4/10コミック1巻発売!【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
452 / 1,397
33章 人族の勢力バランスなんて知らん

449. 名乗るより先にお礼から

しおりを挟む
 円卓を用意するよう頼んだところ、城で一番大きな楕円形のテーブルが置かれていた。エルフが丹精した巨木はテーブルに木漏れ日を落とし、心地よい葉擦れの音を響かせる。ヤンが椅子を2つほど蹴散らすと、その場に丸くなって期待の眼差しを向けた。

「頼むぞ」

 声に出して労ったルシファーの腕から、リリスが「えいっ!」と掛け声勇ましく飛び込んだ。柔らかな毛皮に沈んだ幼女は、溺れた長い毛の間から顔を覗かせる。

「パパ、すごい! ヤンの毛がふかふか!!」

 冬毛のシーズンなので、柔らかく短い毛がたくさん生えているらしい。黒髪を乱したリリスを撫でながら、ルシファーが当然のごとくヤンの上に座った。魔王直属ソファの肩書がすっかり気に入ったフェンリルは、森の王者だった風格そっちのけで寛ぐ。前足をクロスさせた上に顎を乗せ、満足そうに息を吐いた。

「ヤンは冬になると毛が柔らかくなるからな」

 夏毛は涼しさを保つために、硬い毛が多くなる。犬と同じと指摘したら怒られるので、曖昧な言い方で誤魔化した。彼らにとって犬と狼の間には深くて暗い溝があるらしい。飛び越えられないというから、話題にしない方が賢いだろう。

「えっと、話するなら近い方がいいですか?」

 勇者アベルが首をかしげる。以前はアスタロト達側近が周囲を固め、少し離れた位置に座った。今回はどうすればいいのか。円卓というのは上座や下座が分かりづらい。勝手に座って叱られるのも怖いと、アベルは答えを待った。

「陛下のおそばには我々がおりますので、向かい側へどうぞ」

 ふわりと舞い降りたシトリーが翼を畳んで会釈した。腰まで届く長い銀髪をポニーテールに結った少女は、ルシファーに近い両側の席を確保して微笑む。ワンピースやドレスだと飛んだ際に見えてしまうため、乗馬ズボンのような軽装だった。

「お待たせいたしました、リリス様」

「ご機嫌よう、リリス様」

 ルーサルカとルーシアが並んで椅子に座る。城にいる大公がルキフェル1人なので、アデーレが気を利かせたらしい。狐尻尾をスカートから見せるルーサルカが座ると、リリスが嬉しそうに手を伸ばした。手を握り返してから、ふさふさの尻尾に触らせている。

 ルーシアは保育園当時から一緒だったため、手を振って挨拶を交わした。リリスが「ライは?」と呟く。珍しくドラゴンの尻尾や羽を出しっぱなしのレライエが駆け付け、大急ぎで乱れた髪を手櫛で直し始めた。なにやら理由があって遅刻したらしい。

「レライエったら、落ち着いて」

 一番年長のルーサルカが笑いながら椅子をすすめる。全員が着座した先で、残された椅子に3人の召喚者が腰掛けた。ルシファーからみて右にアベル、中央が聖女アンナ、左側は新たに発見された青年だ。アベルに「キヨノセンパイ」と呼ばれていた。

「アベル。その男はキヨノ、というのか?」

「阿部はなんて説明した?」

 アベルと呼ばれている状況に、青年が首をかしげた。フルネームなら「アベルカイ」となるが、奇妙な位置で名を分断されている。妙に魔王城に馴染んでいるのも気になった。

 運んできたサンドウィッチを並べるアデーレに、「ありがとうございます!!」と礼を言って皿を引き寄せるアベルが、隣を振り返って動きを止めた。先輩という単語がこの世界になさそうだし、説明が難しい。

「俺に任せてもらっていいっすか?」

 頷く兄妹に全権委任されたアベルが、ルシファーと向き合った。男女問わず魅せられる美しい顔の青年は、膝の上によじ登る幼女を撫でながら待っている。真っ白な髪だが年寄りには見えず、逆にきらきら輝いている。銀の瞳や真っ白な肌は、人形かと思うほど人離れした外見だった。

 事実、魔王であり人ではないのだから当然なのだが。

「聖女救出、ありがとうございました」

 最初に礼から始めたのは、アベルの祖母の教えだった。相手にしてもらったら、謝罪よりなによりお礼から言え。礼を言われて気分を害する者はいない。そう言い聞かされて育ったので、無意識の行動だ。

 頷いたルシファーの膝に落ち着くリリスは、ルーサルカが差し出すお菓子をもらい、逆の手にシトリーから貰った飴を握ってご満悦だった。

「お姉ちゃん、せーじょっていうの?」

「リリス、話の途中で口を挟んではいけないよ。最後まで聞こうね」

「わかった」

 素直に頷いたリリスの黒髪に、上から葉が落ちた。黄色く色づいた葉を乗せたリリスが、なんとか頭の上の葉を取ろうと手を伸ばす。しかしうまくいかず、左右に動いたため膝の上に落ちてきた。その葉を拾い上げ、なぜか満足そうにお菓子の隣に並べる。

 すべて手描きの高価な皿の端に、黄色い葉が得意げに揺れた。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...