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外伝
外伝・第1話 10年経っても
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「オレはいつになったら、リアと結ばれるんだろう」
空を見上げて、ひつじ雲を数えながら切ないぼやきが漏れる。長い黒髪を高い位置で結んだ青年は、整った顔に憂いを浮かべた。嫌われてはいない、それどころかキスは許してもらっていた。抱き寄せて腰を抱いても嫌がられないし、間違いなく好かれてると思う。
感情が幼いルリアージェに惚れた時点で、多少の困難は想定していた。しかし告白してから10年近くもお預けを食らうなんて、予定外だった。ちょっと長すぎるんじゃないだろうか。ここは強引に押し倒すべきか? いや、それで彼女に嫌われたら困る。でも我慢は限界だった。
迷う恋心に出口はなく、ぐるぐると同じ場所を巡るだけ。肩を落として、ついには足元のシロツメクサを弄り始めた。仮にも神族と魔族の間に生まれた稀有なる存在であり、すべての魔族の頂点に立った死神らしからぬ行動だ。
「ねえ、ジル。あなた……鬱陶しいのね」
止めを差しに来たのか? そう疑いたくなるライラの口の悪さに、見守っていた魔性達が青ざめる。現在、ルリアージェはパウリーネと買い物に出かけていた。何でも可愛い下着が欲しいらしい。さすがに着いていくのは断られた男性陣は、それぞれに時間を潰していた。
ドラゴン達に芸を仕込むリシュアの隣で、リオネルが新しい菓子を用意する。お茶に使うハーブを頼まれたライラが戻ると、何もせず嘆く男がいたのでぐさりと刺したのだが……反論もなく項垂れてしまった。
これはかなり重症だ。拗らせすぎた恋心は縺れてしまい、どこから解けばいいのかわからない。人懐こく振る舞うジルだが、対人関係の能力は低かった。1人で過ごしてきた幼少期を考えれば当然だ。疎まれ、蔑まれた環境でコミュニケーション能力が育つはずはない。
ある意味似たような状況で、魔術師としての能力だけを求められたルリアージェの感情は幼く、欲という欲も持ち合わせていなかった。純粋な幼子のように接する美女に、恋心から生じる己の欲を押し付けるのは気が引けて。
反論できずにがくりと肩を落とすジルの前に座り、ライラは大きく溜め息をついた。似た者同士なのにどうして気づかないのかしら。似過ぎてもダメなのかしらね。教えるのも癪だけれど、最愛の主の望みを叶えたいのも本音だから口を開く。
「ねえ。今日のリアのお買い物、なんだか知ってるでしょう?」
「……下着だから、同行を断られた」
ぼそっと呟くジルの頭の中は「断られた」という部分に集中している。お茶会予定地の神族の丘で、シロツメクサを摘みながら蹲る男を蹴飛ばしたい気分で、ライラはヒントを与えた。
「そうよ、下着を買いに行ったの。考えてみてよ、リアが可愛い下着を求める理由……誰に見せたいのかしらね」
「まさか!」
飛び起きた黒髪の美青年は大声で失礼な発言をする。
「リアに誰か好きな男が出来たのか!?」
「……我が主ながら、なんて残念な」
「リオネル、気持ちはわかりますが言葉を包んでください」
遠回しにリシュアも同様の意見だと呟き、2人の上級魔性は頭を抱えた。魔王に匹敵する能力を持つ彼らをもってしても、今の主にどう説明すればいいか。言葉が空回りする。
「……今の言葉をリアに言ったら、息の根を止めるわよ。何百年かかろうと、絶対に殺すわ」
物騒なライラの呟きに、ジルは眉をひそめた。何か間違っただろうか。最近ルリアージェの鈍さが移ったとパウリーネが心配したが、あながち見当違いでもなかった。ゆったりした流れに馴染んたジルは、平和ボケしている。
「帰ったぞ……どうした?」
剣呑な雰囲気の4人に首をかしげるルリアージェは、覚えたての転移魔法陣を使って現れた。補助したパウリーネが「かなり上手になりましたわ」と褒めながら、買い物袋を渡す。受け取った袋を大切そうに抱える銀髪美女は、丘の上に吹く心地よい風に目を細めた。
