【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
384 / 386
外伝

外伝・第3話 夜着の威力

しおりを挟む
 買ってきた下着をベッドの上に置く。眠る必要がなくなったルリアージェだが、疲れた時や一人になりたい時は睡眠を取る。魔性の中にも睡眠を嗜好品として楽しむ者がいると聞いた。

 ジル達は興味がないようだが、人の王を務めたリシュアは「睡眠はときどき嗜みます」と理解を示してくれる。漆黒の城はジルが作り出した亜空間に存在するため、人の世と時間の流れが異なる。ゆっくり流れる時間と、窓の外の変わらない景色に焦燥ではなく安心を覚えるようになった。

 人族だった頃は、自分だけが数十年で死んでしまう運命だと考えた。だから距離を置いたのだ。彼らと親しく過ごしても、のめり込んだら傷つくのは自分だけ。彼らにとって人族の主は『一夏の蝶』だろう。そう自虐して、勝手に決めつけて彼らを侮辱した。

 人族を主人と仰いだ時から、彼らが残りの寿命全てを放棄する覚悟があったなど……知らずにひどい言葉も口にした。

 王族ですら触れるのを躊躇う豪華な宝石箱を開けば、小さな石や種が入っている。宝石類はすべてジルに預けてあった。身につけて己を飾ることに興味がないルリアージェに渡しても、一度も着けずに終わってしまう。彼女の無欲さを理解する魔性達は、それぞれにルリアージェ用のジュエリー やドレスを保有していた。

 本人に着飾る気がなくとも、毎日交代でドレスやお飾りを用意する。ジルは自分だけで用意するつもりだったが、ライラを含めた全員に反対されて諦めた。

 だから宝飾品を所有していても手元に持たない彼女が大事にする宝石箱は、思い出が詰め込まれている。この10年、増えることはあっても減ることはなかった。

 一緒に海へ行った日に拾った貝殻、ジルとこっそり食べ歩きに行った街で買った水晶の屑石……これはジルに叱られたが、売りに来た子供は痩せこけていた。食事代を含めて金貨を差し出したが、その金額で少しジルと口喧嘩して、最後に笑いながら「リアがいいならいいさ」と理解してくれた。

 種はライラに貰ったもの。もう絶滅した、白い花の咲く蓮の種だという。図鑑を見ながら「素敵な花だ」と褒めたら、どこからか調達してきた。どこかの精霊が保有していたらしく、申し訳ないから返してこいと命じたら、半泣きになって焦った。あれでも精霊達の王になる資格をもつ子なのだが……。

 懐かしみながら、皆との思い出を辿る。変化がないようで、毎日何かが違う。穏やかな日々はルリアージェに安心を与え、笑顔を増やした。

 長く生きることが出来る身体になって、ようやく理解できたのは――長寿ゆえの悩みと退屈を紛らわす大切さだ。魔族が人族にちょっかいを出すのは、興味があるからではない。退屈を紛らわす手段だった。

「リア、入っていいか?」

「あ、少し待ってくれ」

 考えにふけっている間に時間が過ぎていたらしい。外を見ても夜と昼の区別がない空間で、ルリアージェのためにジルが月を作って浮かべた。それが登ったら夜という、単純なもの。浮かんだ月に慌てて、ルリアージェはベッドの上の下着を手に取った。

 象牙色の肌に似合うと言われて選んだのは、白。淡いピンクのレースがふんだんに使われた下着を身につけ、最後に艶がある桜色の夜着を羽織る。悩んだ末、透けるタイプは恥ずかしくて諦めた。代わりに肌触りのいい上質な絹を選ぶ。リシュアが治めていたサークレラ国の絹を纏い、長い銀髪をライラに贈られた櫛で梳く。リオネルが用意した髪飾りでまとめて、最後にパウリーネに渡された香水を控え目に振りかけた。

「い、いいぞ。ジル……入ってくれ」

 緊張しながら声をかけた先で、ドアが開いて……ジルはすごい勢いで後ろを確認した後、中に入って後ろ手にドアを閉めた。鍵はないが、結界を張って空間を遮断したのがわかる。

「……リ、リア」

 ごくりと喉を鳴らしたジルが、紫の瞳を見開いて言葉を探す。恥ずかしそうに手招くルリアージェに近づくと、手前で膝をついた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

ひ弱な竜人 ~周りより弱い身体に転生して、たまに面倒くさい事にも出会うけど家族・仲間・植物に囲まれて二度目の人生を楽しんでます~

白黒 キリン
ファンタジー
前世で重度の病人だった少年が、普人と変わらないくらい貧弱な身体に生まれた竜人族の少年ヤーウェルトとして転生する。ひたすらにマイペースに前世で諦めていたささやかな幸せを噛み締め、面倒くさい奴に絡まれたら鋼の精神力と図太い神経と植物の力を借りて圧倒し、面倒事に巻き込まれたら頼れる家族や仲間と植物の力を借りて撃破して、時に周囲を振り回しながら生きていく。 タイトルロゴは美風慶伍 様作で副題無し版です。 小説家になろうでも公開しています。 https://ncode.syosetu.com/n5715cb/ カクヨムでも公開してします。 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887026500 ●現状あれこれ ・2021/02/21 完結 ・2020/12/16 累計1000000ポイント達成 ・2020/12/15 300話達成 ・2020/10/05 お気に入り700達成 ・2020/09/02 累計ポイント900000達成 ・2020/04/26 累計ポイント800000達成 ・2019/11/16 累計ポイント700000達成 ・2019/10/12 200話達成 ・2019/08/25 お気に入り登録者数600達成 ・2019/06/08 累計ポイント600000達成 ・2019/04/20 累計ポイント550000達成 ・2019/02/14 累計ポイント500000達成 ・2019/02/04 ブックマーク500達成

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

処理中です...