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第8章 てんやわんやで誘拐も?
118.良かれと思った行動が裏目に出た
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「落ち着け、ベルゼもアスタロトも……攻撃は中止だ」
命じる口調に迷いはなく、操られている様子もない。迷いながら二人は頷いて剣を引いた。だが剣先を降ろしただけで、鞘に納める気はない。警戒するのが当然の状況だった。それが分かるから、鞘に納めろと命じる気も起きない。
はぁ……大きな溜め息をついたルシファーが立ち上がり、きょとんとしている少女の前に尻をついてしゃがんだ。咄嗟に動こうとしたアスタロトをひと睨みして抑える。
「動くな」
改めて命じ直し、少女に向き直った。
「どこから来たんだ?」
「とおく」
「自分で帰れそうか」
「うん」
「ならば帰っていいぞ」
短い会話の中で何を得たのか。少女は表情を和らげた。それから手を振って消えてしまう。何が起きたのか、茫然とする大公二人へルシファーが手を伸ばした。
「悪いが起こしてくれ。かなり食われた」
魔力を大量に食われたので、立ち上がる気力もない。怠いと訴えて手を伸ばせば、くすくすと笑ったアスタロトがその手を掴んだ。反対の手をベルゼビュートが握る。立ち上がって尻の埃を払い、ルシファーは二人を促した。
「さて、今回の騒動の顛末を話すお茶会でもしようか」
ベルゼビュートが育てる薔薇の温室で、ソファにぐったり凭れるルシファー。寄りかかる妻リリスの腕の中で、イヴがすやすやと眠る。温室なら子どもが行方不明になる心配は少なく、多少のケガをしても間に合うことから、それぞれに子どもを連れて集まった。
今回の当事者となったテッドやコリーの親はもちろん、大公女や大公達も勢揃いだ。イザヤとアンナの双子が子ども達の面倒を見てくれるので、親達は話に集中した。円卓を囲んだ彼らは持ち寄ったお茶菓子を並べて準備を整える。
「あの子は迷子だ」
切り出したルシファーは、接触時に流れ込んだ感情や思考を分析した結果を口にした。何らかの事情でこちらの世界に入り込んでしまった。だが以前の世界との繋がりは切れておらず、戻ろうとしても力が足りない。そこで吸収しやすい魔力を選んで吸い出そうとした。
少女に子どもを殺す意図はなかった。複数の子を攫ったのがその証拠だ。一人から吸い出せば、大量のエネルギーを奪われた子が死ぬ。それを避けるために複数の子を捕まえた。転移に似た能力で取り込んだ魔力を変換し、彼女を元の世界に戻す乗り物がトカゲの形をしていただだけの話。
「トカゲは乗り物、ですか」
「ああ、彼女の感覚ではそうなっていた。だから痛覚も怒りもなかった。子ども達の魔力をある程度奪ったら返却し、また別の子から奪うつもりだったらしい。まとめて魔力をくれてやったら、すぐに帰ったけどな」
からりと笑うが、危険な行為をした上司に眉を寄せるのは部下として当然だ。アスタロトが難しい顔で唸り、隣のベールも表情が曇った。ルキフェルは奪われたトカゲを惜しんで溜め息を吐く。そんな中、ベルゼビュートが憤慨して声を上げた。
「ある程度奪ったら返すって、そんなの略奪じゃない!」
至極当然の言い分に、子どもを持つ親は一斉に頷いた。リリスも含めて、である。今回、幸いにしてイヴは含まれなかったが、足りなければ狙われていた可能性が高い。そんな暴挙を為した相手をあっさり返した魔王への不満が口をついた。
「なんで帰したの! 罰を与えるべきだったわ」
「オレの魔力で満足して帰ってくれるなら、それが一番安全だろう。イヴを含めた他の子を守るのも魔王の務めだぞ」
当たり前のことをしたまで。危険な存在なら追い返す。その際に必要なら魔力を与えることも含めて、だ。ルシファーは責められた理由が分からず、困惑顔で答えた。これが思わぬ夫婦喧嘩の始まりとなると知っていたら、彼は沈黙を通しただろうに……。後から悔いるから後悔と呼ぶ。
