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第二十章 愛し愛される資格
第88話 愚か者は裏切り躍る(1)
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「……渡すな、マリニス。その女を…っ、ごほっ…押さえて、おけば、勝てる…っ、のだぞ?」
溢れた血に溺れかけたラーゼンの発言に、マリニスは首を横に振った。水の魔王トルカーネが散った今、最古の魔王はラーゼンだ。長く生きた男が自分に執着した理由は知らないが、最初は若い魔王への好奇心だったのだろう。
興味が執着へ変化し、いつの間にか固執にまで進化した。大切に守られる居心地の良さに甘えたが、マリニスだとて火の魔王の名を受け継ぐ男だ。いつまでも繭に包まれ、微温湯に浸って逃げていられるわけがない。
「死神ジフィール、この女を返せば手を引くか?」
「……お前、何か勘違いしていないか?」
眉をひそめたジルが不機嫌そうに吐き捨てる。霊力と魔力が互いを喰らい合いながら、ジルの周囲で渦を巻いていた。巻き込まれた黒髪がぶわりと風をはらみ、広げられた黒い翼が威圧するように羽ばたく。
「新参者の魔王ごときが、オレと対等の取引が出来るとでも?」
右手首から垂れる血がぼんやりと光を放ち、足元に血の魔方陣を描く。この時間を稼ぐために、マリニスと無駄な話をしたのだ。流した魔力文字に神族の血を注ぎ、高めた霊力で固定した。にやりと口角を持ち上げたジルの背後に、3人が召喚される。
「お待たせいたしました、我が君」
「多少苦戦されたみたいですね」
リシュアとリオネルは膝をついて、ジルの衣の裾に接吻けた。少し離れた位置で新たな魔方陣を用意するパウリーネが、城に用意した氷球を呼ぶ通り道を開く。一気に周囲の温度が下がり、冷たい風がパウリーネの足元から吹きだした。
作った大量の氷は魔力ある限り溶けることはない。この氷の結界をターゲットの周囲に置くことで、最上級魔術を使う手筈が整うのだ。
「いつでも構いませんわ」
「やれ」
氷球で魔方陣を描く水虎を従えるパウリーネへ、ジルは攻撃の指示を出した。まだルリアージェを人質に取っているマリニスは慌てて炎の結界を張る。ルリアージェを閉じ込めた球体を引き寄せて盾にしようとした彼の手は、空をかいた。
驚愕の表情で視線を向けたマリニスの腕を、緑の光が切り裂く。ずたずたになった腕を引き寄せたマリニスの前に、ブラウンの髪の女が立っていた。まろやかな曲線美を誇る肢体は緑の衣をまとい、同色の瞳はとろりと垂れて蠱惑的だ。足元に引きずるほど長い茶髪が、まるで生き物のように蠢いた。
「誰だ、貴様っ! 死神の眷属か」
「ライラ!」
見たことがない大人の姿で現れても、ルリアージェは惑わされない。どうしたのかと問う響きを滲ませながらも、迷うことなく名を呼んだ。
溢れた血に溺れかけたラーゼンの発言に、マリニスは首を横に振った。水の魔王トルカーネが散った今、最古の魔王はラーゼンだ。長く生きた男が自分に執着した理由は知らないが、最初は若い魔王への好奇心だったのだろう。
興味が執着へ変化し、いつの間にか固執にまで進化した。大切に守られる居心地の良さに甘えたが、マリニスだとて火の魔王の名を受け継ぐ男だ。いつまでも繭に包まれ、微温湯に浸って逃げていられるわけがない。
「死神ジフィール、この女を返せば手を引くか?」
「……お前、何か勘違いしていないか?」
眉をひそめたジルが不機嫌そうに吐き捨てる。霊力と魔力が互いを喰らい合いながら、ジルの周囲で渦を巻いていた。巻き込まれた黒髪がぶわりと風をはらみ、広げられた黒い翼が威圧するように羽ばたく。
「新参者の魔王ごときが、オレと対等の取引が出来るとでも?」
右手首から垂れる血がぼんやりと光を放ち、足元に血の魔方陣を描く。この時間を稼ぐために、マリニスと無駄な話をしたのだ。流した魔力文字に神族の血を注ぎ、高めた霊力で固定した。にやりと口角を持ち上げたジルの背後に、3人が召喚される。
「お待たせいたしました、我が君」
「多少苦戦されたみたいですね」
リシュアとリオネルは膝をついて、ジルの衣の裾に接吻けた。少し離れた位置で新たな魔方陣を用意するパウリーネが、城に用意した氷球を呼ぶ通り道を開く。一気に周囲の温度が下がり、冷たい風がパウリーネの足元から吹きだした。
作った大量の氷は魔力ある限り溶けることはない。この氷の結界をターゲットの周囲に置くことで、最上級魔術を使う手筈が整うのだ。
「いつでも構いませんわ」
「やれ」
氷球で魔方陣を描く水虎を従えるパウリーネへ、ジルは攻撃の指示を出した。まだルリアージェを人質に取っているマリニスは慌てて炎の結界を張る。ルリアージェを閉じ込めた球体を引き寄せて盾にしようとした彼の手は、空をかいた。
驚愕の表情で視線を向けたマリニスの腕を、緑の光が切り裂く。ずたずたになった腕を引き寄せたマリニスの前に、ブラウンの髪の女が立っていた。まろやかな曲線美を誇る肢体は緑の衣をまとい、同色の瞳はとろりと垂れて蠱惑的だ。足元に引きずるほど長い茶髪が、まるで生き物のように蠢いた。
「誰だ、貴様っ! 死神の眷属か」
「ライラ!」
見たことがない大人の姿で現れても、ルリアージェは惑わされない。どうしたのかと問う響きを滲ませながらも、迷うことなく名を呼んだ。
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