22 / 321
21.いくつもの約束
しおりを挟む
「イシス、飴は?」
「ここ」
胸ポケットから小さな袋を出す。数が少なくなったので我慢していたら、次の街で買ってくれると言われた。約束だと指を絡めて揺らして離す。その約束が嬉しくて笑えば、セティが飴を口に入れた。
甘くて幸せな思い出だ。約束は必ず守るものだから、飴もまた増える。躊躇うことなく袋からひとつ摘んで差し出した。
「イシスが食べろ。何か聞かれても答えるなよ」
よくわからないけど頷いた。話をしないように口に飴を入れるのかな。門番と呼ばれる人がいる列に並んだ。前の門番は手を振ってくれた。順番が近づいて、飴の大きさは半分に小さくなる。
「はい、身分証。この子はオレの甥っ子だ」
前の門番と違い、今度は話が聞き取れる。知ってる言葉に2人の顔を見比べた。言葉が何種類もあることは、セティに教えてもらった。野宿の夜は長くて、朝は早い。旅の間にいろんな話を聞いた。
色の名前も緑や黄色を覚えたし、いろんな動物の種類も覚えた。門番やお金の話も聞いているから、セティが取り出した通行料というのも理解できる。光を弾く金属をちゃらんと渡して、そのまま通り過ぎた。口の中の飴を転がしていたから、門番も話しかけてこない。
「いい子だ、イシス。先に宿を決めようか」
「うん」
宿は泊まる部屋がある場所だ。前のところみたいにお風呂がある場所を探したので、意外と時間がかかった。見つけたのは大きな鳥の看板の宿だ。
「2人、食事付きで3日間」
簡単に注文して部屋の鍵をもらった。2階じゃなくて、1階の奥だって。部屋に入ると前の宿より少し狭かった。でも僕がいた神殿の部屋と同じくらい。
口を開けたまま天井を見ながらぐるりと回る。天井に絵が描いてあるよ。鳥なのかな、両手を広げたような形の生き物だった。
「この国は邪神信仰だからな」
「じゃしん……神様?」
「そうだ。荒ぶる神タイフォンが奉られた国で、ちょっと野暮用があって寄った」
タイフォンは聞いたことがある。お爺ちゃんが口にした神様のお名前だ。僕はタイフォンの物なんだって――セティの物ならいいのに。
「僕、タイフォン知ってる」
「イシスがいた神殿もタイフォンだな」
頷いてベッドに座った。邪神はよくわからないけど、神様はすごいと聞いた。セティとどっちが優しいのかな。僕は殴ったりしない優しい人がいい。毛布も着替えも、ぽいっとする部屋にしまってるセティだけど、肩にいつも鞄を掛けていた。それをベッドの横に置く。
「これ、どうして持ってるの?」
「ん? どういう意味だ」
僕の聞きたいことが伝わらなくて、収納というお部屋に入れない理由を身振り手振りで尋ねた。さっきの荷車の人もそう、部屋にしまえばいいのに。
「ああ、そうか。イシスは知らないからそう思うよな」
納得した様子でセティが隣に座った。それからまた指を絡めて約束の準備をする。
「あれは魔法っていうんだ。使える人が少ないから、欲しがる人がいっぱいいる。誰かに話すとオレとイシスは離されてしまうから……絶対に誰かに話しちゃダメだぞ」
胸がぎゅっと痛くなった。誰かに知られたらセティが取られちゃうの?! 僕はお部屋を使えないから、捨てられる……そんなのやだ。
「言わない」
ぽろりと涙が溢れて、唇が尖った。どうしたらいいか分からないけど、ただただ嫌だった。セティが涙を舐めて、それからキスしてくれる。少しだけ胸の痛いのが楽になった。
「約束したら大丈夫」
離れない約束ももらえて、僕はやっと胸が温かくなる。ぎゅっと抱き締めるセティにしがみついて、結局そのまま眠ってしまった。
「ここ」
胸ポケットから小さな袋を出す。数が少なくなったので我慢していたら、次の街で買ってくれると言われた。約束だと指を絡めて揺らして離す。その約束が嬉しくて笑えば、セティが飴を口に入れた。
甘くて幸せな思い出だ。約束は必ず守るものだから、飴もまた増える。躊躇うことなく袋からひとつ摘んで差し出した。
「イシスが食べろ。何か聞かれても答えるなよ」
よくわからないけど頷いた。話をしないように口に飴を入れるのかな。門番と呼ばれる人がいる列に並んだ。前の門番は手を振ってくれた。順番が近づいて、飴の大きさは半分に小さくなる。
「はい、身分証。この子はオレの甥っ子だ」
前の門番と違い、今度は話が聞き取れる。知ってる言葉に2人の顔を見比べた。言葉が何種類もあることは、セティに教えてもらった。野宿の夜は長くて、朝は早い。旅の間にいろんな話を聞いた。
色の名前も緑や黄色を覚えたし、いろんな動物の種類も覚えた。門番やお金の話も聞いているから、セティが取り出した通行料というのも理解できる。光を弾く金属をちゃらんと渡して、そのまま通り過ぎた。口の中の飴を転がしていたから、門番も話しかけてこない。
「いい子だ、イシス。先に宿を決めようか」
「うん」
宿は泊まる部屋がある場所だ。前のところみたいにお風呂がある場所を探したので、意外と時間がかかった。見つけたのは大きな鳥の看板の宿だ。
「2人、食事付きで3日間」
簡単に注文して部屋の鍵をもらった。2階じゃなくて、1階の奥だって。部屋に入ると前の宿より少し狭かった。でも僕がいた神殿の部屋と同じくらい。
口を開けたまま天井を見ながらぐるりと回る。天井に絵が描いてあるよ。鳥なのかな、両手を広げたような形の生き物だった。
「この国は邪神信仰だからな」
「じゃしん……神様?」
「そうだ。荒ぶる神タイフォンが奉られた国で、ちょっと野暮用があって寄った」
タイフォンは聞いたことがある。お爺ちゃんが口にした神様のお名前だ。僕はタイフォンの物なんだって――セティの物ならいいのに。
「僕、タイフォン知ってる」
「イシスがいた神殿もタイフォンだな」
頷いてベッドに座った。邪神はよくわからないけど、神様はすごいと聞いた。セティとどっちが優しいのかな。僕は殴ったりしない優しい人がいい。毛布も着替えも、ぽいっとする部屋にしまってるセティだけど、肩にいつも鞄を掛けていた。それをベッドの横に置く。
「これ、どうして持ってるの?」
「ん? どういう意味だ」
僕の聞きたいことが伝わらなくて、収納というお部屋に入れない理由を身振り手振りで尋ねた。さっきの荷車の人もそう、部屋にしまえばいいのに。
「ああ、そうか。イシスは知らないからそう思うよな」
納得した様子でセティが隣に座った。それからまた指を絡めて約束の準備をする。
「あれは魔法っていうんだ。使える人が少ないから、欲しがる人がいっぱいいる。誰かに話すとオレとイシスは離されてしまうから……絶対に誰かに話しちゃダメだぞ」
胸がぎゅっと痛くなった。誰かに知られたらセティが取られちゃうの?! 僕はお部屋を使えないから、捨てられる……そんなのやだ。
「言わない」
ぽろりと涙が溢れて、唇が尖った。どうしたらいいか分からないけど、ただただ嫌だった。セティが涙を舐めて、それからキスしてくれる。少しだけ胸の痛いのが楽になった。
「約束したら大丈夫」
離れない約束ももらえて、僕はやっと胸が温かくなる。ぎゅっと抱き締めるセティにしがみついて、結局そのまま眠ってしまった。
250
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
【本編完結済】神子は二度、姿を現す
江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結
ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。
死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが
神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。
戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。
王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。
※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。
描写はキスまでの全年齢BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる