239 / 1,397
18章 魔王城改築の意外な効果
236. 見つけたら回収の指示
しおりを挟む
サタナキアの教育が厳しかったのだろう。優雅な礼をしたイポスの姿に、これは良い従者を得たと笑みを浮かべる。
「お食事の支度が整いました」
「ありがとう。行こうか、リリス」
「うん! ありがと、お姉ちゃん」
ちゃんとお礼を言えたのは偉いが、呼び名はイポスと呼び捨てが好ましい。この場で注意すべきか迷うルシファーをよそに、イポスは微笑んで膝をついた。
抱き上げられたリリスより視線を低くしてから、頭を下げる。きっちり結ったまとめ髪が、昨夜の貴族令嬢然とした雰囲気を一変させていた。
「リリス様、私のことはイポスと呼び捨ててくださいませ」
「パパ、みんな同じ?」
ルーサルカやシトリーを呼び捨てるよう教えたため、同じなのか確かめたリリスに頷く。ちょうど良いので、付け加えておいた。
「リリスは魔族全てを呼び捨てで構わないんだ」
魔王妃であれば、魔王以外に敬称をつける必要はない。ルシファー自身も『様』呼びは不要だと考えるため、リリスが様をつけて呼びかける相手は存在しないことになる。
「わかった」
どこまで理解できたのか。ルシファーの銀の瞳を見つめながら、リリスは素直に頷いた。
イポスの案内で食堂へ向かうと、律儀なサタナキアがドアの前に立っていた。どうも彼の一族は真面目すぎる。忠誠第一のサタナキアは、侍従のように扉を開けた。
本来の彼は公爵家当主なのだが、満面の笑みで給仕まで始めてしまう。楽しそうなので断るのも気が引けたルシファーは、リリスと席に着いた。
「一緒に食べてもいい? パパ」
イポスやサタナキアも一緒がいいと強請る愛娘のファインプレーに、ルシファーは彼らに席に着くよう促す。
「リリスの願いだ、叶えてやってくれ」
恐れ多いと辞退しようとした彼らも、ルシファーの言葉とリリスの期待まじりの視線に負けた。並んで座ると、リリスはイポスが淹れてくれたお茶に手を伸ばす。
仲良く過ごす2人の姿に、顔を見合わせたルシファーとサタナキアは安堵の笑みを浮かべた。
サタナキア公爵令嬢イポスの恩赦と彼女のリリス専属騎士就任を伝えると、アスタロトとベールから歓迎の意が示された。
「我々は魔王城でお待ちしております」
そう言って見送ってくれるサタナキア親子に手を振り、リリスは大好きなルシファーに抱きついた。まだ視察と調停案件が残っているため、2人で次の街へ移動するのだ。
踵を返しかけて、忘れ物を思い出した。
「そうだ! もし魔の森の奥に捨てた魔族のメスを見つけたら、各一族の元へ送り届けるよう、指示しておいてくれ」
魔王妃の地位を狙ってリリスを怯えさせた女をまとめて捨てたことがある。ほぼ同時期に禁錮となったイポスが恩赦になるなら、彼女達も対象になるだろう。
軽い気持ちでサタナキアに告げると、彼は顔をしかめた。
「そう嫌そうな顔するな。もう言い寄るようなバカはしないだろう」
ルシファーのもっともな意見に、渋々ながらも頷く。自分の娘が恩赦となったのだから仕方ないと溜め息をついて受け入れた。
「見つけましたら、保護して送り届けます」
「ああ、その程度で構わない」
ルシファーとて、まだ完全に許す気はなかった。あれだけリリスを怖がらせ、「ママはいらない」と言わせたのだ。本音はまだ放置しておきたかった。
まあ、ほとんどは魔物の餌となり生きていないだろうが。
サタナキア公爵令嬢が恩赦となるのに、他の種族のメスを放置すれば非難の対象となる。だから、見つけたら回収の指示を出した。
逆に言うなら「回収の部隊を出せ」とも「見つけて来い」とも言っていない。見つからなければ見つけなくていいのだ。
魔王の真意をくみ取った、忠実な将軍はにやりと口元に意味深な笑みを浮かべる。意図がきちんと伝わったルシファーは満足げに頷いた。
「任せる」
「はっ! しかと承りました」
リリスは話の間、イポスに手を振って笑顔を振りまいていた。律儀に振り返すイポスは、父に続いて頭を下げる。
「お気をつけて」
