【完結】紅く染まる夜の静寂に ~吸血鬼はハンターに溺愛される~

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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第2章 呼ばれざる客の訪問

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 紅茶を飲むシリルの肩を抱きながら、ライアンがカップを手にする。

「よく、コーヒーなど飲めるな」

 コーヒーの苦さが嫌いなシリルの言葉に、思わずカップの中身を眺める。濃茶色の液体をあまり苦いと感じていないライアンにしてみれば、シリルの感想は大げさなのでは? と思うのだ。

「そう? イケるけどね」

 一度飲ませて顔を顰められた上、泥水呼ばわりされたので、もう勧める気はない。だが、コーヒーの香り自体は嫌いではないらしく、ライアンが飲むこと自体は反対しなかった。

 沈んだ夕日の名残が消えて、夜の時間がやってくる。遠い街の明かりはぼんやりと森の向こうで、静かに降ってくる月光だけが部屋を照らし出していた。

「三日月か」

 触れたら切れそうなナイフに似た形の月を見つめ、全体に青く見える風景に目を凝らす。シリルは優雅な仕草で紅茶のカップを置くと、隣のライアンの肩に頭を預けた。

 幼い仕草は、ここ1年ほどで見せ始めたシリルの甘えだ。ハンターとして古城に訪れたライアンが一緒に暮らし始めて、すでに3年近い月日が経過していた。

  ガチャン

 ガラスの割れるような音が響いて、シリルが眉を顰める。その不快そうな雰囲気から、どうやら人間の侵入だと容易に判断がついた。

 古城内の出来事をほぼ把握出来る吸血鬼の能力は、ライアンには計り知れない。しかし満月から新月に向けて、月の満ち欠けで能力の強弱が現れることくらいは知っていた。

 今日は三日月――新月ほどでないにしろ、シリルの力は弱まっている。

「シリルも一緒に来る?」

 首を振って一緒に行くと示す黒髪の少年に、ライアンは笑顔で頷いて立ち上がる。シリルの手を取って歩き始めた脳裏に過ぎったのは、3ヶ月ほど前に起きた事件だった。

 飛び込んだハンターは二手に別れ、ライアンと離れて1人だったシリルを襲ったのだ。

 満月に近い月齢だったので、幸い何もなかった。もちろん純血種の能力を持ってすれば、新月であっても人間に遅れは取らないと思う。

 しかしあの事件以後、ライアンはシリルを1人にすることが、ほとんど無くなった。失うことの恐怖を、心の奥に植え付けられてしまったのだ。

「あちらだ」

 シリルが指差すのは、1階の庭に面した客間の方角だった。シリルに合わせて歩きながら、ライアンは腰のベルトに差したナイフの存在を確認する。覚醒したライアンの能力ならば、人間相手に得物は必要ないのだが、彼は素手で相手の命を奪うことを嫌っていた。
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