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35.いつもお使い偉いね、と思われていた
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アイカが買い物に出れば、どの店からも声が掛かる。購入した以上の果物や野菜をもらうことも多かった。幸い、肉は昆虫の形で販売されることはなく、吊るされた豚肉や鶏肉に似ている。
「これと、それと……あとはお勧めある?」
肉屋で足を止めて聞く。いつもながら、昆虫名で注文しない。見た目が豚肉、鶏肉と呟きながら指差した。店主はカンガルーで、お腹の袋から包丁を取り出した。そこ、赤ちゃんを入れるんだと思ってたけど。普段使いで刃物の収納は驚いた。
だが常識を捨てたアイカは、見慣れた光景を気に留めない。その意味でも、この世界で生きていくのに適性があるのだろう。
「お勧めねぇ。あ、これはどうだい?」
赤身が鮮やかだ。お値段は少し高いけど、もしかしたら牛肉味かも。アイカは期待しながら、一包み頼んだ。だが二つ渡される。
「注文は一つだよ」
「ああ、心配しなさんな。料金は一つだからね」
気前のいい女将さん……肉屋の女店主をそう呼んでいいか分からない。アイカは首を傾げながら、ありがたく受け取った。なぜか、どの店もサービスしてくれるのだ。一つ分を支払い、肉をレイモンドに預かってもらう。
重い物を買うときは、ドラゴンの巨体は助かる。アイカに遠慮はなかった。次の店で山ほど野菜を買い込んで、大量のサービス分も足してレイモンドに渡す。最後に果物は自分で抱えて歩き出した。
パンは毎朝届けてもらうし、ミルクは昨日宅配があった。そこで知ったのだが、ミルクは牛乳ではなかった。味はそっくりなのに、樹液らしい。今度見に行こうと思いながら、玄関をくぐった。
「ただいま」
「はい、おかえり。あらまぁ、いっぱい買ったんだね」
「半分は貰い物だよ」
レイモンドがおろした野菜や肉を、手早く貯蔵用の棚に並べていく。常温の棚なのに、なぜか腐りにくい。これも外の人の知恵だったとか。絶対に地球の知識じゃないと思いながら、アイカは手早く並べ終えた。
この辺りの作業はレイモンドは無理だし、ブレンダも苦手だ。人間の手は細かな作業に向いており、ブレンダの半分の時間でより綺麗に並べてみせた。得意な人がすればいい。その理論で、アイカが食料管理の担当となった。
「いつもおまけしてくれるの、なんでだろ」
うーんと首を傾け、足をよじ登ろうとするノアールを抱き上げる。するとオレンジが背中にしがみつき、ブランも尻尾とお尻を揺らして飛びかかる準備を始めた。
猫ツリーになる覚悟を決め、アイカは少し屈む。ブランは見事オレンジの上に着地し、二匹は競うように肩まで登り切った。羨ましそうなレイモンドの視線が刺さる。
「なんだ、気づいてて買い物行ったんじゃないのかい。あれはニンゲンへの好意だよ」
「なんで?」
人間だから贔屓される理由がわからない。中級の常識は読んだけど、見なかった。もしかして、上級編に書いてあるのかも。
「アイカ、俺から見たお前は赤子同然だ。たぶん、皆も同じなのだと思うぞ」
「ん? 赤子ってこと?」
「そこまで言わないけど、幼児と同じレベルだね。常識を知らなくて、毛皮のない弱い体、ちょこちょこ動き回るところ。どうだい? 幼児じゃないか」
ブレンダに力説され、そんな気がしてきた。え? じゃあ、今まで皆が親切だったり物をくれるのって「お使い偉いね」くらいの感覚だったの? 衝撃の事実を知り、アイカは肩を落とした。嫌われるより、いいかな。
「これと、それと……あとはお勧めある?」
肉屋で足を止めて聞く。いつもながら、昆虫名で注文しない。見た目が豚肉、鶏肉と呟きながら指差した。店主はカンガルーで、お腹の袋から包丁を取り出した。そこ、赤ちゃんを入れるんだと思ってたけど。普段使いで刃物の収納は驚いた。
だが常識を捨てたアイカは、見慣れた光景を気に留めない。その意味でも、この世界で生きていくのに適性があるのだろう。
「お勧めねぇ。あ、これはどうだい?」
赤身が鮮やかだ。お値段は少し高いけど、もしかしたら牛肉味かも。アイカは期待しながら、一包み頼んだ。だが二つ渡される。
「注文は一つだよ」
「ああ、心配しなさんな。料金は一つだからね」
気前のいい女将さん……肉屋の女店主をそう呼んでいいか分からない。アイカは首を傾げながら、ありがたく受け取った。なぜか、どの店もサービスしてくれるのだ。一つ分を支払い、肉をレイモンドに預かってもらう。
重い物を買うときは、ドラゴンの巨体は助かる。アイカに遠慮はなかった。次の店で山ほど野菜を買い込んで、大量のサービス分も足してレイモンドに渡す。最後に果物は自分で抱えて歩き出した。
パンは毎朝届けてもらうし、ミルクは昨日宅配があった。そこで知ったのだが、ミルクは牛乳ではなかった。味はそっくりなのに、樹液らしい。今度見に行こうと思いながら、玄関をくぐった。
「ただいま」
「はい、おかえり。あらまぁ、いっぱい買ったんだね」
「半分は貰い物だよ」
レイモンドがおろした野菜や肉を、手早く貯蔵用の棚に並べていく。常温の棚なのに、なぜか腐りにくい。これも外の人の知恵だったとか。絶対に地球の知識じゃないと思いながら、アイカは手早く並べ終えた。
この辺りの作業はレイモンドは無理だし、ブレンダも苦手だ。人間の手は細かな作業に向いており、ブレンダの半分の時間でより綺麗に並べてみせた。得意な人がすればいい。その理論で、アイカが食料管理の担当となった。
「いつもおまけしてくれるの、なんでだろ」
うーんと首を傾け、足をよじ登ろうとするノアールを抱き上げる。するとオレンジが背中にしがみつき、ブランも尻尾とお尻を揺らして飛びかかる準備を始めた。
猫ツリーになる覚悟を決め、アイカは少し屈む。ブランは見事オレンジの上に着地し、二匹は競うように肩まで登り切った。羨ましそうなレイモンドの視線が刺さる。
「なんだ、気づいてて買い物行ったんじゃないのかい。あれはニンゲンへの好意だよ」
「なんで?」
人間だから贔屓される理由がわからない。中級の常識は読んだけど、見なかった。もしかして、上級編に書いてあるのかも。
「アイカ、俺から見たお前は赤子同然だ。たぶん、皆も同じなのだと思うぞ」
「ん? 赤子ってこと?」
「そこまで言わないけど、幼児と同じレベルだね。常識を知らなくて、毛皮のない弱い体、ちょこちょこ動き回るところ。どうだい? 幼児じゃないか」
ブレンダに力説され、そんな気がしてきた。え? じゃあ、今まで皆が親切だったり物をくれるのって「お使い偉いね」くらいの感覚だったの? 衝撃の事実を知り、アイカは肩を落とした。嫌われるより、いいかな。
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