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第16章 魔王様の育児論
277.焦るほど嘘くさい
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手を打った草原で爆発があり、噴火だと確認されたのは夜のことだった。予定通り、温泉街の屋敷で露天風呂を楽しんでいるところに、ルキフェルが報告書を持ち込んだ。
「珍しいな」
普段はアスタロトが来るのに。そう首を傾げたら、呆れたように言われた。
「忘れたの? もう休暇に入ったよ。今回は二ヶ月寝倒すみたいだし」
意味ありげに後半を濁した。アデーレも途中から、休暇をとって合流するんだっけ? にやりと笑い合い、報告書の被害状況を確認する。魔王軍によって閉鎖された地域なので、人的被害はなかった。ここから先の復旧に関しては、アムドゥスキアスが担当になる。
「アドキスと相談して、復旧の手配をしないと」
「うーん、今回は人的被害がないよね。それと観光地だったり草原だから、予想される今後の被害もないんだ。魔族の生息地と離れてるから、ある程度放置して収まったら手を加えるのが早いかな」
「そうか。なら数ヶ月は様子見しよう」
リリスとイヴを先に上がらせた風呂で、ルシファーはのんびりと寛ぐ。ルキフェルも当たり前のように、隣で湯に浸かった。
「ところで、リリス達と喧嘩したの?」
「いいや。どうしてだ?」
「一緒に入ってないから」
ずばりと指摘され、ルシファーは慌てて言い募った。焦れば焦るほど、怪しく見えるのを忘れている。
「あ、えっと、リリスは先に上がったんだ。イヴがのぼせて、そう……それだけだぞ」
「ふーん。どんまい」
ぽんと肩を叩きながら、付け加えられた言葉は、日本人が持ち込んだ「気にするなよ」という慰めだった。確実に、怒ったリリスに置いて行かれた可哀想な夫扱いだ。
「そうじゃない。本当にイヴがのぼせたんだ」
「うん、分かってる。それでいいから……座らないとアレコレ丸見えだよ」
ざぶんとまた湯に浸かる。なぜか負けたような気がする。そうじゃないのに……本当の本当なんだぞ。ぶつぶつと文句を言うルシファーを揶揄いながら、久しぶりに温泉を堪能したルキフェルは明るく帰っていった。
屋敷の部屋に入れば、イヴに魔法で風を送るリリスが子守唄を口遊んでいる。ほのぼのした光景なのに、音が微妙な外れ方をするせいで落ち着かなかった。それはイヴも同じようで、閉じた目をちらちらと開けては、母の顔を窺う。音がズレてると指摘していいか、迷っている顔だった。
「イヴ」
小声で呼んで首を横に振る。それで通じたらしい。イヴはぎゅっと目を閉じた。寝たふりをする我が子の黒髪を撫で、リリスの隣に腰掛けた。
「また噴火したのね」
「ああ。聞こえたか……予想して手を打ったお陰で、誰もケガをしていない。魔の森が少し焦げたが、リリンは無事だろうか」
「連絡がないから、平気ね。明日の視察は現場?」
草原の現場視察をするのかと尋ねられ、否定した。すでに魔王軍が報告書をあげたのに、上司が乗り込んだら傷つけてしまう。彼らの報告書は信用に足る内容で、疑い確認する必要はなかった。
「予定通り、温泉街を見て回って帰ろう」
噴火で予定は多少狂ったが、魔王城経由になった視察は継続だ。アスタロトも休暇直前に呼び出されたものの、そのまま城に帰った。大きな問題はない。
「イヴがね、パパと一緒に眠りたいんですって」
「ん? それは嬉しいな。3年で忘れられなくて良かった」
幼い娘に「あんた誰」と言われたら、世を儚みそうな魔王へ、妃はからりと笑った。
「実はね、一度忘れちゃって! 過去の映像を見せて思い出させたのよ」
冗談か本当か判断できず、でもリリスが言うなら事実だろうと飲み込む。自業自得の切ない感情は、苦く感じた。
「珍しいな」
普段はアスタロトが来るのに。そう首を傾げたら、呆れたように言われた。
「忘れたの? もう休暇に入ったよ。今回は二ヶ月寝倒すみたいだし」
意味ありげに後半を濁した。アデーレも途中から、休暇をとって合流するんだっけ? にやりと笑い合い、報告書の被害状況を確認する。魔王軍によって閉鎖された地域なので、人的被害はなかった。ここから先の復旧に関しては、アムドゥスキアスが担当になる。
「アドキスと相談して、復旧の手配をしないと」
「うーん、今回は人的被害がないよね。それと観光地だったり草原だから、予想される今後の被害もないんだ。魔族の生息地と離れてるから、ある程度放置して収まったら手を加えるのが早いかな」
「そうか。なら数ヶ月は様子見しよう」
リリスとイヴを先に上がらせた風呂で、ルシファーはのんびりと寛ぐ。ルキフェルも当たり前のように、隣で湯に浸かった。
「ところで、リリス達と喧嘩したの?」
「いいや。どうしてだ?」
「一緒に入ってないから」
ずばりと指摘され、ルシファーは慌てて言い募った。焦れば焦るほど、怪しく見えるのを忘れている。
「あ、えっと、リリスは先に上がったんだ。イヴがのぼせて、そう……それだけだぞ」
「ふーん。どんまい」
ぽんと肩を叩きながら、付け加えられた言葉は、日本人が持ち込んだ「気にするなよ」という慰めだった。確実に、怒ったリリスに置いて行かれた可哀想な夫扱いだ。
「そうじゃない。本当にイヴがのぼせたんだ」
「うん、分かってる。それでいいから……座らないとアレコレ丸見えだよ」
ざぶんとまた湯に浸かる。なぜか負けたような気がする。そうじゃないのに……本当の本当なんだぞ。ぶつぶつと文句を言うルシファーを揶揄いながら、久しぶりに温泉を堪能したルキフェルは明るく帰っていった。
屋敷の部屋に入れば、イヴに魔法で風を送るリリスが子守唄を口遊んでいる。ほのぼのした光景なのに、音が微妙な外れ方をするせいで落ち着かなかった。それはイヴも同じようで、閉じた目をちらちらと開けては、母の顔を窺う。音がズレてると指摘していいか、迷っている顔だった。
「イヴ」
小声で呼んで首を横に振る。それで通じたらしい。イヴはぎゅっと目を閉じた。寝たふりをする我が子の黒髪を撫で、リリスの隣に腰掛けた。
「また噴火したのね」
「ああ。聞こえたか……予想して手を打ったお陰で、誰もケガをしていない。魔の森が少し焦げたが、リリンは無事だろうか」
「連絡がないから、平気ね。明日の視察は現場?」
草原の現場視察をするのかと尋ねられ、否定した。すでに魔王軍が報告書をあげたのに、上司が乗り込んだら傷つけてしまう。彼らの報告書は信用に足る内容で、疑い確認する必要はなかった。
「予定通り、温泉街を見て回って帰ろう」
噴火で予定は多少狂ったが、魔王城経由になった視察は継続だ。アスタロトも休暇直前に呼び出されたものの、そのまま城に帰った。大きな問題はない。
「イヴがね、パパと一緒に眠りたいんですって」
「ん? それは嬉しいな。3年で忘れられなくて良かった」
幼い娘に「あんた誰」と言われたら、世を儚みそうな魔王へ、妃はからりと笑った。
「実はね、一度忘れちゃって! 過去の映像を見せて思い出させたのよ」
冗談か本当か判断できず、でもリリスが言うなら事実だろうと飲み込む。自業自得の切ない感情は、苦く感じた。
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