【完結】虐待された幼子は魔皇帝の契約者となり溺愛される

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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87.お馬さんに人参をあげた

 手を繋いで歩く。プルソンに言われてから、僕は出来るだけ歩くことになった。歩かないと足が動かなくなるんだよ。怖いね。

 髪を結んでリボンを付けて、同じリボンを腰に巻いたワンピースで水溜りを飛び越えた。飛び上がる時にパパが上に引っ張ってくれたから、綺麗に飛べたよ。着地すると、リン! って鈴の音がするの。赤い服と赤い靴、銀の鈴がついてるんだ。ワンピースは被るタイプなのに、前にボタン代わりの鈴がついてた。

 歩くと鈴が鳴って、僕は楽しい。リン、また鈴が鳴った。歩くとずっと鳴るのかと思ったら、ときどき鳴るの。器用なことだとパパが呟いてたから、アモンがしてくれたのかな。

 お馬さんがいるのは、お城の裏側だった。てくてく歩いて足を止めたのは、見上げる高さの家で、これはお馬さんが住んでるのかも。街に行くより近かった家を覗いた。開いたままの扉の先は、藁がいっぱい。馬も犬もいて、猫まで! いっぱいいるんだね。

「陛下、こちらがカリス様ですか。お初にお目にかかります。オロバスと申します」

 出てきたのは、お爺ちゃんだった。優しそうな人で、手も足もプルソンと同じ蹄だ。僕は手を出した。

「カリスです。よろしくね」

 出した手をじっと見るオロバスが、そっと手を伸ばす。パパは何も言わなかった。でも手前で止まったから、僕から握る。驚いて固まったの、プルソンに似てる。やっぱり怖かったのかな。

「勝手に触ってごめんね」

「い、いえ! お気になさらず? じゃなくて、ありがとうございます?」

 どう答えたらいいか困惑した様子で、何度も言葉を選ぶけど、全部自分で首を傾げた。僕はその様子がおかしくて、にこにこしながら繋いだ手を揺らす。

「お馬さんを見せてください」

「もちろんです! どうぞ」

 先に立って入っていくオロバスの後ろを歩きながら、パパが僕の髪を撫でた。大きくて優しい手は、ちょっとガサガサしてて温かい。

「自分で言えたな」

「うん! 僕は皆と仲良くしたいよ。だから自分でお願いする」

 話している間に茶色いお馬さんの前に来た。鼻に白い線があって、足や背中の毛も白い。僕が昨日着てた服と同じ模様だった。

「お馬さん、こんにちは」

 声を掛けたら、ぶるると鼻を揺らして返事があった。嬉しくて手を伸ばす。ふんっと鼻息が飛んできて、オロバスが僕の手を掴んだ。お馬さんと僕の間に立ったオロバスは、しばらくお馬さんを見ていた。それからお馬さんに背中を向けて、僕の前にしゃがむ。

「カリス様、よろしいですか? 馬は臆病な生き物です。臆病は分かりますか?」

「怖がりと同じ?」

「そうです。だから知らない人がいきなり手を出すと、噛まれます。あの歯は痛いんですよ。慣れてからにしましょう」

「ごめんなさい、助けて教えてくれてありがと」

 オロバスが助けてくれなかったら、僕は噛まれたのかな。パパを見るとにこにこしてるけど、ちゃんと自分で注意しなきゃ。頭を下げた僕に、オロバスは人参を渡した。

「この子の好物です。差し出してください。私が一緒に支えます」

 言われた通りに人参の端を握って差し出す。興奮した様子で鼻を鳴らすお馬さんは、涎が出ていた。あと少し平気かも。一歩踏み出したら、お馬さんが人参を食べた。咥えたのを確認して手を離したら、もぐもぐと口の中に入っていく。

 そっか、お馬さんの好物だから縫いぐるみは人参だったんだね。アモンもよく知ってるな。

「パパも知ってるぞ」

 ぼそっとパパの声が降ってきた。知らなかったの、僕だけなのかな。
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