15 / 117
本編
15.間違えてもこの首ひとつだ
しおりを挟む
前回の記憶が蘇った貴族は大いに混乱したが、翌朝には気持ちを切り替える者が出てきた。
ここジュベール王国の半分は、隣国バルリング帝国の一部である。それは属国という意味ではなく、政も財政も完全に独立した国家だ。帝国の広大な領土の端を借りる形だった。
ジュベールの先代国王は戦が好きで、領地を接する小国を滅ぼした。だが小国の姫君は帝国へと逃れ、後に先代皇帝の側妃となる。王女を匿った帝国はジュベール国に土地を返すよう迫る。だが先代国王は手放さない。そこで政治的な駆け引きが行われ、数十年の貸与が認められた。
ジュベール国から見れば、強大な帝国に妥協させたと溜飲を下げる。帝国はいずれ手に入る土地を彼らが耕すなら預け、民ごとジュベール国を切り取る予定だった。皇太子カールハインツが留学したのも、その布石の一部なのだ。そうでなければ、格下の王国に数年も皇太子を預ける理由はなかった。
切り取りの準備が整ったところで、あの惨劇が起きる。荒れた国を手に入れても利は少ないと、帝国は手を引いて様子を見た。故に国を割る内紛は拡大したのだ。
内情を知る宰相アルベール侯爵は、帝国と領地を接するオードラン辺境伯へ使者を送った。今ならば国のために動いてくれるだろう。王家を存続させることは諦めた。だが国を潰すことは出来ない。
帝国に切り取られないよう手を打ち、フォンテーヌ公爵家を王家に押し上げる。前回の詫びも含め、王太子の王位継承権を剥奪する手筈を整えながら、国防の為にオードラン辺境伯を頼った。バシュレ子爵が功績を挙げるのは来年のこと、今ならばまだ褒賞を用意して与えることも出来る。
急ぎ手を打ちながら、いかにしてフォンテーヌ公爵クロードと連絡を取るか、に頭を捻った。前回は王家の存続に固執したアルベール侯爵家が、味方につくと表明して信じてもらう方法だ。誠意を見せて頭を下げるしかあるまい。
屋敷を見回し、己の持つ全財産の目録を作るよう執事に命じる。妻はすでに亡く、一人娘も嫁に出した。何もかも失い、投げ出すことになろうと……今回こそ国を守らなくてはならない。ジュベールという王家の名を廃止し、新たな国を興す。
王位継承権一位である王太子アンドリューからの剥奪は可能だった。前回の記憶を持つ貴族達をまとめ上げれば、誰も反対はしない。第二位は王弟殿下だが、あの方は権力に興味がなかった。今後の生活の保証をすれば、継承権の放棄は問題ないだろう。
第三位がフォンテーヌ公爵クロード、次が公爵子息シルヴェストルだ。彼らに任せよう。王家の交代と国の安定を見届けたら、この身は断罪してもらえばいい。この国が残れば、我が身も家名も消して構わなかった。
前回は間違えた。今回こそは正しい道を歩きたい。女神様の慈悲とお導きを……両手を組んで祈りながら、アルベール侯爵ジョゼフは目を閉じた。
瞼の裏に蘇ったあの日の光景は、赤に彩られている。噴水の前で愛娘の首を抱いた公爵と、大切な妹の亡骸を包んだ兄――不自然に揺れるご令嬢の右腕が妙に印象に残った。忠誠を尽くす相手を間違えた私だが、やり直しの機会にすべてを賭ける。間違えてもこの首ひとつだ。
この老ぼれなど要らぬと言われれば、それまで。フォンテーヌ公爵家の思うままに私が滅びればよい。覚悟など、宰相職に就いた時から出来ていた。
ここジュベール王国の半分は、隣国バルリング帝国の一部である。それは属国という意味ではなく、政も財政も完全に独立した国家だ。帝国の広大な領土の端を借りる形だった。
ジュベールの先代国王は戦が好きで、領地を接する小国を滅ぼした。だが小国の姫君は帝国へと逃れ、後に先代皇帝の側妃となる。王女を匿った帝国はジュベール国に土地を返すよう迫る。だが先代国王は手放さない。そこで政治的な駆け引きが行われ、数十年の貸与が認められた。
ジュベール国から見れば、強大な帝国に妥協させたと溜飲を下げる。帝国はいずれ手に入る土地を彼らが耕すなら預け、民ごとジュベール国を切り取る予定だった。皇太子カールハインツが留学したのも、その布石の一部なのだ。そうでなければ、格下の王国に数年も皇太子を預ける理由はなかった。
切り取りの準備が整ったところで、あの惨劇が起きる。荒れた国を手に入れても利は少ないと、帝国は手を引いて様子を見た。故に国を割る内紛は拡大したのだ。
内情を知る宰相アルベール侯爵は、帝国と領地を接するオードラン辺境伯へ使者を送った。今ならば国のために動いてくれるだろう。王家を存続させることは諦めた。だが国を潰すことは出来ない。
帝国に切り取られないよう手を打ち、フォンテーヌ公爵家を王家に押し上げる。前回の詫びも含め、王太子の王位継承権を剥奪する手筈を整えながら、国防の為にオードラン辺境伯を頼った。バシュレ子爵が功績を挙げるのは来年のこと、今ならばまだ褒賞を用意して与えることも出来る。
急ぎ手を打ちながら、いかにしてフォンテーヌ公爵クロードと連絡を取るか、に頭を捻った。前回は王家の存続に固執したアルベール侯爵家が、味方につくと表明して信じてもらう方法だ。誠意を見せて頭を下げるしかあるまい。
屋敷を見回し、己の持つ全財産の目録を作るよう執事に命じる。妻はすでに亡く、一人娘も嫁に出した。何もかも失い、投げ出すことになろうと……今回こそ国を守らなくてはならない。ジュベールという王家の名を廃止し、新たな国を興す。
王位継承権一位である王太子アンドリューからの剥奪は可能だった。前回の記憶を持つ貴族達をまとめ上げれば、誰も反対はしない。第二位は王弟殿下だが、あの方は権力に興味がなかった。今後の生活の保証をすれば、継承権の放棄は問題ないだろう。
第三位がフォンテーヌ公爵クロード、次が公爵子息シルヴェストルだ。彼らに任せよう。王家の交代と国の安定を見届けたら、この身は断罪してもらえばいい。この国が残れば、我が身も家名も消して構わなかった。
前回は間違えた。今回こそは正しい道を歩きたい。女神様の慈悲とお導きを……両手を組んで祈りながら、アルベール侯爵ジョゼフは目を閉じた。
瞼の裏に蘇ったあの日の光景は、赤に彩られている。噴水の前で愛娘の首を抱いた公爵と、大切な妹の亡骸を包んだ兄――不自然に揺れるご令嬢の右腕が妙に印象に残った。忠誠を尽くす相手を間違えた私だが、やり直しの機会にすべてを賭ける。間違えてもこの首ひとつだ。
この老ぼれなど要らぬと言われれば、それまで。フォンテーヌ公爵家の思うままに私が滅びればよい。覚悟など、宰相職に就いた時から出来ていた。
182
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる