189 / 530
第12章 次世代は逞しい
187.口が悪いですよ、魔王陛下
しおりを挟む
執務室の扉をくぐる前に、アスタロトに呼び止められた。
「ルシファー様、この部屋に大人がいなくなります」
スイやルイも成人するには遠い。だが、アスタロトがいるではないか。そう首を傾げたルシファーへ、アスタロトは淡々と言い聞かせた。
「いいですか? 私はこれからゲーテを探しに執務室を出ます。ベルゼビュートを呼んで鱗粉をもらうだけなら、ルシファー様がここに残ってください」
「くそっ、嵌めたな!」
「口が悪いですよ、魔王陛下」
嫌味ったらしく役職名で呼ばれ、苛立つが反論できない。ゲーテは普段仕事をしているので、魔王城のどこにいるか分からないのだ。世話になるから働きたいと願い出た彼に「備品補充係」という役職を与えたのは、ルシファー自身だった。
魔王城で暮らすなら、さまざまな部署に顔を出す補充係は最適だ。施設の場所を覚えられる上、各部署の魔族とも顔見知りになれる。補充する関係上、必ず会話が発生するので、溶け込むチャンスだろう。ましてや、息子アミーの将来を考えるなら、魔王城内にツテや顔見知りを作るのは必然だ。
色々考えて役割を与えたのはいいが、お陰で彼の居場所は分からない。神出鬼没と表現しても構わないくらい、あちこちに突然現れて補充して不足をチェックして消えてしまう。先ほど侍従長であるベリアルに尋ねたが、彼もすれ違った記憶はあるものの現在地を知らなかった。
「……分かった、行ってこい」
その間、スイとルイの助けを借りながら、なんとか過ごすしかない。高速這い這いを披露するイヴの後ろを、リンが追いかけていく。さらにマーリーンが走って追い回した。何に夢中なのかと思えば、先頭を必死の形相で逃げるのは、ゴルティーである。
尻尾を掴まれそうになるたび、上にあげたり左右に振ったり、忙しく逃げる。捕まえることより、追いかけっこが目的のようで、子ども達は元気に旋回していた。反対回りして捕まえようとしない辺りが、彼ららしい。ここは放置して問題ないだろう。
キャロルが巨大なぬいぐるみによじのぼり、心配そうに兄ネイトが下から尻を支えている。
「お兄ちゃん、落ちちゃう!」
「頭を蹴らないで、キャロル。危ないからやめようよ」
げしげしと足蹴にされながらも耐える兄の姿は、家庭でのグシオンの立場を見ているようで辛い。シトリーは意外にもかかあ天下だと聞いていた。ルシファーは夫婦の縮図である兄妹から目を逸らす。
ルーシアの子ども達であるライラとアイカの姉妹は、大人しく人形遊びをしていた。言葉にすると穏やかなようだが、実際は人形の手足を掴んで振り回す妹アイカ。壊れた人形を直そうと頑張る姉ライラという光景だった。
大人しく言いつけを守る子どもなど気味が悪いので、魔族の育て方は放任主義だった。その結果、自由奔放すぎて保育園で先生方が苦労する羽目になる。この子達もいずれ、保育園の先生達が悩む案件になるだろう。
現実逃避するルシファーへ、ルイが助けを求めた。
「魔王様! イヴ姫が大変です」
「あっ! イヴ、それはダメだ。離しなさい」
言われて我に返ったルシファーの目に映ったのは、捕まえたゴルティーの尻尾を齧る娘の姿だった。いくら愛娘が可愛くても、この状況では叱る対象がイヴになる。
半泣きでヒンヒン情けない声をあげるゴルティーは、リンにも噛まれていた。幼い子はなんでも口に入れる習性がある。それは歯が生え始めると、より顕著になった。リリスの時も、いろいろ齧って騒動を起こしたものだ。
駆け寄ってイヴを抱き上げ、噛んではいけないと言い聞かせる。その間にルイがリンを回収した。騒動に気づいたライラが、泣き続けるゴルティーの尻尾を癒やし始める。
水の精霊であるライラは、治癒に長けていた。母親ルーシア譲りの、慈愛に満ちた微笑みに、ゴルティーはうっとり見惚れる。それが面白くないのか、イヴが威嚇するように「めっ!」を連発した。
