきり明記してある。
「陛下のはとこでしたか」
「ええ、そうよ」
「優秀な統治者を輩出する一族のようですね」
これは素直に褒めているらしい。ウルリヒの言葉の裏を読むことに、慣れてきた。曖昧に頷いて、齎された情報を組み立てる。先日のルードルフの指摘、増強した軍備の内容、ウルリヒが調べた貴族籍を持たない養子や妻の話。
組み立てバラし、違う形で組めないか考える。その時間は短かった。
「では、当初の計画通りに」
「承知いたしました、陛下の仰せのままに」
恭しく頭を下げるウルリヒは、アンネリースの指示と判断に従った。
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