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56.酷いことしない?
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ちらっと視線を向けたセティが、無造作に伸ばした手で男の額を叩いた。ぺちっと痛そうな音がして、大きな男の人は手で押さえる。
怖そうな顔なのに、そんなことして平気なの? 心配になった僕の前で、大きな人は神様の名前を呼んだ。
「いってぇ、何すんだ。タイフォン」
「その名で呼ぶな。セティだ」
「わかったよ。それで呼び出した理由は、この綺麗なガキか?」
知り合いなのかな。ぽんぽんと会話が進むのを、頭を抱えた腕の間から見つめる。目が合うと、大きな背を丸めて笑った。硬そうな茶色い髪をぐしゃっと手で押さえる。顔に大きな傷があって、セティより年上っぽい。
「オレのだぞ」
「破壊神の贄に手を出すほど飢えちゃいねえけど。脅かして悪かったな」
むすっとしたセティを気にせず、大きな手が伸びて少し荒い動きで撫でてくれた。痛いことをしない人みたい。セティの知り合いなら平気かな。頭を隠した手をそっと緩める。
「ごめんな、乱暴な奴だがオレの知り合いだ。イシスに酷いことはしない」
セティがそう言うなら、きっと大丈夫。丸めた体を伸ばして座り直す。両手を揃えて膝の上に置いた。神殿で叱られる時と同じ格好だけど、これはお行儀がいい姿だって聞いてる。服の背中に棒を入れて練習させられた。そのまま忘れて帰られたこともあるけど。
思い出しながら、できるだけ背中をまっすぐにした。それから教えられた作法で、頭を下げる。すると大きい人は眉間に皺を寄せて、顔を手で覆った。僕の作法、間違ってた?
「俺はゲリュオンだ。名前を教えてくれ」
目を合わせた向かいのセティが頷く。教えていいみたい。
「イシス」
答えたら、ゲリュオンという大きい人は驚いた顔をした。それからセティを振り返り、何か伝える。その言葉は僕が知らない響きだった。何か怒ってる様子で、セティは面倒くさそうに言い返した。
「イシスが不安になるから、この国の言葉で話せ」
きょろきょろと2人の顔を見比べていたら、ゲリュオンが苦笑いした。この人、前歯が欠けてるみたい。
「他の奴らにバレるなよ? お前が可愛がってると知ったら、ちょっかい出す奴ばかりだ」
「出したら血祭りにあげてやる」
知ってる言葉になっても、言ってる内容はほとんど分からなかった。でも僕は口を挟まずに、きちんと座って待つ。セティがふっと表情を変えて、柔らかく笑った。僕の好きなセティだ。
「ほら、冷めちゃうからご飯を食べよう」
「うん」
フォークとナイフ、覚えたばかりの道具を使ってセティが肉を切る。それをフォークに刺して、目の前に出された。森の草と同じ匂いがする。
「あーん」
促されて口を開け、パクリと肉を口に入れた。もぐもぐと噛むが、いつものお肉より少し硬い。セティが顔を顰めて「筋肉か?」とぼやいた。結局残った硬い肉はゲリュオンが食べてしまい、僕はスープと同じ白い魚をもらった。
怖そうな顔なのに、そんなことして平気なの? 心配になった僕の前で、大きな人は神様の名前を呼んだ。
「いってぇ、何すんだ。タイフォン」
「その名で呼ぶな。セティだ」
「わかったよ。それで呼び出した理由は、この綺麗なガキか?」
知り合いなのかな。ぽんぽんと会話が進むのを、頭を抱えた腕の間から見つめる。目が合うと、大きな背を丸めて笑った。硬そうな茶色い髪をぐしゃっと手で押さえる。顔に大きな傷があって、セティより年上っぽい。
「オレのだぞ」
「破壊神の贄に手を出すほど飢えちゃいねえけど。脅かして悪かったな」
むすっとしたセティを気にせず、大きな手が伸びて少し荒い動きで撫でてくれた。痛いことをしない人みたい。セティの知り合いなら平気かな。頭を隠した手をそっと緩める。
「ごめんな、乱暴な奴だがオレの知り合いだ。イシスに酷いことはしない」
セティがそう言うなら、きっと大丈夫。丸めた体を伸ばして座り直す。両手を揃えて膝の上に置いた。神殿で叱られる時と同じ格好だけど、これはお行儀がいい姿だって聞いてる。服の背中に棒を入れて練習させられた。そのまま忘れて帰られたこともあるけど。
思い出しながら、できるだけ背中をまっすぐにした。それから教えられた作法で、頭を下げる。すると大きい人は眉間に皺を寄せて、顔を手で覆った。僕の作法、間違ってた?
「俺はゲリュオンだ。名前を教えてくれ」
目を合わせた向かいのセティが頷く。教えていいみたい。
「イシス」
答えたら、ゲリュオンという大きい人は驚いた顔をした。それからセティを振り返り、何か伝える。その言葉は僕が知らない響きだった。何か怒ってる様子で、セティは面倒くさそうに言い返した。
「イシスが不安になるから、この国の言葉で話せ」
きょろきょろと2人の顔を見比べていたら、ゲリュオンが苦笑いした。この人、前歯が欠けてるみたい。
「他の奴らにバレるなよ? お前が可愛がってると知ったら、ちょっかい出す奴ばかりだ」
「出したら血祭りにあげてやる」
知ってる言葉になっても、言ってる内容はほとんど分からなかった。でも僕は口を挟まずに、きちんと座って待つ。セティがふっと表情を変えて、柔らかく笑った。僕の好きなセティだ。
「ほら、冷めちゃうからご飯を食べよう」
「うん」
フォークとナイフ、覚えたばかりの道具を使ってセティが肉を切る。それをフォークに刺して、目の前に出された。森の草と同じ匂いがする。
「あーん」
促されて口を開け、パクリと肉を口に入れた。もぐもぐと噛むが、いつものお肉より少し硬い。セティが顔を顰めて「筋肉か?」とぼやいた。結局残った硬い肉はゲリュオンが食べてしまい、僕はスープと同じ白い魚をもらった。
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