【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
120 / 530
第8章 てんやわんやで誘拐も?

118.良かれと思った行動が裏目に出た

しおりを挟む
「落ち着け、ベルゼもアスタロトも……攻撃は中止だ」

 命じる口調に迷いはなく、操られている様子もない。迷いながら二人は頷いて剣を引いた。だが剣先を降ろしただけで、鞘に納める気はない。警戒するのが当然の状況だった。それが分かるから、鞘に納めろと命じる気も起きない。

 はぁ……大きな溜め息をついたルシファーが立ち上がり、きょとんとしている少女の前に尻をついてしゃがんだ。咄嗟に動こうとしたアスタロトをひと睨みして抑える。

「動くな」

 改めて命じ直し、少女に向き直った。

「どこから来たんだ?」

「とおく」

「自分で帰れそうか」

「うん」

「ならば帰っていいぞ」

 短い会話の中で何を得たのか。少女は表情を和らげた。それから手を振って消えてしまう。何が起きたのか、茫然とする大公二人へルシファーが手を伸ばした。

「悪いが起こしてくれ。かなり食われた」

 魔力を大量に食われたので、立ち上がる気力もない。怠いと訴えて手を伸ばせば、くすくすと笑ったアスタロトがその手を掴んだ。反対の手をベルゼビュートが握る。立ち上がって尻の埃を払い、ルシファーは二人を促した。

「さて、今回の騒動の顛末を話すお茶会でもしようか」

 ベルゼビュートが育てる薔薇の温室で、ソファにぐったり凭れるルシファー。寄りかかる妻リリスの腕の中で、イヴがすやすやと眠る。温室なら子どもが行方不明になる心配は少なく、多少のケガをしても間に合うことから、それぞれに子どもを連れて集まった。

 今回の当事者となったテッドやコリーの親はもちろん、大公女や大公達も勢揃いだ。イザヤとアンナの双子が子ども達の面倒を見てくれるので、親達は話に集中した。円卓を囲んだ彼らは持ち寄ったお茶菓子を並べて準備を整える。

「あの子は迷子だ」

 切り出したルシファーは、接触時に流れ込んだ感情や思考を分析した結果を口にした。何らかの事情でこちらの世界に入り込んでしまった。だが以前の世界との繋がりは切れておらず、戻ろうとしても力が足りない。そこで吸収しやすい魔力を選んで吸い出そうとした。

 少女に子どもを殺す意図はなかった。複数の子を攫ったのがその証拠だ。一人から吸い出せば、大量のエネルギーを奪われた子が死ぬ。それを避けるために複数の子を捕まえた。転移に似た能力で取り込んだ魔力を変換し、彼女を元の世界に戻す乗り物がトカゲの形をしていただだけの話。

「トカゲは乗り物、ですか」

「ああ、彼女の感覚ではそうなっていた。だから痛覚も怒りもなかった。子ども達の魔力をある程度奪ったら返却し、また別の子から奪うつもりだったらしい。まとめて魔力をくれてやったら、すぐに帰ったけどな」

 からりと笑うが、危険な行為をした上司に眉を寄せるのは部下として当然だ。アスタロトが難しい顔で唸り、隣のベールも表情が曇った。ルキフェルは奪われたトカゲを惜しんで溜め息を吐く。そんな中、ベルゼビュートが憤慨して声を上げた。

「ある程度奪ったら返すって、そんなの略奪じゃない!」

 至極当然の言い分に、子どもを持つ親は一斉に頷いた。リリスも含めて、である。今回、幸いにしてイヴは含まれなかったが、足りなければ狙われていた可能性が高い。そんな暴挙を為した相手をあっさり返した魔王への不満が口をついた。

「なんで帰したの! 罰を与えるべきだったわ」

「オレの魔力で満足して帰ってくれるなら、それが一番安全だろう。イヴを含めた他の子を守るのも魔王の務めだぞ」

 当たり前のことをしたまで。危険な存在なら追い返す。その際に必要なら魔力を与えることも含めて、だ。ルシファーは責められた理由が分からず、困惑顔で答えた。これが思わぬ夫婦喧嘩の始まりとなると知っていたら、彼は沈黙を通しただろうに……。後から悔いるから後悔と呼ぶ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...