240 / 321
238.豊穣の神様になったの?
しおりを挟む
ずっと放置されてきた人々の救済は、教会に預けられることになった。つまり、僕とセティはもう手を出さない。でも見守ることは出来るよね? そう聞いたら、少し考えて頷いてくれた。
パンを持ち帰ったあの子とそのお母さんに、セティは「約束が破られたら、タイフォンを呼べ」と言い聞かせた。頷く彼らがセティの名を知っていて、覚えた祈りを捧げてくれたら聞こえるんだって。隣の大陸に渡っても聞こえるんだよ。大きな海を何日も移動した距離は遠いのに、それでも届くのはセティが凄い神様だからかな。
「イシスも豊穣の神なんだぞ」
「そうなの?」
僕、いつ豊穣の神様になったんだろう。それより、豊穣って何? 首を傾げる僕に、セティが苦笑いした。
「ガイアが、イシスに豊穣の神格を与えた。豊穣は、麦や作物が豊かに、たくさん実ることだよ」
実れば刈って食べるんだよね。じゃあ、ご飯をたくさん作るのが僕のお仕事かな。どうやったら作れるのか分からないけど、たくさんできますように。あの子達がご飯に困りませんように。
「イシスがそうやって祈ってくれたら、立派に実るさ。――移動するぞ」
話の途中で、セティが僕を抱き寄せた。くるっと景色が変わって、知らない森の中にいる。さっきまでいた子どもも、神殿の白い服の人も全部消えた。たぶん僕達が違う場所にいるんだと思う。
「ちょっと飴を舐めて待っててくれ」
「あーん」
セティが大きな紫の飴を差し出すから、僕は口を大きく開けた。からんと音を立てて転がる飴は葡萄の味がする。あ、僕……折角用意した飴を渡すの忘れてた。抱っこした飴の瓶を見下ろして、悲しくなる。皆が喜んでくれると思って買ったのに。
「この後、あの街に行って配ろう。イシスは優しいな」
飴が入って口がいっぱいだから、首を横に振る。優しいのは僕じゃないよ。お母さんがくれた金貨で、飴を買ったのはセティだもん。皆に配りたいって言った時も、ダメだと言わなかった。洞窟の神殿にいた時はなんでもダメだと言われたけど、今はいろいろ出来て楽しい。
僕の額や頬にキスをくれるセティに目を閉じる。優しく触れた唇は、そのまま離れてしまった。飴があるから舌を入れられないのかも。
「……破壊神のそのような姿を見るとは……」
年老いた人の声がする。振り返った僕は、さっきまでいなかった神様がいた。この神様は知ってるよ。黄色い飴を食べた神殿の神様だ。その時約束した紫の飴が、今口の中にある。
『きちんと面倒見ろよ』
『手間をかけたことを詫びる。若い神も信仰集めに必死で慈善を後回しにするが、考えていないわけではないのだ』
『考えていて動かないなら、最低だぞ。当たり前に行われる神殿の施しがないなど、民を死なせるなら執政者も神も不要だ』
『反論しようがない、申し訳なかった』
難しい会話が行われてる。神様同士の言葉はふわふわと響いて、何を話してるか分からない。ころころと飴を転がしながら、さっき聞いたガイアの名前にトムを思い出す。元気かな。ボリスやお母さん、お父さん……お兄さん達も。
誰かが意地悪したりしないといいけど。金鎖に通された鱗を引っ張り出す。眺めながら、美しい鱗を撫でた。青はお母さん、きらきら光るのはお父さん、赤いのはフェリクスお兄さんで、ルードルフお兄さんは茶色。こっちは緑でエルランドお兄さんだった。
僕は鱗がないから、お父さん達と交換できなかった。代わりにリボンを買ったから、お父さん達に渡すのが楽しみだな。喜んでくれると思う。頭の上の会話は分からないから、鱗を撫でながら僕は飴を転がした。
パンを持ち帰ったあの子とそのお母さんに、セティは「約束が破られたら、タイフォンを呼べ」と言い聞かせた。頷く彼らがセティの名を知っていて、覚えた祈りを捧げてくれたら聞こえるんだって。隣の大陸に渡っても聞こえるんだよ。大きな海を何日も移動した距離は遠いのに、それでも届くのはセティが凄い神様だからかな。
「イシスも豊穣の神なんだぞ」
「そうなの?」
僕、いつ豊穣の神様になったんだろう。それより、豊穣って何? 首を傾げる僕に、セティが苦笑いした。
「ガイアが、イシスに豊穣の神格を与えた。豊穣は、麦や作物が豊かに、たくさん実ることだよ」
実れば刈って食べるんだよね。じゃあ、ご飯をたくさん作るのが僕のお仕事かな。どうやったら作れるのか分からないけど、たくさんできますように。あの子達がご飯に困りませんように。
「イシスがそうやって祈ってくれたら、立派に実るさ。――移動するぞ」
話の途中で、セティが僕を抱き寄せた。くるっと景色が変わって、知らない森の中にいる。さっきまでいた子どもも、神殿の白い服の人も全部消えた。たぶん僕達が違う場所にいるんだと思う。
「ちょっと飴を舐めて待っててくれ」
「あーん」
セティが大きな紫の飴を差し出すから、僕は口を大きく開けた。からんと音を立てて転がる飴は葡萄の味がする。あ、僕……折角用意した飴を渡すの忘れてた。抱っこした飴の瓶を見下ろして、悲しくなる。皆が喜んでくれると思って買ったのに。
「この後、あの街に行って配ろう。イシスは優しいな」
飴が入って口がいっぱいだから、首を横に振る。優しいのは僕じゃないよ。お母さんがくれた金貨で、飴を買ったのはセティだもん。皆に配りたいって言った時も、ダメだと言わなかった。洞窟の神殿にいた時はなんでもダメだと言われたけど、今はいろいろ出来て楽しい。
僕の額や頬にキスをくれるセティに目を閉じる。優しく触れた唇は、そのまま離れてしまった。飴があるから舌を入れられないのかも。
「……破壊神のそのような姿を見るとは……」
年老いた人の声がする。振り返った僕は、さっきまでいなかった神様がいた。この神様は知ってるよ。黄色い飴を食べた神殿の神様だ。その時約束した紫の飴が、今口の中にある。
『きちんと面倒見ろよ』
『手間をかけたことを詫びる。若い神も信仰集めに必死で慈善を後回しにするが、考えていないわけではないのだ』
『考えていて動かないなら、最低だぞ。当たり前に行われる神殿の施しがないなど、民を死なせるなら執政者も神も不要だ』
『反論しようがない、申し訳なかった』
難しい会話が行われてる。神様同士の言葉はふわふわと響いて、何を話してるか分からない。ころころと飴を転がしながら、さっき聞いたガイアの名前にトムを思い出す。元気かな。ボリスやお母さん、お父さん……お兄さん達も。
誰かが意地悪したりしないといいけど。金鎖に通された鱗を引っ張り出す。眺めながら、美しい鱗を撫でた。青はお母さん、きらきら光るのはお父さん、赤いのはフェリクスお兄さんで、ルードルフお兄さんは茶色。こっちは緑でエルランドお兄さんだった。
僕は鱗がないから、お父さん達と交換できなかった。代わりにリボンを買ったから、お父さん達に渡すのが楽しみだな。喜んでくれると思う。頭の上の会話は分からないから、鱗を撫でながら僕は飴を転がした。
175
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
【本編完結済】神子は二度、姿を現す
江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結
ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。
死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが
神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。
戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。
王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。
※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。
描写はキスまでの全年齢BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる