連載開始 1巻4/10発売!【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
238 / 1,397
18章 魔王城改築の意外な効果

235. ずっとこのままならいいのに

しおりを挟む
 早朝、ルシファーは息苦しさで目を覚ました。何が起きたのかと思えば、胸の上で猫のように丸まった娘が熟睡している。身体に纏う結界が重さを軽減してくれるはずだが、魔力が似たリリスは結界を通過してしまうので、重さは普通に感じられた。

「重くなったな」

 成長の度合いを重さで測るのは、女性に対して失礼だ。しかしルシファーは気付かぬまま、頬を緩めてリリスの黒髪を撫でた。さらさらした髪は柔らかく、猫の毛に似ている。

 純白の魔王と同じ質の魔力を持つリリスが、正反対の漆黒の髪をもつのは不思議だった。量と質はある程度因果関係が認められている。正反対の色を持つのに魔力の質が似ているなど、今までにない事例だった。

 一部の魔族からはリリスを危険視する意見も出ているが、ルシファーは彼らを咎める気はなかった。同時に、リリスに対して警戒するつもりもない。

 魔王位が定まるまで、魔族は混沌とした暗黒時代を過ごした。その頃の話を伝え聞く貴族が魔王に害をなす存在に怯えるのは当然だ。いくら強くても隙を突かれたら負ける可能性はゼロではなかった。魔王位が空席となれば、再び魔族は血で血を洗う時代に突入するだろう。

 彼らの心配は当然だった。しかし愛するリリスに殺されるなら、それも運命と甘んじて受ける覚悟があるルシファーにとって、貴族達の懸念はどうでもよかった。自分が死んだ後のことまで心配する気はないし、アスタロト達がいれば何とかしてくれると信じている。

 朝日が徐々に部屋を明るく照らし出し、ついにベッドに届いた。数百年ぶりの別宅の私室は、さすがに誰も使わなかったらしい。埃よけと状態維持の魔法陣を刻んだ建物で、魔力の残滓が漂うこの部屋は手付かずだった。

 ひとつ欠伸をして視線を向けると、リリスの小さな手が何かを探すように動く。髪をさけて、ルシファーの指先を掴んできゅっと強く握った。

「ずっとこのままならいいのに」

 ふと本音が漏れる。誰も聞いていないから言える言葉だった。

 誰に言われなくても知っている。人族は寿命が短く、魔族とのハーフでも数百年程度だろう。自分があと何年生きるのかわからないが、少なくともリリスより長生きなのは間違いなかった。

 ふと、疑問が過ぎる。公爵位の魔力があっても2~3万年ほどが寿命だ。ルキフェルを除く3人の大公はルシファーより年上だった。他の魔族と何が違う……確かに魔力量は多いだろう。しかし異常なほどの長寿の要因として、魔力量は弱い理由だった。

「何か原因がある、のか?」

 気になった考えを突き詰める前に、リリスが可愛い欠伸をして目を開く。一度閉じて、またすぐに赤い目が開いた。瞬きの後で、もうひとつ欠伸をする。

「おはよう、リリス」

「うん……おはよ~ぱぱぁ」

 まだ半分寝ているらしく、目元を擦ろうとする手を掴んでやめさせた。抱き上げて身を起こすと、掴んでいた指に気付いて首をかしげる。

「なんで掴んでるの?」

「パパが寂しかったからだよ」

「寂しかったの?」

「ちょっとだけ」

 くすくす笑いながら、他愛のない言葉をかわす。隣の部屋は記憶の中と同じバスルームだった。騎士となったイポスにはしゃいだリリスは、昨夜遅くまで起きていたため、風呂を後回しにして寝たのだ。朝日が眩しい部屋で服を脱がせて、いつもと同じように洗って湯船に浸かった。

「パパはリリスと一緒だから、もう寂しくならないよ」

 にっこり笑って頷けば、リリスは嬉しそうに膝の上で湯を叩く。照れているのだろうが、いちいち仕草が可愛い。湯を飛ばすリリスが落ち着くのを待って、親子は風呂を出て身体を乾かした。ひょいっと空中に手を突っ込んで、城のクローゼットからリリスの服を引っ張り出す。

 自分はさっさと黒いローブを纏い、リリスを手招きした。

「今日はこれにしよう」

 シンプルなクリーム色のワンピースを着せ、上にショールを羽織らせた。胸の辺りで薔薇のブローチで留めて、魔法陣で落ちないよう固定する。慣れた作業を終えると、ベッドに座った自分の膝の上にリリスを乗せた。

 黒髪を丁寧に梳いてから三つ編みを編んでいく。それを絡めて後ろでお団子にしてからリボンを飾った。今日も満足できる出来である。

「よし、今日もオレのお姫様は最高だ。可愛いぞ、リリス」

 頬にちゅっと音を立ててキスしたところで、ドアがノックされた。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...