【完結】真珠姫と野獣王

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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本編

94.急ぎ過ぎれば弊害が大きい

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 噂が一つの国を揺らすまで、数ヶ月。アンネリースは国内の様々な問題の解決に乗り出した。

 ムンパールだった領地は税金を免除している。戦で壊された場所も少なく、ほぼ無傷だ。国民も街も無事なムンパールは、賑わっていた。人手が足りない店に回すため、ルベリウスの難民を受け入れる。ただし、街に入れる難民は、かなり選別した。

 人数の制御はもちろん、住む場所や生活環境に至るまで監視する。他国からの間者である可能性を潰し、今後の難民受け入れに道筋をつけるためだ。一度に多くの人を受け入れれば、元から住んでいる人々が反発する。

 仕事にあぶれた者は、他者から奪う方法を選びやすくなる。同国の者で集まり、徒党を組むのを防止するのも重要だった。難民の大半は、農地へ誘導する。開拓中の土地は手が足りず、元農民のほとんどは慣れない街の仕事より、畑の開拓を望んだ。

 セレスタイン国からは難民を受け入れない。代わりに、水路作りを依頼した。ムンパールの職人が出向き、スフェーンから資材を提供してもらう。ガッチリした石造りの水道橋は、セレスタイン国民の手で形作る。

 不足しそうな財源を、ジャスパー帝国の隠し財産からやり繰りした。形になっていく国を、ルードルフは積極的に回る。時に女王の手紙を運び、小さな叛逆の芽を潰し、民の不満に応えた。一族の長を務める彼にとって、これらの仕事は苦にならない。

 複雑な仕組みや人間関係を理解して、策略を巡らす役割は無理だ。その自覚はあった。だから自分が動ける役割は、積極的にこなす。美しく聡明な妻を得た男の、役得だと考えていた。

「スフェーン王国はどうするんだ?」

 この大陸の国々を統一する。そう認識するルードルフは、素直に疑問を口にした。久しぶりに仕事が落ち着き、一緒に昼食を食べる。ウルリヒも同席したため、つい仕事の話が口をついた。

 香辛料たっぷりで辛い料理を、平べったいパンに巻く。大きく太い指で、器用に巻き終えたルードルフは、隣の妻に差し出した。礼を言って食べるアンネリースは、答えをウルリヒに丸投げする。つまり、彼が答えを知っているのだ。

 素直に待つルードルフに、ウルリヒは肩をすくめた。最愛の妻と親しくする友人に嫉妬するでもなく、不貞を疑うこともない。最強を誇る一族の長が、平然と「知らない」と口にする。奇跡のような存在だった。

 女王アンネリースも同じように感じている。裏切らず、疑わず、けれど愚鈍ではない。勇猛な王配殿下へ、宰相は静かに切り出した。

「これは数十年規模の作戦なのですよ。すぐに結果が出る必要はありません」

 アメシス王国もすぐ陥落させる必要があれば、ルードルフに軍を率いて攻め込ませればいい。今まで急いだのは、必要だったからだ。今後はゆっくり進める。そう説明され、ルードルフは自分の知る例えで納得した。

「なるほど。急に川の流れを変えると、氾濫するからな」

 思ったより理解の深い彼に、女王と宰相は目を見開いた。
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