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第6章 狙われた同胞を救え
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※流血表現があります。
***************************************
「……っ」
腕をナイフが掠める。横に薙いだ動きで血が噴出し、アイザックの薄茶の髪を赤く染めていく。痛みに噛み締めた歯が、ぎりっと音を立てた。乾き始めた傷を抉りながら、ナイフは数箇所を深く切り裂いた。
「せいぜい役に立ってくれよ」
すでにアイザックを人として見ていないのだろう。顎鬚を弄りながら、男は商品である青年に突き刺したナイフを引き抜くと、踵を返して部屋を後にする。ドアの閉まる音と同時に、部屋は暗闇に戻った。
再び赤が滴り始める傷は、だんだんと塞がるまでの時間が長くなっている。元は人間であり、不死の民としての血が薄いアイザックの回復能力は、流した血に反比例して落ちていた。
あと、どのくらい保つか。
冷めた思考の片隅で、傷ついた最愛の人を思い浮かべる。狙われたのは自分だったのに、彼を巻き込んでケガをさせてしまった。吸血鬼である彼にとって、血を流す行為は災いでしかないのに。
「……リス、キア」
乾いた唇が名を呼んで、しかし声は殺す。俯いたアイザックの耳に、水音だけが絶え間なく聞こえていた。
目を覚ますなり起き上がったリスキアが、軽い貧血による眩暈に頭を抱える。
「まだ起きない方がいい」
普段は冷淡なシリルの心配そうな声に、幾度か首を振ってから顔を上げた。見慣れた黒髪と紅い瞳、整い過ぎて作り物めいた姿形の従兄弟が、そっと手を伸ばす。自分の体調が万全でないことを承知しているから、素直にシリルの腕を借りたリスキアだが、すぐに周囲を見回した。
「シリル、ライアンはどうした?!」
近くにいないことに慌てた様子を見せるリスキアに、嫌な予感がしてシリルの眉が顰められる。
「――何があった?」
問いかけに唇を噛んだリスキアが解けた黒髪を掻き上げる。普段はきっちり後ろで結わえられている髪は、さらりと項を覆って動きに揺れた。
カチャ。
「お? リスキア、起きたんだな。もう平気なのか?」
ドアを開ける音に続いて聞こえた明るい声色に、リスキアは明らかにほっとした表情で口元を歪めた。
「ライアン……お前は無事だったのか」
呟かれた言葉と、普段は強気なリスキアの口元に浮かんだ自嘲に、シリルとライアンは顔を見合わせる。今の言葉は何を指すのか……。リスキアは「お前は」と表現した。つまりは無事でない者がいるという意味だろう。そう判断した2人に、次期長老としての地位を受け継ぐ吸血鬼は静かに頷いた。
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「……っ」
腕をナイフが掠める。横に薙いだ動きで血が噴出し、アイザックの薄茶の髪を赤く染めていく。痛みに噛み締めた歯が、ぎりっと音を立てた。乾き始めた傷を抉りながら、ナイフは数箇所を深く切り裂いた。
「せいぜい役に立ってくれよ」
すでにアイザックを人として見ていないのだろう。顎鬚を弄りながら、男は商品である青年に突き刺したナイフを引き抜くと、踵を返して部屋を後にする。ドアの閉まる音と同時に、部屋は暗闇に戻った。
再び赤が滴り始める傷は、だんだんと塞がるまでの時間が長くなっている。元は人間であり、不死の民としての血が薄いアイザックの回復能力は、流した血に反比例して落ちていた。
あと、どのくらい保つか。
冷めた思考の片隅で、傷ついた最愛の人を思い浮かべる。狙われたのは自分だったのに、彼を巻き込んでケガをさせてしまった。吸血鬼である彼にとって、血を流す行為は災いでしかないのに。
「……リス、キア」
乾いた唇が名を呼んで、しかし声は殺す。俯いたアイザックの耳に、水音だけが絶え間なく聞こえていた。
目を覚ますなり起き上がったリスキアが、軽い貧血による眩暈に頭を抱える。
「まだ起きない方がいい」
普段は冷淡なシリルの心配そうな声に、幾度か首を振ってから顔を上げた。見慣れた黒髪と紅い瞳、整い過ぎて作り物めいた姿形の従兄弟が、そっと手を伸ばす。自分の体調が万全でないことを承知しているから、素直にシリルの腕を借りたリスキアだが、すぐに周囲を見回した。
「シリル、ライアンはどうした?!」
近くにいないことに慌てた様子を見せるリスキアに、嫌な予感がしてシリルの眉が顰められる。
「――何があった?」
問いかけに唇を噛んだリスキアが解けた黒髪を掻き上げる。普段はきっちり後ろで結わえられている髪は、さらりと項を覆って動きに揺れた。
カチャ。
「お? リスキア、起きたんだな。もう平気なのか?」
ドアを開ける音に続いて聞こえた明るい声色に、リスキアは明らかにほっとした表情で口元を歪めた。
「ライアン……お前は無事だったのか」
呟かれた言葉と、普段は強気なリスキアの口元に浮かんだ自嘲に、シリルとライアンは顔を見合わせる。今の言葉は何を指すのか……。リスキアは「お前は」と表現した。つまりは無事でない者がいるという意味だろう。そう判断した2人に、次期長老としての地位を受け継ぐ吸血鬼は静かに頷いた。
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