【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
92 / 530
第6章 侵入者か難民か

91.損な役割は承知の上です

しおりを挟む
「あぶぅ!」

 いきなりイヴが叫んだ。拳を突きあげたポーズに、リリスがくすくすと笑う。

「どうしたの? その姿、かっこいいわね」

 ぶぅ……不満そうな声を漏らしたイヴがきらきらと光り、リリスごと消えた。何が起きたのか理解できなかったベールは、同じく呆然とするヤンと目を合わせる。互いにしばらく見つめ合った後、ヤンが先に動いた。

「ベ、ベール大公閣下、姫が消え……え? 消えましたぞ!!」

 混乱しまくりながらも事実を並べる。姫がどちらを指しているのか不明だが、問題はそこではなかった。イヴが消えたのもリリスがいなくなったのも、同様に魔王ルシファーの暴走を招く。我に返ったベールが、先に混乱したヤンを宥めるように言い聞かせた。

「私が後を……ですが城を留守にするのは……」

 後を追いたいが、魔王城の留守番がいないのは困る。アスタロトが欠けた今、ベルゼビュートが付いて行ったことが悔やまれた。世界樹に詳しいベルゼビュート、分析能力に長けたルキフェル。どちらを呼び戻すか迷うベールに活を入れたのは、意外にもヤンだった。

「閣下! すぐに我が君にお知らせしましょう。我が君に姫を追っていただけば、すぐです!」

「わかりました」

 声のみで状況を伝える通信を送り、ベールは巨大なフェンリルに近づいた。上位者に指示をしてしまったと恐縮する彼の耳や首を丁寧に掻く。

「助かりました。さすがは森の王です」

 恐縮するヤンの後ろに現れたルシファーが、勢い込んで尋ねる。

「ベール、リリスはどこにいた?」

「ここです」

 指さした場所に立ち、ヤンを手招きした。

「ヤン、来るか?」

「はい!」

 大喜びで尻尾を振ったヤンが飛びつくと同時に、魔王ルシファーの純白の姿は揺らいで消えた。転移を終えた上司とフェンリルを見送ったベールは、溜め息を吐く。本当に、悪い人ではないのに騒がしい。もう少し魔王らしい落ち着きを手に入れてくれたら……いえ、その時点で陛下ではありませんね。

 騒動に慣れる方が早い。いつもと同じ結論に至り、空を見上げた。いつも通り、空は美しく澄んで変化はない。だから魔王妃リリス様も娘イヴ様もご無事で、陛下が連れ帰ってくる。そう自らに言い聞かせ、留守番という立場のじれったさを飲み込んだ。

 損な役割と表現したリリスの慈愛に満ちた表情を思い出す。早く帰ってくればいい。そう願いながら、ベールは長いローブを翻した。





「あらぁ」

 リリスは思わぬ状況に目を見開いた。美しい光に満ちた世界が、徐々に黒くなっていく。それは燃える炎の形をしていた。イヴが「あぶ、ばぁ!」と手を振り回すたび、炎は遠ざけられる。どうやら消火を手伝っているらしい。

「ふふっ、ママも手伝うわね」

 娘イヴが頑張っているのだから、母親である私がただ見ているわけにいかない。そう呟いたリリスが魔力を水に変えて広げた。触れた黒い炎が消えていく。実際の炎は黒ではないだろう。これは世界樹の内側だ。世界樹が見る景色を投影していた。

 光に満ちた美しい世界を、炎が焼いていく。魔の森の娘と孫がそれを防ぐために力を振るう。まるで何かの符号のようだった。ルーシアがいたら上手だったでしょうね。そんな感想を抱きながら、リリスは彼女の持つ魔力のイメージを取り入れた。

 ふわりと柔らかく、形を問わずに動きまわる。優しくて、でも厳しい。水を体現したような友人を思って作り上げた水の魔法は、世界樹の炎上を内側から食い止めた。

「リリス、イヴ! 無事か?」

 飛び込んだルシファーが驚いた顔をした後、二人を大切そうに包み込む。その背に白い翼が4枚現れ、はらはらと散った。花びらのように舞う羽が黒い浸食を消し去る。

「っ、ルシファー?」

「陛下?!」

 ルキフェルとベルゼビュートの声が聞こえ、いつの間にか世界樹の外へ弾き出されていたことに気づく。ヤンはやはり世界樹の内側に入れず、しょんぼりと項垂れた。

「今回は緊急事態だもの、入れる者が限られちゃったのよ」

 慰めるリリスに、ヤンはくーんと鼻を鳴らす。見上げた巨木は、やや焦げたものの元気そうに葉を揺らした。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...