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第二十二章 世界の色が変わる瞬間

第100話 見たことのない果物(3)

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 毎回色が違うのはすごいと感激するルリアージェは、色の変わった粒をひとつ選んだ。自分が落としたピンクではなく、リシュアが変色させた黄色を摘まむが、もう色は変化しなかった。

「変化は一度なのか?」

「ええ、もう変化しないわ。色によって味が違うこともないの」

 説明しながらオレンジ色の実を剥いたライラが、真っ白な果実を差し出した。見た目はツガシエで食べたレイシーにそっくりだ。口を開けると、巨峰くらいの粒が転がり込んだ。

「あ! オレが食べさせたかったのに!!」

「残念ね、リアの初体験をもらったわ」

 意味深な言い方をして揶揄うライラだが、色事に疎いルリアージェは実を食べながら首をかしげた。意味が分からないながらも、『初めての実を食べる体験』として納得する。意味は間違っていないが、なんとも色気のないうら若き乙女だ。

「甘くて美味しい」

「あら、甘かったならリアが優しい証拠ね」

 不思議な言い方に、リオネルが説明を付けてくれた。

「この落月花の実は、食べる人により味が変わります。優しい人は甘く、他者を貶める人は苦く、愚かな者は酸っぱく……様々な味に変化するのですよ」

 説明しながら、皆が実を剥いてくれる。しかし誰も口にしようとしない。彼らの殺伐とした人生を考えると甘いわけがなかった。

「私は優しくないと思うが……」

「実は正直よ。嘘が通用しないもの」

 ライラは実をすべて剥いてしまうと、皮をどこかへ消してしまう。残された実をジルが指で摘まんで差し出すので、素直にそのまま口を開けて食べさせてもらった。本人に自覚はないが「あ~ん」状態の甘い雰囲気が漂う。

「食べ終えたら、ツガシエとリュジアンの冬の祭りを回ろうか」

「本当か?」

「いいですね。新しい身分を用意しますか」

 リシュアの提案に、リオネルが首を横に振った。

「王族絡みでなければ地位は不要でしょう」

 優遇される部分がある反面、面倒ごとを招き寄せる可能性があるのが地位だ。サークレラはここ10年でリュジアン、ツガシエを統合した。その国の貴族を名乗れば、かなり危険も増すだろう。

「ジュリから入国して、リュジアン、ツガシエと回ればいいのではなくて?」

 パウリーネが取り出した地図を広げる。ここ10年で勢力図は大きく変わった。ウガリスとシグラがテラレスに攻め込んだため、現在のテラレスはルリアージェの知る時代の半分に領土を減らしている。ウガリスはアスターレンと戦の準備を進めており、シグラはタイカを狙っていた。サークレラがリュジアンやツガシエを飲み込んだことで、戦いの機運が高まったのだ。

 欲しい領土は奪えばいい。そんな風潮が広がって、ジュリはアスターレンと同盟を組んだ。サークレラに飲み込まれぬよう、2国で協力するらしい。しかしアスターレンが後ろのウガリスに狙われた以上、ジュリも同盟国として戦う義務がある。

 複雑な勢力関係を一切説明せず、パウリーネは指先でルートを示して微笑んだ。
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