上 下
362 / 386
第二十二章 世界の色が変わる瞬間

第100話 見たことのない果物(2)

しおりを挟む
 果物と表現するなら、食べ物だろう。そう思って尋ねたルリアージェに、腰に手を当てたライラが得意げに説明を始めた。

「これは真っ白な落月花という木にできる果実なの。食用なのだけれど、精霊が育てないと花が咲かないのよ」

 花が咲かなければ実はつかない。つまり精霊が育てた実という意味だった。

「精霊はなぜ育てるのだ?」

 この実を食すのだとしたら、貰ってきてしまうと困るのではないか。疑問がつぎつぎと湧いて出るルリアージェの手に、冷たいライラの指が絡められた。にっこり笑って広間のテーブルへいざなう。素直についていくルリアージェを座らせ、ライラとジルが左右に腰掛けた。

「あの子たちは育てるけれど、食べないわよ。だからもらってきたの」

 紫がかった青がグラデーションになった美しい皿を取り出したリシュアがテーブルに置き、促されたルリアージェが冷たい実を乗せる。リシュアの風が房から一粒の実を落とす。丸い実が皿を転がる間に、白い外皮は鮮やかな黄色に変わった。

「すごい!」

「やってみますか?」

 リシュアが房ごと実を差し出す。目を輝かせてルリアージェが指で実をもぎ取る。落ちた実は淡いピンク色に染まった。

「……色が違う」

 驚いたルリアージェの様子に、くすくす笑うリシュアは「大成功ですね」とライラに告げる。どうやら実の色には理由があるらしい。それを尋ねる前に、今度はリオネルが手を伸ばして実をもいだ。落ちた粒は濃い紫色に変化する。

「落月花の実は無属性だから、落とした人の魔力によって色が変わる。しかも魔力自体の色と関係なく、触れた時期でも色が変化するらしい。珍しい実だから、あまり試す機会はないけどな」

「きっとリアが好きだと思ったのよ」

 ジルの説明に、ライラが悪戯成功と手を叩いて喜ぶ。「珍しい実を見つけたから試して欲しかったの」と笑う彼女に「ありがとう」と礼を口にした。

「ジルは何色だ?」

「うーん、前回は赤だった。今回はどうだろう」

 彼らにとってもルーレットのようなもので、何色が出るかわからない。そっと一粒もいだ実は、真っ青になった。海の色、それも深く暗い色だ。

「パウリーネとライラもやってみてくれ」

「ええ」

「わかりましたわ」

 はしゃぐ主の姿に、彼女らも頬を緩ませて手を伸ばす。残った実は少なくなって、あと5粒ほどだった。そのひとつをライラが落とした。摘まんだ瞬間から色が広がって、緑色になる。明るい緑色はやや黄色寄りだ。

 続いてパウリーネが触れるとオレンジ色に変わり、ころんと皿の上に転がった。目を瞠ったパウリーネが「前回は黒だったわ」と呟く。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

弱みを握られた僕が、毎日女装して男に奉仕する話

BL / 完結 24h.ポイント:653pt お気に入り:10

運命の番(同性)と婚約者がバチバチにやりあっています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,840pt お気に入り:30

イアン・ラッセルは婚約破棄したい

BL / 完結 24h.ポイント:33,036pt お気に入り:1,572

顔の良い灰勿くんに着てほしい服があるの

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:0

百鬼夜荘 妖怪たちの住むところ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,043pt お気に入り:16

処理中です...