「ルシファー様、この部屋に大人がいなくなります」
スイやルイも成人するには遠い。だが、アスタロトがいるではないか。そう首を傾げたルシファーへ、アスタロトは淡々と言い聞かせた。
「いいですか? 私はこれからゲーテを探しに執務室を出ます。ベルゼビュートを呼んで鱗粉をもらうだけなら、ルシファー様がここに残ってください」
「くそっ、嵌めたな!」
「口が悪いですよ、魔王陛下」
嫌味ったらしく役職名で呼ばれ、苛立つが反論できない。ゲーテは普段仕事をしているので、魔王城のどこにいるか分からないのだ。世話になるから働きたいと願い出た彼に「備品補充係」という役職を与えたのは、ルシファー自身だった。
魔王城で暮らすなら、さまざまな部署に顔を出す補充係は最適だ。施設の場所を覚えられる上、各部署の魔族とも顔見知りになれる。補充する関係上、必ず会話が発生するので、溶け込むチャンスだろう。ましてや、息子アミーの将来を考えるなら、魔王城内にツテや顔見知りを作るのは必然だ。
色々考えて役割を与えたのはいいが、お陰で彼の居場所は分からない。神出鬼没と表現しても構わないくらい、あちこちに突然現れて補充して不足をチェックして消えてしまう。先ほど侍従長であるベリアルに尋ねたが、彼もすれ違った記憶はあるものの現在地を知らなかった。
「……分かった、行ってこい」
その間、スイとルイの助けを借りながら、なんとか過ごすしかない。高速這い這いを披露するイヴの後ろを、リンが追いかけていく。さらにマーリーンが走って追い回した。何に夢中なのかと思えば、先頭を必死の形相で逃げるのは、ゴルティーである。
尻尾を掴まれそうになるたび、上にあげたり左右に振ったり、忙しく逃げる。捕まえることより、追いかけっこが目的のようで、子ども達は元気に旋回していた。反対回りして捕まえようとしない辺りが、彼ららしい。ここは放置して問題ないだろう。
キャロルが巨大なぬいぐるみによじのぼり、心配そうに兄ネイトが下から尻を支えている。
「お兄ちゃん、落ちちゃう!」
「頭を蹴らないで、キャロル。危ないからやめようよ」
げしげしと足蹴にされながらも耐える兄の姿は、家庭でのグシオンの立場を見ているようで辛い。シトリーは意外にもかかあ天下だと聞いていた。ルシファーは夫婦の縮図である兄妹から目を逸らす。
ルーシアの子ども達であるライラとアイカの姉妹は、大人しく人形遊びをしていた。言葉にすると穏やかなようだが、実際は人形の手足を掴んで振り回す妹アイカ。壊れた人形を直そうと頑張る姉ライラという光景だった。
大人しく言いつけを守る子どもなど気味が悪いので、魔族の育て方は放任主義だった。その結果、自由奔放すぎて保育園で先生方が苦労する羽目になる。この子達もいずれ、保育園の先生達が悩む案件になるだろう。
現実逃避するルシファーへ、ルイが助けを求めた。
「魔王様! イヴ姫が大変です」
「あっ! イヴ、それはダメだ。離しなさい」
言われて我に返ったルシファーの目に映ったのは、捕まえたゴルティーの尻尾を齧る娘の姿だった。いくら愛娘が可愛くても、この状況では叱る対象がイヴになる。
半泣きでヒンヒン情けない声をあげるゴルティーは、リンにも噛まれていた。幼い子はなんでも口に入れる習性がある。それは歯が生え始めると、より顕著になった。リリスの時も、いろいろ齧って騒動を起こしたものだ。
駆け寄ってイヴを抱き上げ、噛んではいけないと言い聞かせる。その間にルイがリンを回収した。騒動に気づいたライラが、泣き続けるゴルティーの尻尾を癒やし始める。
水の精霊であるライラは、治癒に長けていた。母親ルーシア譲りの、慈愛に満ちた微笑みに、ゴルティーはうっとり見惚れる。それが面白くないのか、イヴが威嚇するように「めっ!」を連発した。
50
あなたにおすすめの小説
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる