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第25章 蘇った過去の思い出
451.イヴは保育園を選んだ
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リリスはシャイターンを抱いてイヴの手を握り、ルシファーを連れて庭に出た。エルフが整えた花壇や芝生を越え、魔の森の木を選んで根元に座る。
「ルシファーも来て」
「わかった」
素直に隣へ座った。背を預ける形で木に寄り掛かる。護衛のヤンは少し離れた場所で丸まった。イヴの護衛である子狼は、サロメと名付けた。まだ自分の名前と認識できておらず、たまに返事をしないが。そのうち慣れるだろう。
子狼のうちは濃灰色をしているが、途中で色が変わる。その変化で最終的な魔力量と群れでの地位が決まるのだ。魔獣は完全に実力主義が徹底されており、長の血族でも魔力や実力が足りなければ、跡を継ぐことは許されなかった。
「アシュタのために、お母様にお願いをするの。もうすぐ目覚めるから、魔力は満ちているのよ。だから少しだけ呪いを薄めてくださいって」
「それは素敵な願い事だ。叶えてくれるよう、リリンに祈ろうか」
二人で目を閉じて手を繋ぐ。魔の森の木を通じて、リリンへ祈った。その結果が魔の森の奇跡に繋がるのだが、そこまで即効性が高いとは……。リリンはとことん、ルシファーに甘いのだ。彼らが結果を知るのは、数日後だった。
森のざわざわした音に寛ぎ、魔王一家が部屋に戻るのは数時間後。途中で眠ってしまったイヴは、サロメを抱いてヤンの背に揺られた。
翌日アスタロトがきちんと休暇を取ったので、ルシファーが執務室に詰めることになる。彼が登城すれば、交代でルシファーは視察に出る予定だった。もちろん、妻子を連れて行く予定だが……ここでまさかの発言が飛び出す。
「行かない」
「え?」
視察に同行すると思っていたので、驚きすぎて固まる。ルシファーへイヴは再び繰り返した。
「私は保育園行くんだもん」
「父離れが早すぎる」
半泣きで膝を突く魔王。ある意味、魔王チャレンジの強者より、イヴの一言の威力が大きい。どんな勇者が戦いを挑んでも、膝を屈したことはない。最強と自称する神龍も跳ね除け、力自慢の巨人族を叩きのめした魔王だが、娘には勝てなかった。
「私が小さい頃は一緒に行くのが楽しかったけど、やっぱり個性なのね」
リリスはけろりと受け入れた。魔王城は侍女長アデーレが育児休暇中でも、しっかり機能する。彼女の指導の賜物ではあるが、侍女のレベルは高かった。食事や着替え、風呂を任せることも可能だ。
「……視察行かない」
むすっとした口調でルシファーが拗ねる。育児書に書いてあった。一般的に娘が父親とお風呂に入ったり、仲良く過ごす期間は短いのだと。ならば僅かな時間を取りこぼすことは出来ない。
「なぜ?」
きょとんとした顔のリリスに、ヤンが説明する。父親の複雑な心境とお風呂や就寝を共にしたい思いを、解説付きで伝えた。しっかり納得したリリスは、思わぬ言葉を吐き出す。
「だって、視察は転移で行くのでしょう? 泊まらず帰ってくればいいじゃない」
「……泊まらず?」
「ええ。昔もそうだったでしょう。ご飯やお風呂は帰ってくればいいのよ」
目から鱗というか、なぜ思いつかなかったのか。一瞬で移動が可能なら、イヴが保育園にいる間に視察を終わらせればいい。彼女が帰ってくるのに合わせて、自分達も城に帰ればいいのだ。
「そうだな、そうしよう!」
夫婦の会話を無視し、イヴは部屋の隅で服を選んでいた。明日は何を着て行くか。とても真剣に悩む。選んだのは、明るい緑のワンピースだった。ミントと呼ぶには濃い色だが、若草色に近いだろうか。裾に黄色い糸で刺繍が入っている。
「これ着てく!」
「わかった、リボンはこれでいいか?」
慣れた様子でルシファーがリボンや下着を揃え、隣へ置いた。最近は自分の身の回りのことを、人任せにしないイヴ。成長が見られて嬉しいルシファーは、笑顔で付き合った。
「以前もこんな光景を見ましたな……っと、我は退室しますぞ」
余計な発言で睨まれ、サロメの首を咥えたヤンはいそいそと出ていく。寝床にしている城門脇の小屋から見上げた空には、立派な月が二つ。半分ほど雲が隠しているので、明日は雨らしい。ひとつ欠伸をして、子狼を巻き込んで丸まった。
「ルシファーも来て」
「わかった」
素直に隣へ座った。背を預ける形で木に寄り掛かる。護衛のヤンは少し離れた場所で丸まった。イヴの護衛である子狼は、サロメと名付けた。まだ自分の名前と認識できておらず、たまに返事をしないが。そのうち慣れるだろう。
子狼のうちは濃灰色をしているが、途中で色が変わる。その変化で最終的な魔力量と群れでの地位が決まるのだ。魔獣は完全に実力主義が徹底されており、長の血族でも魔力や実力が足りなければ、跡を継ぐことは許されなかった。
「アシュタのために、お母様にお願いをするの。もうすぐ目覚めるから、魔力は満ちているのよ。だから少しだけ呪いを薄めてくださいって」
「それは素敵な願い事だ。叶えてくれるよう、リリンに祈ろうか」
二人で目を閉じて手を繋ぐ。魔の森の木を通じて、リリンへ祈った。その結果が魔の森の奇跡に繋がるのだが、そこまで即効性が高いとは……。リリンはとことん、ルシファーに甘いのだ。彼らが結果を知るのは、数日後だった。
森のざわざわした音に寛ぎ、魔王一家が部屋に戻るのは数時間後。途中で眠ってしまったイヴは、サロメを抱いてヤンの背に揺られた。
翌日アスタロトがきちんと休暇を取ったので、ルシファーが執務室に詰めることになる。彼が登城すれば、交代でルシファーは視察に出る予定だった。もちろん、妻子を連れて行く予定だが……ここでまさかの発言が飛び出す。
「行かない」
「え?」
視察に同行すると思っていたので、驚きすぎて固まる。ルシファーへイヴは再び繰り返した。
「私は保育園行くんだもん」
「父離れが早すぎる」
半泣きで膝を突く魔王。ある意味、魔王チャレンジの強者より、イヴの一言の威力が大きい。どんな勇者が戦いを挑んでも、膝を屈したことはない。最強と自称する神龍も跳ね除け、力自慢の巨人族を叩きのめした魔王だが、娘には勝てなかった。
「私が小さい頃は一緒に行くのが楽しかったけど、やっぱり個性なのね」
リリスはけろりと受け入れた。魔王城は侍女長アデーレが育児休暇中でも、しっかり機能する。彼女の指導の賜物ではあるが、侍女のレベルは高かった。食事や着替え、風呂を任せることも可能だ。
「……視察行かない」
むすっとした口調でルシファーが拗ねる。育児書に書いてあった。一般的に娘が父親とお風呂に入ったり、仲良く過ごす期間は短いのだと。ならば僅かな時間を取りこぼすことは出来ない。
「なぜ?」
きょとんとした顔のリリスに、ヤンが説明する。父親の複雑な心境とお風呂や就寝を共にしたい思いを、解説付きで伝えた。しっかり納得したリリスは、思わぬ言葉を吐き出す。
「だって、視察は転移で行くのでしょう? 泊まらず帰ってくればいいじゃない」
「……泊まらず?」
「ええ。昔もそうだったでしょう。ご飯やお風呂は帰ってくればいいのよ」
目から鱗というか、なぜ思いつかなかったのか。一瞬で移動が可能なら、イヴが保育園にいる間に視察を終わらせればいい。彼女が帰ってくるのに合わせて、自分達も城に帰ればいいのだ。
「そうだな、そうしよう!」
夫婦の会話を無視し、イヴは部屋の隅で服を選んでいた。明日は何を着て行くか。とても真剣に悩む。選んだのは、明るい緑のワンピースだった。ミントと呼ぶには濃い色だが、若草色に近いだろうか。裾に黄色い糸で刺繍が入っている。
「これ着てく!」
「わかった、リボンはこれでいいか?」
慣れた様子でルシファーがリボンや下着を揃え、隣へ置いた。最近は自分の身の回りのことを、人任せにしないイヴ。成長が見られて嬉しいルシファーは、笑顔で付き合った。
「以前もこんな光景を見ましたな……っと、我は退室しますぞ」
余計な発言で睨まれ、サロメの首を咥えたヤンはいそいそと出ていく。寝床にしている城門脇の小屋から見上げた空には、立派な月が二つ。半分ほど雲が隠しているので、明日は雨らしい。ひとつ欠伸をして、子狼を巻き込んで丸まった。
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