【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
19 / 321

18.神殿を出てよかった

しおりを挟む
 テントという布の家に入った。ぐるっと布で囲まれていて、ドアの代わりも布だ。どこにぶつかっても痛くない。神殿の石と違う手触りが不思議で、あちこちを触って回った。

「飯だぞ」

 飯はご飯で、食べ物! 全部同じ意味だなんてすごい。撫で回していたテントから顔を覗かせると、おいでと手招きされた。どきどきしながら駆け寄る。セティは火を焚いていた。その上に大きい黒い器があって、お湯が入ってるみたい。

 くん……何かいい匂いがする。覗き込もうと近づいたところで、後ろから腹に回した腕で引っ張られた。こてんと尻をついた先は、セティの太腿だった。驚いて見上げる。

「あっぶね、いいか。これ……鍋と火は熱い。痛いぞ」

 黒い器を鍋、燃えている火と一緒に教えられる。火は燃えているのを見たから知っていた。熱いのに触ると痛いのは……うん、知ってるけど。前に燃えてる火を触ったから。火がなくなっても痛かったんだ。

「わかった」

 頷いた僕を腕で抱き寄せて、そっと鍋の様子を見せてくれた。脇に手を入れて転ばないように支える腕が、とても温かい。

「ぶつぶつお湯が動いてるだろ、あれは熱い」

「さわらない」

「いい子だ、イシス。賢いぞ」

 褒めてもらった。あれは触らない。手を入れてみたい気がするけど、セティのダメは絶対だ。中に黒っぽい塊を入れて、しばらく待った。火のそばは暖かくて、眠くなる。

「出来たぞ、ほら、あーんだ」

 ふーっと息を吹いてから差し出された匙に、ぱくりと噛み付く。口の中に魚と同じ味が広がった。

「美味しいか?」

「おいしい」

 もっとと口を開けて待った。だが銀の匙を手に持たされ、真似をして食べろという。ぎゅっと握った棒部分を動かして、匙の先にスープを乗せる。ふーっとしてから、口に入れた。

「上手だ。自分で食べれば火傷もしないだろ」

 何だかよくわからないけど、さっきと味が違う。セティがあーんした方が美味しかった。

「あーん」

 匙を持ったまま口を開ける。困った奴、そう呟いたけど、セティは僕にあーんをした。やっぱり美味しい。そう伝えたら、嬉しそうに「そうか」って頭を撫でられた。

 パンを齧って顔を拭いて、魔法をかけてもらう。身体がベタベタしなくなって、臭いが消えた。テントに寝転がる僕の隣で、セティがいろいろな話をしてくれる。

 見渡す限り、辛い水しかない場所があるんだって。そこに今日食べた魚もいるみたい。辛い水に入っても、魚は平気なのかな。白くて冷たいのが降ってくる地域もあって、そこは寒い。一度見に行こうと約束した。

 約束は絶対に守るもの。寒い白い場所に行くまで、一緒にいてくれるんだ。あったかい気持ちで目を閉じ、伸ばした指先に触れたセティの手を握る。

 僕、神殿を出てよかった。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

処理中です...