空を見上げて、ひつじ雲を数えながら切ないぼやきが漏れる。長い黒髪を高い位置で結んだ青年は、整った顔に憂いを浮かべた。嫌われてはいない、それどころかキスは許してもらっていた。抱き寄せて腰を抱いても嫌がられないし、間違いなく好かれてると思う。
感情が幼いルリアージェに惚れた時点で、多少の困難は想定していた。しかし告白してから10年近くもお預けを食らうなんて、予定外だった。ちょっと長すぎるんじゃないだろうか。ここは強引に押し倒すべきか? いや、それで彼女に嫌われたら困る。でも我慢は限界だった。
迷う恋心に出口はなく、ぐるぐると同じ場所を巡るだけ。肩を落として、ついには足元のシロツメクサを弄り始めた。仮にも神族と魔族の間に生まれた稀有なる存在であり、すべての魔族の頂点に立った死神らしからぬ行動だ。
「ねえ、ジル。あなた……鬱陶しいのね」
止めを差しに来たのか? そう疑いたくなるライラの口の悪さに、見守っていた魔性達が青ざめる。現在、ルリアージェはパウリーネと買い物に出かけていた。何でも可愛い下着が欲しいらしい。さすがに着いていくのは断られた男性陣は、それぞれに時間を潰していた。
ドラゴン達に芸を仕込むリシュアの隣で、リオネルが新しい菓子を用意する。お茶に使うハーブを頼まれたライラが戻ると、何もせず嘆く男がいたのでぐさりと刺したのだが……反論もなく項垂れてしまった。
これはかなり重症だ。拗らせすぎた恋心は縺れてしまい、どこから解けばいいのかわからない。人懐こく振る舞うジルだが、対人関係の能力は低かった。1人で過ごしてきた幼少期を考えれば当然だ。疎まれ、蔑まれた環境でコミュニケーション能力が育つはずはない。
ある意味似たような状況で、魔術師としての能力だけを求められたルリアージェの感情は幼く、欲という欲も持ち合わせていなかった。純粋な幼子のように接する美女に、恋心から生じる己の欲を押し付けるのは気が引けて。
反論できずにがくりと肩を落とすジルの前に座り、ライラは大きく溜め息をついた。似た者同士なのにどうして気づかないのかしら。似過ぎてもダメなのかしらね。教えるのも癪だけれど、最愛の主の望みを叶えたいのも本音だから口を開く。
「ねえ。今日のリアのお買い物、なんだか知ってるでしょう?」
「……下着だから、同行を断られた」
ぼそっと呟くジルの頭の中は「断られた」という部分に集中している。お茶会予定地の神族の丘で、シロツメクサを摘みながら蹲る男を蹴飛ばしたい気分で、ライラはヒントを与えた。
「そうよ、下着を買いに行ったの。考えてみてよ、リアが可愛い下着を求める理由……誰に見せたいのかしらね」
「まさか!」
飛び起きた黒髪の美青年は大声で失礼な発言をする。
「リアに誰か好きな男が出来たのか!?」
「……我が主ながら、なんて残念な」
「リオネル、気持ちはわかりますが言葉を包んでください」
遠回しにリシュアも同様の意見だと呟き、2人の上級魔性は頭を抱えた。魔王に匹敵する能力を持つ彼らをもってしても、今の主にどう説明すればいいか。言葉が空回りする。
「……今の言葉をリアに言ったら、息の根を止めるわよ。何百年かかろうと、絶対に殺すわ」
物騒なライラの呟きに、ジルは眉をひそめた。何か間違っただろうか。最近ルリアージェの鈍さが移ったとパウリーネが心配したが、あながち見当違いでもなかった。ゆったりした流れに馴染んたジルは、平和ボケしている。
「帰ったぞ……どうした?」
剣呑な雰囲気の4人に首をかしげるルリアージェは、覚えたての転移魔法陣を使って現れた。補助したパウリーネが「かなり上手になりましたわ」と褒めながら、買い物袋を渡す。受け取った袋を大切そうに抱える銀髪美女は、丘の上に吹く心地よい風に目を細めた。
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