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第27章 春の芽吹き
479.承諾したけれど不満は隠せない
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翌朝、執務室はやたらと重い空気に包まれていた。というか、一人が延々と愚痴をこぼす。昨夜は義娘一家と団らんの時間を過ごしたんじゃないのか? なぜ機嫌が悪い。
ルシファーはアスタロトを遠巻きにしながら、ベルゼビュートの用意したお茶を口にする。
「これは……何の味だ?」
「ドクダミですわ。ハーブの一種でお茶にすると教えてもらいましたの」
にこにこと機嫌のいいベルゼビュートには悪いが、口に合わない。独特の香りも鼻についた。そっと収納空間へ流し込んだ。後できちんと捨てなければ、忘れた頃に別の収納品と一緒に出てきそうだ。代わりに収納から取り出した茶葉をカップの中で蒸らした。
魔法でお湯を沸かしてじっくり香りと味を出し、水色を確認してから茶葉だけ収納へ戻す。ゴミを散らかさないのは立派だが、ルシファーの収納内に保管されたゴミの量を考えると……ぞっとする。
結局捨て忘れて、数千年そのまま保管することも少なくなかった。収納に使う亜空間の時間が止まることが唯一の救いだった。そうでなければ、カビだらけだろう。
香りの強いドクダミ茶を飲むベルゼビュートが交換に気づいてないのを確認し、隣で欠伸する妻リリスのお茶も入れ替えた。匂いを確認し、いつもの紅茶と判断したリリスが一口飲む。
「アシュタはどうして機嫌悪いのかしら」
「一度は納得したが、やっぱり危険だと唸ってるんじゃないか?」
他に心当たりはない。ルシファーの投げやりな推測は、大当たりだった。口の中でもごもごと繰り返される愚痴は、危険な任務を任せるに至った経緯や犯人への怨嗟に満ちていた。
そもそもが、魔王軍がもっと早くに犯人を捕獲していればよかったのだ。ルーサルカが心配して、囮に名乗りを上げることもなかった。承認してしまった以上、今さら撤回はしないが……気に入らない。最初から最後まで影に潜む決意をして、アスタロトは怨嗟の声を止めた。
同時にノックの音が響く。
「おはようございます。よろしくお願いします」
礼儀正しく入室したのは、今回の囮役であるルーサルカだった。夫アベルも同行している。
「おはよう。面倒な役をお願いするが、よろしく頼む」
ルシファーが応じると、彼女は嬉しそうに頷いた。過去に親から見捨てられた経験は、ルーサルカの性格形成に大きな影響を与えている。誰かに頼られたり、役に立つことに意義を見出すのだ。
人族の母親は彼女を放棄したが、もし魔族として魔の森に育っていたら、そんな不快な記憶はなかっただろう。たとえ犯罪者の子であろうと、魔族に差別意識はないのだから。運が悪かったとしか表現しようがない。
「ルカ、おはよう」
「おはようございます、リリス様」
にこにこと挨拶を交わす二人を前に、アスタロトは何か言いかけて呑み込む。やっぱりやめて欲しいのが本音だった。その辺はルシファーも理解できるので、もしルーサルカが中止を申し出たら受け入れる気だ。
「囮の件だが」
やめてもいいんだぞ。そう続ける前に、勢い込んだルーサルカが遮った。
「頑張ります!」
「あ……うん、頼む」
それ以上、ルシファーに何が言えただろう。同じように我慢したアスタロトは、逆に守り抜く決意を固めていた。昨夜、妻アデーレにもしっかり約束している。ルーサルカにケガを負わせず、確実に守ると。
作戦はあまり複雑にしなかった。相手の種族や得意な武器もわからぬうちに、詳細な計画を立てても無駄に終わることが多い。経験から、行き当たりばったりに近い計画になった。だが、逃げるべき場面については、念入りに教え込む。
「任せて、お義父様」
ここで敢えて「アスタロト大公閣下」と呼ばない辺り、ルーサルカは義父の扱いがうまい。
「では転移で現場付近へ移動します」
広い魔の森に散らばる獣人族の街や集落、そのひとつに向けて全員で飛んだ。
ルシファーはアスタロトを遠巻きにしながら、ベルゼビュートの用意したお茶を口にする。
「これは……何の味だ?」
「ドクダミですわ。ハーブの一種でお茶にすると教えてもらいましたの」
にこにこと機嫌のいいベルゼビュートには悪いが、口に合わない。独特の香りも鼻についた。そっと収納空間へ流し込んだ。後できちんと捨てなければ、忘れた頃に別の収納品と一緒に出てきそうだ。代わりに収納から取り出した茶葉をカップの中で蒸らした。
魔法でお湯を沸かしてじっくり香りと味を出し、水色を確認してから茶葉だけ収納へ戻す。ゴミを散らかさないのは立派だが、ルシファーの収納内に保管されたゴミの量を考えると……ぞっとする。
結局捨て忘れて、数千年そのまま保管することも少なくなかった。収納に使う亜空間の時間が止まることが唯一の救いだった。そうでなければ、カビだらけだろう。
香りの強いドクダミ茶を飲むベルゼビュートが交換に気づいてないのを確認し、隣で欠伸する妻リリスのお茶も入れ替えた。匂いを確認し、いつもの紅茶と判断したリリスが一口飲む。
「アシュタはどうして機嫌悪いのかしら」
「一度は納得したが、やっぱり危険だと唸ってるんじゃないか?」
他に心当たりはない。ルシファーの投げやりな推測は、大当たりだった。口の中でもごもごと繰り返される愚痴は、危険な任務を任せるに至った経緯や犯人への怨嗟に満ちていた。
そもそもが、魔王軍がもっと早くに犯人を捕獲していればよかったのだ。ルーサルカが心配して、囮に名乗りを上げることもなかった。承認してしまった以上、今さら撤回はしないが……気に入らない。最初から最後まで影に潜む決意をして、アスタロトは怨嗟の声を止めた。
同時にノックの音が響く。
「おはようございます。よろしくお願いします」
礼儀正しく入室したのは、今回の囮役であるルーサルカだった。夫アベルも同行している。
「おはよう。面倒な役をお願いするが、よろしく頼む」
ルシファーが応じると、彼女は嬉しそうに頷いた。過去に親から見捨てられた経験は、ルーサルカの性格形成に大きな影響を与えている。誰かに頼られたり、役に立つことに意義を見出すのだ。
人族の母親は彼女を放棄したが、もし魔族として魔の森に育っていたら、そんな不快な記憶はなかっただろう。たとえ犯罪者の子であろうと、魔族に差別意識はないのだから。運が悪かったとしか表現しようがない。
「ルカ、おはよう」
「おはようございます、リリス様」
にこにこと挨拶を交わす二人を前に、アスタロトは何か言いかけて呑み込む。やっぱりやめて欲しいのが本音だった。その辺はルシファーも理解できるので、もしルーサルカが中止を申し出たら受け入れる気だ。
「囮の件だが」
やめてもいいんだぞ。そう続ける前に、勢い込んだルーサルカが遮った。
「頑張ります!」
「あ……うん、頼む」
それ以上、ルシファーに何が言えただろう。同じように我慢したアスタロトは、逆に守り抜く決意を固めていた。昨夜、妻アデーレにもしっかり約束している。ルーサルカにケガを負わせず、確実に守ると。
作戦はあまり複雑にしなかった。相手の種族や得意な武器もわからぬうちに、詳細な計画を立てても無駄に終わることが多い。経験から、行き当たりばったりに近い計画になった。だが、逃げるべき場面については、念入りに教え込む。
「任せて、お義父様」
ここで敢えて「アスタロト大公閣下」と呼ばない辺り、ルーサルカは義父の扱いがうまい。
「では転移で現場付近へ移動します」
広い魔の森に散らばる獣人族の街や集落、そのひとつに向けて全員で飛んだ。
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