【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!

文字の大きさ
396 / 1,397
30章 勇者の紋章の行方

393. 良かった!では片付かない

しおりを挟む
 リリスにパパと呼んでもらえなかったショックで、とぼとぼと執務室を出る。散歩道へ向かうルシファーの左腕に抱かれた赤子は、大喜びで身体を揺すった。最近よく見せる仕草だ。

 執務室の前の廊下を進み中庭を抜ける。ここ数日で薔薇が咲き始めた広間前の庭を眺めながら歩いていると、勉強を終えた少女達が駆け寄ってきた。

「お散歩ですか?」

「ご一緒させてください」

 ルーサルカとルーシアの声に頷き、赤、黄色、白と咲き乱れる花の間を歩いていく。エルフ達が丹精した薔薇の香りが周囲を満たしていた。

「あぶぅ。ぱぁ……あ!」

 一瞬期待したルシファーだが、あと少しのリリスを撫でながら溜め息をついた。その姿に事情を察したルーシアが声を上げる。

「陛下、そこまで気落ちされずとも、すぐに話せるようになりますわ。賢いリリス様ですもの」

「そうです」

 相槌を打つルーサルカに頷きながら、ルシファーはある事実に気づいた。

 ルーサルカの視線の高さが違うのだ。ここ数ヶ月でルーサルカは急に背が高くなり、ルーシアも髪が伸びている。成長期の少女なら当然だが、同時に違和感を覚えた。

 腕の中のリリスが赤子になってから髪の伸びた形跡がないのだ。赤子に戻る事件から数ヶ月経っていた。月齢で数える赤子にとって、1ヶ月もあれば大きな成長が見込める。しかし髪も爪も伸びず、リリスの言葉数も増えないならば、成長していない可能性があった。

 苦労しながら赤子の柔らかい爪を切り落とした記憶が過る。風を使って、でも爪以外を切らないよう加減するのが難しかった。深く切りすぎて、痛みで泣くリリスをあやした記憶もある。

 ルシファーの脳裏に浮かんだのは、成長が早すぎたというベルゼビュートの指摘だった。あのとき、魔力が膨大な魔族の成長速度と比較して、人間のように年齢を重ねたリリスの成長は異常だと言われた。その場で納得したが……赤子の成長が遅い種族でも髪や爪は普通に伸びるはず。

 眉をひそめたルシファーの元へ、報告書片手のアスタロトが近づいた。執務室へ向かっていたアスタロトだが、途中で見かけたルシファーを追ったのだ。

「いかがなさいましたか」

 ルシファーの眉間の皺に気づいた側近が首をかしげる。少し迷いながら言葉を選んで相談した。

「リリスが……成長してない、気がして。髪や爪が伸びないし」

 アデーレの方が相談相手として向いていると考えながら、アスタロトは記憶をさらった。成長しない赤子の話に覚えがある。どの種族だったか。どこで目にしたのか。

「成長しない赤子の話を読んだ気がするのですが」

「本当か?」

 前例があったのか! と勢いよく食いついたルシファーには悪いが、詳細がまったく思い出せない。流し読みした資料に乗っていた可能性があり、こういう事例は記憶力に優れたルキフェルが向いていた。

「ルキフェルに確認しましょう」

「そうだな。すぐに戻ろう」

 散歩を切り上げて足早に進むルシファーが、突然立ち止まる。慌てた様子でリリスを抱き直し、不思議そうな顔で腕の中を見つめてから呟いた。

「リリスが……急成長した」

「はい?」

「「え?」」

 アスタロトだけでなく、ルーシアやルーサルカも首をかしげる。何を言い出したのだろう。もしかしたら、リリスの成長を望むあまりおかしくなったんじゃ……? そんな疑惑の眼差しに気づくことなく、ルシファーはリリスの黒髪や小さな手を確認する。

「やっぱり重くなった」

 リリスを揺らして重さも確かめる姿に、アスタロトが慌てて巻き尺を引っ張り出した。さきほどまですっぽり抱かれていた赤子の手足がはみ出しており、どう見てもサイズが大きい。3歳前後に匹敵する大きさに見えた。

「失礼します」

 頭の上から足の先まで巻き尺で測り、茫然とした様子でアスタロトが赤子を見つめる。

義父上ちちうえ、どうでしたか?!」

「もったいぶらないでください」

 少女達の声にアスタロトは普段の冷静さが嘘のように、上ずった声で呟いた。

「本当に、大きくなっています……92cmでした」

 一晩で数cm大きくなった獣人の子の話は聞くが、目の前で瞬きの間に22cmも成長する魔族の話など知らない。そんな種族の記録はないはずだ。混乱した魔王と側近は顔を見合わせ、ほぼ同時にリリスに目を向けた。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...