【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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本編

57.嫌な予感ほど当たるわね

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 叔父様に面会の連絡を送ると、時間を指定された。すぐは無理だけれど、午後になれば時間が空くようね。神殿は独自のルールで動いているから、外からは見えない仕事があるのでしょう。納得して、変更した到着予定時刻を通知する。

 午後まで時間が空いたので、イングリットの部屋へ向かった。あの子と触れ合う時間は大事にしたい。可愛い娘は甘い香りをさせて、微睡んでいた。ふくふくの頬に触れたいけれど、起こしてしまうわね。

 眺めている間にも、頭の中であれこれと考えてしまう。こんなに愛らしい娘の前で、策略を練るなんて重症ね。自分でも呆れてしまう。それでも手を抜いて、後で悔やみたくないの。失態を誰かに指摘されるのも、嫌だわ。

 目をぱちりと開いた娘の頬に触れる。私が来ていると知って起きてくれたのかしら。親孝行な娘ね。吸い込まれるような帝国の青リヒテン・ブルーは、この子が間違いなく私の子である証明だった。どんな策略の末であろうと、私がどれほど苦しもうと。この子がいない未来より今を選ぶ。

 だから過去を悔やむのは無駄だった。可愛いイングリットを得るために必要なら、モーリスをもう一度夫に迎えてもいいと思うくらい……私はあなたを愛しているの。にこりと微笑みかければ、反射のように表情が動いた。愛おしさに胸が詰まる。

「時間です、トリア」

 同行予定のエック兄様の迎えに、頷いて立ち上がる。娘の頬から手を離すのが惜しくて、少し動けなかった。専属侍女のエリーゼに促され、娘を乳母に預ける。そのまま振り返らずに部屋を出た。

 すでに支度を整えていたが、軽く化粧直しをしてからエック兄様の腕を借りる。体に沿う柔らかな服は、胸の下にリボンが入っていた。そこで切り替えたように、すとんと落ちるスレンダーデザインだ。歩くと足の動きが伝わる魅惑的なドレスだが、胸元をきっちり閉めて裾の長い形は神殿向きだった。

「婚約者にヤキモチを妬かれないよう、お気をつけあそばせ」

「幸い、狭量な女性ではありません。トリアを尊敬しているそうですよ」

 軽い笑い話にしながら、神殿へ向かう。馬車の中で、新しい情報がないか確認し合った。やっぱり叔父様に聞くしかなさそう。持ち込んだスコーンを割って、エック兄様と頂く。さすがにお茶は溢しそうだけれど、クリームやジャムを載せるのは大丈夫そう。

 ある程度食べたところで、エリーゼから少量のお茶を受け取った。深いカップに半分以下のお茶、いつもならあり得ないけれど。溢さないための工夫なら上出来だった。お陰でなんとか服や顔を濡らすことなく飲み干す。

 向かいでエック兄様が、そっと袖を撫でた。もしかして溢したの? ふふっと笑えば、軽く睨まれた。全然怖くないし、照れ隠しと思えば可愛い。

「そろそろ着きます」

 むっとした口調のエック兄様が窓の外へ目を向ける。馬車が減速し、静かに止まった。迎えに出た神官の中に、知らない顔が紛れている。その上、叔父様がいなかった。危険信号ね。

「エック兄様、私が先に降ります」

「……紳士として問題ありますが、有事ならば仕方ありません」

 エック兄様は頭を使うのは向いているけれど、動くのはダメ。フォルト兄様と真逆なの。二人を足して割ったら丁度いいくらい。

 状況を察したエリーゼは、お茶セットを足元に置いて、座面の下から短剣を引き出した。今日の装いでは、短剣を足のベルトに仕込むのは不可能よ。だから馬車に持ち込ませた。神殿内では、エリーゼがスカートの内側に隠し持つ予定だったけれど。

 持ってきて正解、役に立ちそう。愛用の短剣を一度抜いて確かめ、鞘を置いて立ち上がった。馬車を降りる時が一番危険なはず。どうやって降りようかしらね。
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