見送られた魔王と愛娘は、次の視察先である街へ向かった。
「お食事の支度が整いました」
「ありがとう。行こうか、リリス」
「うん! ありがと、お姉ちゃん」
ちゃんとお礼を言えたのは偉いが、呼び名はイポスと呼び捨てが好ましい。この場で注意すべきか迷うルシファーをよそに、イポスは微笑んで膝をついた。
抱き上げられたリリスより視線を低くしてから、頭を下げる。きっちり結ったまとめ髪が、昨夜の貴族令嬢然とした雰囲気を一変させていた。
「リリス様、私のことはイポスと呼び捨ててくださいませ」
「パパ、みんな同じ?」
ルーサルカやシトリーを呼び捨てるよう教えたため、同じなのか確かめたリリスに頷く。ちょうど良いので、付け加えておいた。
「リリスは魔族全てを呼び捨てで構わないんだ」
魔王妃であれば、魔王以外に敬称をつける必要はない。ルシファー自身も『様』呼びは不要だと考えるため、リリスが様をつけて呼びかける相手は存在しないことになる。
「わかった」
どこまで理解できたのか。ルシファーの銀の瞳を見つめながら、リリスは素直に頷いた。
イポスの案内で食堂へ向かうと、律儀なサタナキアがドアの前に立っていた。どうも彼の一族は真面目すぎる。忠誠第一のサタナキアは、侍従のように扉を開けた。
本来の彼は公爵家当主なのだが、満面の笑みで給仕まで始めてしまう。楽しそうなので断るのも気が引けたルシファーは、リリスと席に着いた。
「一緒に食べてもいい? パパ」
イポスやサタナキアも一緒がいいと強請る愛娘のファインプレーに、ルシファーは彼らに席に着くよう促す。
「リリスの願いだ、叶えてやってくれ」
恐れ多いと辞退しようとした彼らも、ルシファーの言葉とリリスの期待まじりの視線に負けた。並んで座ると、リリスはイポスが淹れてくれたお茶に手を伸ばす。
仲良く過ごす2人の姿に、顔を見合わせたルシファーとサタナキアは安堵の笑みを浮かべた。
サタナキア公爵令嬢イポスの恩赦と彼女のリリス専属騎士就任を伝えると、アスタロトとベールから歓迎の意が示された。
「我々は魔王城でお待ちしております」
そう言って見送ってくれるサタナキア親子に手を振り、リリスは大好きなルシファーに抱きついた。まだ視察と調停案件が残っているため、2人で次の街へ移動するのだ。
踵を返しかけて、忘れ物を思い出した。
「そうだ! もし魔の森の奥に捨てた魔族のメスを見つけたら、各一族の元へ送り届けるよう、指示しておいてくれ」
魔王妃の地位を狙ってリリスを怯えさせた女をまとめて捨てたことがある。ほぼ同時期に禁錮となったイポスが恩赦になるなら、彼女達も対象になるだろう。
軽い気持ちでサタナキアに告げると、彼は顔をしかめた。
「そう嫌そうな顔するな。もう言い寄るようなバカはしないだろう」
ルシファーのもっともな意見に、渋々ながらも頷く。自分の娘が恩赦となったのだから仕方ないと溜め息をついて受け入れた。
「見つけましたら、保護して送り届けます」
「ああ、その程度で構わない」
ルシファーとて、まだ完全に許す気はなかった。あれだけリリスを怖がらせ、「ママはいらない」と言わせたのだ。本音はまだ放置しておきたかった。
まあ、ほとんどは魔物の餌となり生きていないだろうが。
サタナキア公爵令嬢が恩赦となるのに、他の種族のメスを放置すれば非難の対象となる。だから、見つけたら回収の指示を出した。
逆に言うなら「回収の部隊を出せ」とも「見つけて来い」とも言っていない。見つからなければ見つけなくていいのだ。
魔王の真意をくみ取った、忠実な将軍はにやりと口元に意味深な笑みを浮かべる。意図がきちんと伝わったルシファーは満足げに頷いた。
「任せる」
「はっ! しかと承りました」
リリスは話の間、イポスに手を振って笑顔を振りまいていた。律儀に振り返すイポスは、父に続いて頭を下げる。
「お気をつけて」
見送られた魔王と愛娘は、次の視察先である街へ向かった。
56
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる