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第1章 追っても逃げない獲物

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 まだ幼さの残る16歳前後の青年が――ここの主?!

 驚いてまじまじと顔を見つめ、ライアンは肩を竦める。揶揄からかわれていると判断し、机の上にナイフを置いた。

「じゃ、おまえが吸血鬼ってコト? 冗談はいい加減にしてくれよ。奴らは陽光の下じゃ、活動できないんだぜ」

 窓際まで歩いて、カーテンを完全に開け払った。降り注ぐ初夏の陽光は強く、室内に燦燦さんさんと降り注ぐ。

 ソファーに悠然と座ったまま、その日差しの中で紅茶を飲む青年の姿に、ライアンはにやっと笑う。

「名を聞いても構わないか?」

 じっと見つめる視線に、透き通った紅い瞳が合わせられる。真正面から見つめると、吸い込まれるような印象があった。

 夕焼けの色と同じだな……ふと思う。おかげで、問いかけられていたことに気づくのが遅れてしまった。

「ああ、悪い……ライアンだ」

 確かに名乗るのが礼儀だろうと、窓枠に寄りかかったライアンは人懐っこい笑みで、シリルと名乗った青年を振り返る。揺れる長い三つ編みを背に弾いた。

 興味深そうにライアンを見つめるシリルは窓際まで歩み寄り、ライアンの三つ編みの先に手を伸ばす。

 陽光に眩しそうに目を細めたが、気にした様子はなかった。ただ普段から日差しを浴びないのか、不健康さを感じさせるほど……白い肌。

 健康的に日焼けしたライアンと比べるまでもなく、透き通るように白かった。

「この三つ編みは? 何故こんなに伸ばしている?」

 質問攻めの子供に、ライアンはくしゃっとシリルの髪をかき乱す。

「これは決意の表れ――戒めかな。吸血鬼がこの世から消えたら、切るつもり」

「解いても?」

「構わないぜ」

 髪を止めていたゴムを切ったシリルの爪に、ライアンは既視感に襲われて視線を伏せる。ふと、強い日差しが雲に遮られた。

 先ほどまでの晴天が嘘みたいに、天候が崩れ始めている。

 雨が降りそうな空模様を見つめるライアンの髪が、ふわりと広がった。指で髪を梳いているシリルの指が、首筋に触れる。ひやりと冷たい感触に、どきっとした。

「すぐに雨が降るだろう。泊まって行くといい」

「……ここに?」

 言外に吸血鬼の住む城に今夜泊まるのか? と尋ねるライアンは、シリルの次の言葉に目をみはった。

「ああ、吸血鬼と一緒では怖いのか」
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