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本編
29.忠誠を誓う書類の価値
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大量に積まれた誓約書の山を前に、フォンテーヌ公爵家当主クロードは苦笑いした。集めるのに前回あれほど苦労した紙が、勝手に手元に舞い込む状況は笑うしかない。王家を見限り、フォンテーヌ公爵家を頂点とした公国に忠誠を誓う書類だった。
各家の当主、跡取りが同時に署名する書類として知られている。その辺の確認は、宰相ジョゼフが行ったので抜かりない。執事クリスチャンも一緒に確認し、高く積まれた誓約書に名を連ねる貴族名のリストも完成した。
誓約書の山は大きく4つに分けられている。左から王家派、宰相派、公爵派、中立派だった。前回に各家が動いた結果は、きっちり記憶に残っている。
自分達の利益を計った王家派は、がたがたになった王家の残り少ない財産を食い物にした。あれは王家の財産ではなく、国の民の血税であったというのに。贅沢にうつつを抜かし、崩れていくジュベール王家と一緒に沈んだ派閥だ。ある意味、特権階級らしい振る舞いか。働くことも戦うこともせず、滅びるに任せて最後まで贅沢を手放さなかった。
宰相派は王家を支えるが、その実は王家派とまったく違う。文官や武官を多く輩出した中流貴族が多かった。ほとんど領地を持たない子爵や男爵が主流であったため、国を動かす実権を握っても金がなくて潰れた。4つある公爵家のどこかと手を組むことが出来れば、結果はまったく違っただろう。
公爵派はオードラン辺境伯やバシュレ子爵を筆頭に、実力や財力に恵まれた貴族家が集う。王家の振る舞いや非道な処刑に反発した彼らは正義感が強く、帝国に対しても徹底的に抗った。言うまでもなくフォンテーヌ公爵家を君主に掲げる一派で、すべてのバランスが取れていた。その上結束が固く、切り崩そうとした宰相派が痛手を負ったのは一度や二度ではない。
各貴族家の当主による生き残りのための一族結集が行われ、求心力と信用を失った王家の周囲は甘言を弄する者だけとなった。騎士や侍女は現状と同様、仕事を辞めて実家に戻る。その結果、ジュベール国軍は機能せず、兵たちは路頭に迷った。それを拾い上げたのが、公爵派と中立派だった。
金があったのはもちろん、兵力を必要とする理由がそれぞれにある。公爵派は殺された公爵令嬢コンスタンティナの復讐と王家打倒のために。中立派は己の財産や領地を守るための兵力を求めた。
中立派は高位貴族が多く、公爵や侯爵が中心だ。広大な領地を持ち、豊かな財産を保持している。戦でそれらを消費する気はなく、己の領地に閉じこもって防衛の一手に固執した。宰相派の誘いを跳ね除け、公爵派に協力するでもない。考えようによっては賢い選択だった。
やり直しが起きた今回、ごっそり動いたのは中立派だ。前回の己の選択に思うところはあったのだろう。領地や領民、家族を守るために閉じこもる以外に、何かできたのではないか? あの王家を放置して自分達を守ることに疑問を持つ者も出た。
「どうなさいますか?」
すでに君主として定めたクロードに、国王へ捧げた以上の敬意をこめて決断を促す。ある程度想像はつくが、かつて友だったこの男は残酷だ。切り捨てる者や時期を見誤る小物ではなかった。
「結果は分かっているだろう」
ふんと鼻で笑い、王家派の書類を掴んでゴミ箱へ投げ捨てた。残る山は3つ――見つめるクロードの眼差しは、切り裂くように鋭かった。
各家の当主、跡取りが同時に署名する書類として知られている。その辺の確認は、宰相ジョゼフが行ったので抜かりない。執事クリスチャンも一緒に確認し、高く積まれた誓約書に名を連ねる貴族名のリストも完成した。
誓約書の山は大きく4つに分けられている。左から王家派、宰相派、公爵派、中立派だった。前回に各家が動いた結果は、きっちり記憶に残っている。
自分達の利益を計った王家派は、がたがたになった王家の残り少ない財産を食い物にした。あれは王家の財産ではなく、国の民の血税であったというのに。贅沢にうつつを抜かし、崩れていくジュベール王家と一緒に沈んだ派閥だ。ある意味、特権階級らしい振る舞いか。働くことも戦うこともせず、滅びるに任せて最後まで贅沢を手放さなかった。
宰相派は王家を支えるが、その実は王家派とまったく違う。文官や武官を多く輩出した中流貴族が多かった。ほとんど領地を持たない子爵や男爵が主流であったため、国を動かす実権を握っても金がなくて潰れた。4つある公爵家のどこかと手を組むことが出来れば、結果はまったく違っただろう。
公爵派はオードラン辺境伯やバシュレ子爵を筆頭に、実力や財力に恵まれた貴族家が集う。王家の振る舞いや非道な処刑に反発した彼らは正義感が強く、帝国に対しても徹底的に抗った。言うまでもなくフォンテーヌ公爵家を君主に掲げる一派で、すべてのバランスが取れていた。その上結束が固く、切り崩そうとした宰相派が痛手を負ったのは一度や二度ではない。
各貴族家の当主による生き残りのための一族結集が行われ、求心力と信用を失った王家の周囲は甘言を弄する者だけとなった。騎士や侍女は現状と同様、仕事を辞めて実家に戻る。その結果、ジュベール国軍は機能せず、兵たちは路頭に迷った。それを拾い上げたのが、公爵派と中立派だった。
金があったのはもちろん、兵力を必要とする理由がそれぞれにある。公爵派は殺された公爵令嬢コンスタンティナの復讐と王家打倒のために。中立派は己の財産や領地を守るための兵力を求めた。
中立派は高位貴族が多く、公爵や侯爵が中心だ。広大な領地を持ち、豊かな財産を保持している。戦でそれらを消費する気はなく、己の領地に閉じこもって防衛の一手に固執した。宰相派の誘いを跳ね除け、公爵派に協力するでもない。考えようによっては賢い選択だった。
やり直しが起きた今回、ごっそり動いたのは中立派だ。前回の己の選択に思うところはあったのだろう。領地や領民、家族を守るために閉じこもる以外に、何かできたのではないか? あの王家を放置して自分達を守ることに疑問を持つ者も出た。
「どうなさいますか?」
すでに君主として定めたクロードに、国王へ捧げた以上の敬意をこめて決断を促す。ある程度想像はつくが、かつて友だったこの男は残酷だ。切り捨てる者や時期を見誤る小物ではなかった。
「結果は分かっているだろう」
ふんと鼻で笑い、王家派の書類を掴んでゴミ箱へ投げ捨てた。残る山は3つ――見つめるクロードの眼差しは、切り裂くように鋭かった。
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