【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
225 / 530
第13章 海は新たな楽園か

223.仕事を抱え過ぎたベールの実態

しおりを挟む
 積み上げられた大量の書類に、ルシファーは溜め息を吐いた。今まで知らなかったのだ。自分の元へ一番書類が集まるのだと認識してきたが、実際はアスタロトやベールの処理量の方が多かった。

 最終的な決定が必要な書類以外、些末な承認や単純な許認可に関して事務官を統括するアスタロトに集まる。それは武官を監督するベールも同様だった。どちらも驚く量を処理し、返却し、棄却している。ベールの分だけでも、かなりの書類が回された。

 ルキフェルが顔色を失った理由にようやく気付き、渋々手を伸ばす。ベールが現場で仕事をしている以上、未処理は魔王城に残った者が分担するのが当然だった。まさか疲れて戻った彼にやらせるわけにいかない。この辺の責任感や意識は、きちんとしている魔王である。

「……まず書式がおかしい」

「こっちも」

 ルシファーが不備を指摘すると、ソファで報告書を捲ったルキフェルも眉を寄せた。執務室の透明の壁の向こう側では、リリスとイヴが楽しく遊んでいる。周囲にゴルティーやアイカも転がり、今日は保育室が大活躍だった。

 ちらっと視線を向けて、羨ましいと溜め息を吐く。魔王妃の仕事に、書類関係はほとんどない。彼女の受け持ち分野は報告されることはあっても、許認可関係が存在しない。それに加え、リリスに任せると何でも許可する悪い癖があった。

 危険なので、報告書を読んで各部署へ回す以外の書類はリリスに回らない。つまり彼女は書類処理能力がほぼ皆無と見做されていた。お陰で、ベールの書類処理の一端を担うことがなかった。数字以外は役に立たないベルゼビュートも現場に飛ばされている。

「オレが現場に志願すればよかった」

「それは僕のセリフだよ。ったく、なんで最初に魅了されたんだろ」

 ぶつぶつとぼやくルキフェルは、乱暴に前髪をかき上げる。うっかり海へ誘われたため、過保護なベールによって海接近禁止令が出た。心配されるのは嬉しいが、現場で敵探しや原理の探求が出来ないことが残念で仕方ない。

 手元の書類を淡々と左右に分けていく。恐ろしいことに半分以上が不備書類だった。

「アスタロト。ほとんど不備だぞ」

「不備を指摘して、付箋を付けて返すのが仕事です」

「……なにそれ」

 仕分けが終わったと声を上げる魔王へ、淡々と文官筆頭は仕事を言い渡す。呆れ顔のルキフェルが溜め息をついた。

「付箋? そんなことしてるの?」

「ベールの仕事を預かる以上、同じ手法でお願いします」

「道理で、いつもベールの仕事量がおかしいと思った」

 分担したはずなのに、文官でもないベールの机に積まれる書類が多過ぎた。時間内に処理している様子だったので、それほど重要な書類ではないのかと勘違いしたルキフェルは、今になってうんざりした顔で書類の山を崩す。

「こんなにあるなら、僕に回せばよかったのに」

 アスタロトはすでに書類に埋もれている。もしベルゼビュートに頼んだら、提出時間内に終わらないだろう。だから僕に回せばいい。ベールと一緒なら僕は残業しても平気だったのに。研究で徹夜慣れした瑠璃竜王は唇を尖らせた。

 内緒にされていたことが、まるで「子どもだから」と言われたようで気に入らない。過保護な銀髪の保護者を思い浮かべ、水色の瞳を細めた。むっとしている間も、手元の書類は分類されていく。

「別に隠したんじゃないと思うぞ。ベールは不器用だからな……あと少し、このくらいなら、と引き受けているうちに限界まで溜め込んだんだろう」

「ふーん、あっそ。よくご存じで」

 ルキフェルはさらに不満そうな口調で肩を竦める。いつも一緒にいて、大切にされた養い子の僕よりベールのことを知った顔をされるの、気に入らない。感情に正直なルキフェルに、アスタロトは無言で首を横に振った。

 余計なことを言わない方が被害が少ない。察したルシファーも、口を突きかけた言い訳を飲み込んで書類に挑んだ。この日の執務室は遅くまで灯りが消えることはなかったとか。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...