命じる口調に迷いはなく、操られている様子もない。迷いながら二人は頷いて剣を引いた。だが剣先を降ろしただけで、鞘に納める気はない。警戒するのが当然の状況だった。それが分かるから、鞘に納めろと命じる気も起きない。
はぁ……大きな溜め息をついたルシファーが立ち上がり、きょとんとしている少女の前に尻をついてしゃがんだ。咄嗟に動こうとしたアスタロトをひと睨みして抑える。
「動くな」
改めて命じ直し、少女に向き直った。
「どこから来たんだ?」
「とおく」
「自分で帰れそうか」
「うん」
「ならば帰っていいぞ」
短い会話の中で何を得たのか。少女は表情を和らげた。それから手を振って消えてしまう。何が起きたのか、茫然とする大公二人へルシファーが手を伸ばした。
「悪いが起こしてくれ。かなり食われた」
魔力を大量に食われたので、立ち上がる気力もない。怠いと訴えて手を伸ばせば、くすくすと笑ったアスタロトがその手を掴んだ。反対の手をベルゼビュートが握る。立ち上がって尻の埃を払い、ルシファーは二人を促した。
「さて、今回の騒動の顛末を話すお茶会でもしようか」
ベルゼビュートが育てる薔薇の温室で、ソファにぐったり凭れるルシファー。寄りかかる妻リリスの腕の中で、イヴがすやすやと眠る。温室なら子どもが行方不明になる心配は少なく、多少のケガをしても間に合うことから、それぞれに子どもを連れて集まった。
今回の当事者となったテッドやコリーの親はもちろん、大公女や大公達も勢揃いだ。イザヤとアンナの双子が子ども達の面倒を見てくれるので、親達は話に集中した。円卓を囲んだ彼らは持ち寄ったお茶菓子を並べて準備を整える。
「あの子は迷子だ」
切り出したルシファーは、接触時に流れ込んだ感情や思考を分析した結果を口にした。何らかの事情でこちらの世界に入り込んでしまった。だが以前の世界との繋がりは切れておらず、戻ろうとしても力が足りない。そこで吸収しやすい魔力を選んで吸い出そうとした。
少女に子どもを殺す意図はなかった。複数の子を攫ったのがその証拠だ。一人から吸い出せば、大量のエネルギーを奪われた子が死ぬ。それを避けるために複数の子を捕まえた。転移に似た能力で取り込んだ魔力を変換し、彼女を元の世界に戻す乗り物がトカゲの形をしていただだけの話。
「トカゲは乗り物、ですか」
「ああ、彼女の感覚ではそうなっていた。だから痛覚も怒りもなかった。子ども達の魔力をある程度奪ったら返却し、また別の子から奪うつもりだったらしい。まとめて魔力をくれてやったら、すぐに帰ったけどな」
からりと笑うが、危険な行為をした上司に眉を寄せるのは部下として当然だ。アスタロトが難しい顔で唸り、隣のベールも表情が曇った。ルキフェルは奪われたトカゲを惜しんで溜め息を吐く。そんな中、ベルゼビュートが憤慨して声を上げた。
「ある程度奪ったら返すって、そんなの略奪じゃない!」
至極当然の言い分に、子どもを持つ親は一斉に頷いた。リリスも含めて、である。今回、幸いにしてイヴは含まれなかったが、足りなければ狙われていた可能性が高い。そんな暴挙を為した相手をあっさり返した魔王への不満が口をついた。
「なんで帰したの! 罰を与えるべきだったわ」
「オレの魔力で満足して帰ってくれるなら、それが一番安全だろう。イヴを含めた他の子を守るのも魔王の務めだぞ」
当たり前のことをしたまで。危険な存在なら追い返す。その際に必要なら魔力を与えることも含めて、だ。ルシファーは責められた理由が分からず、困惑顔で答えた。これが思わぬ夫婦喧嘩の始まりとなると知っていたら、彼は沈黙を通しただろうに……。後から悔いるから後悔と呼ぶ。
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