【完結】真珠姫と野獣王

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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本編

93.内側から食い破る

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 どの国も大差ない。貴族の失態ややらかしは、すぐに噂となった。酒場で語り、家に持ち帰って話し、妻は顔を出す先で吹聴する。子ども達は大人の噂話に敏感で、大声で騒ぎ真似をした。

 盗賊に襲われる役、盗賊側の役、二手に分かれて棒を振り回す。身代金を払えと盗賊役が口にし、相談するフリをした襲われ役が首を横に振る。直後に、棒を振り回して剣士の戦いを再現した。この遊びは人々の予想を超えて広がり、大人は笑いながらも止めなかった。

 やがて各地を回る吟遊詩人の耳に入り、彼らは飯の種にと歌を作り出す。使者が捕まり、身代金を請求された王は空っぽの金庫を抱え、おいおいと泣く。悪意を含んだ歌詞は、地方都市から王都へ向けて侵食した。

 王都の貴族が耳にする頃、民は皆知っている。王が見捨てた使者、だが彼は妻のかき集めた金で屋敷へ逃げ帰った。そう締め括られる歌は、衛兵が否定するほど盛り上がる。否定するならそれは真実だと、民はさまざまな場面で歌い繋いだ。

 当事者である子爵は、とばっちりで爵位を奪われた。家財や屋敷を売った妻のお陰で、命は拾った。それだけでいい。そう言い残し、地方へ逃げた子爵夫妻は戦争に巻き込まれることなく生き延びた。

 盗賊に不意を突かれて敗北した騎士の大半は、何食わぬ顔で地方都市に就職する。そっと、ムンティア王国側から離れたため、これまた戦争に巻き込まれずに済んだ。

 子爵家が用意できる程度の身代金をケチり、国の代表である使者を見殺しにしようとした。その汚名は、次の使者に立った伯爵家の次男も耳にする。何も知らなかった彼は、一歩間違えば自分も見捨てられたのかと恐れ慄いた。父である伯爵が大騒ぎしたことで、周辺の貴族は王族に疑いを持つ。

 何かあれば、我らも見捨てるのでは? 現実にならない保証は、どこにもなかった。









「盗賊の見回り、ご苦労様。感謝しているわ」

 スマラグドスの強面を集め、アンネリースは豪勢に料理と酒を振る舞う。彼らに与えた仕事の名目は盗賊退治だが、実際は盗賊のフリで子爵一行を襲うこと。しばらく閉じ込め、その後解放した。

 誰も死んだなんて言ってないのよ。大量の獣の血があったから、殺害されたと勘違いしただけ。盗賊だって獣を返り討ちにしたり、殺して食べることもあるでしょうに。そう笑う美女を、傭兵団の戦士達は喝采した。

 これでこそ、我らが一族の長の妻である。豪胆さと大胆な作戦、成功させる運も含めて。一族の上に立つ主君として相応しい。傭兵一族の嫁らしいと大喜びだった。

「陛下の運は、恐ろしいほどです」

「ああ、何をしても良い方へ転がる。お前の補佐も重要だな」

 ウルリヒは驚いた様子で目を丸くした後、友人の褒め言葉を噛み締めた。策略や謀略は、どうしても後ろめたい。必要だと理解して実行するのに、後味の悪さに眉を寄せたことも多かった。

 それを「補佐」と表現し、褒めるなど。正面突破でいつも正しくあろうとする友人の言葉は、他の誰の言葉より重かった。しっかり抱き留め、ウルリヒは小さく頷く。その仕草に気付きながら、ルードルフは何も言わなかった。
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