1,043 / 1,397
75章 バランスが崩れる兆し
1038. 魔力を流す、んすか?
しおりを挟む
ルキフェルは持ち込まれた案件に順番をつけて、部下に割り振った。優先すべきは人族より狒々の方だ。知能が高く雑食の狒々が飢えていたなら、肉食動物はさらにひどい飢餓状態にある可能性があった。
「調査結果が出たらすぐに持ってきて」
現場の調査は魔王軍が担当する。持ち帰ったデータの照合や集計を行うのが、研究所の仕事だった。分析は得意だが、現場での作業は専門外だ。
ベール指揮の下、魔王軍は手分けして各地の動物の栄養状態の確認に走った。結果が出るまで半日以上かかるため、集計や分析は明日以降となる。
子狼のアミーが疲れたから、とゲーテは自室に引き上げてしまった。予定外の襲撃と戦闘があり、彼も疲れたのだろう。
「今日はもう終わりね。少し遅いけど、プリンよ」
リリスが作ったおやつを、ルシファーが亜空間経由で厨房の冷蔵庫から取り出す。よく冷やされた銀の器は、すぐに白く霜が張った。
「ルシファーと私、ルカとアベル、アシュタ、ロキちゃん、ベルちゃん……んー、足りるわね」
襲撃後に帰城してから作ったデザートは、すでに大公女達に配り終えていた。多めに作って正解だったとリリスが微笑む。ちなみに冷蔵庫内にまだ2つ残っている分は、彼女の夕食後のデザートと朝のデザートとなる予定だった。
イポスとヤンは味見を終えている。最初に食べさせられたので、ある意味、毒見でもあった。
「ご飯前にいいんですか?」
アベルが心配そうに尋ねる。以前にリリスが食事前にデザートを食べ、アデーレに叱られる場面を見たことがあった。同じ状況にならないか心配なのだろう。
「平気よ。みんなで食べたら怖くないわ」
「一理ある」
頷くルシファーが真っ先に手をつけ、続いて大公達が続く。リリスもぱくりと口に含み、幸せそうに笑った。ルーサルカやアベルも食べる頃、慣れた手つきでルキフェルがコーヒーを運んできた。
「プリンだから紅茶でもよかったけど」
研究所は眠気覚ましも兼ねて、普段からコーヒーを淹れている。その道具を使ったので、紅茶より早く準備ができた。たっぷりとミルクを足すのはリリスとルキフェルだ。アベルは砂糖のみ、他の面々はブラックで口をつけた。
「そちらはどうでした?」
アスタロトの問いかけに、ルシファーが苦笑いを浮かべる。
「ミヒャール湖だったか、湖に行ったら人族の生き残りに襲撃された」
「うわぁ……最悪っすね」
アベルが顔を顰めて、気の毒そうな視線を向ける。だが彼らも襲撃されたのだから、似たような状況だった。
「そちらは?」
話を向けられ、ルーサルカが説明役を買ってでた。
「狩りの後、ゲーテ達と合流してお義父様お勧めの赤い椿を見に行ったのですが……狒々に囲まれました。お義父様がいなくなったのを待って襲われたので、アベルが頑張ってくれて」
「ほう。あの魔剣はどうだった。よく斬れるだろう」
褒美として剣を与えたルシファーが、切れ味を尋ねる。アベルは思い出したように首をかしげた。
「それが、斬れる時と斬れない時があって」
「ちゃんと魔力を流したか?」
「なんですかそれ」
「「……え?」」
使い方を間違えたのではないかと指摘するルシファーに、アベルはきょとんとした顔で反射的に言葉を吐き出す。向かいでベールとルキフェルが奇妙な顔をした。
「魔剣って、魔力を流さないと斬れないよ?」
ルキフェルが「嘘でしょ」と呟きながら、彼らにとって当たり前すぎる事実を突きつけた。異世界から来たアベルには寝耳に水だ。魔法を使うときに魔力を使うのであって、剣術にも魔力が必要と知らなかったのだ。
「流す、んすか?」
驚きすぎて言葉がおかしなことになったアベルに、大公3人と魔王が頷いた。沈黙が落ちる。
「まさか棍棒代わりに振り回したのですか? あの名剣を……」
「いや……あの、あとで試してみる……ます」
まだぎこちないアベルの応対に、4人は自分達の説明不足に気づいて肩をすくめた。
「調査結果が出たらすぐに持ってきて」
現場の調査は魔王軍が担当する。持ち帰ったデータの照合や集計を行うのが、研究所の仕事だった。分析は得意だが、現場での作業は専門外だ。
ベール指揮の下、魔王軍は手分けして各地の動物の栄養状態の確認に走った。結果が出るまで半日以上かかるため、集計や分析は明日以降となる。
子狼のアミーが疲れたから、とゲーテは自室に引き上げてしまった。予定外の襲撃と戦闘があり、彼も疲れたのだろう。
「今日はもう終わりね。少し遅いけど、プリンよ」
リリスが作ったおやつを、ルシファーが亜空間経由で厨房の冷蔵庫から取り出す。よく冷やされた銀の器は、すぐに白く霜が張った。
「ルシファーと私、ルカとアベル、アシュタ、ロキちゃん、ベルちゃん……んー、足りるわね」
襲撃後に帰城してから作ったデザートは、すでに大公女達に配り終えていた。多めに作って正解だったとリリスが微笑む。ちなみに冷蔵庫内にまだ2つ残っている分は、彼女の夕食後のデザートと朝のデザートとなる予定だった。
イポスとヤンは味見を終えている。最初に食べさせられたので、ある意味、毒見でもあった。
「ご飯前にいいんですか?」
アベルが心配そうに尋ねる。以前にリリスが食事前にデザートを食べ、アデーレに叱られる場面を見たことがあった。同じ状況にならないか心配なのだろう。
「平気よ。みんなで食べたら怖くないわ」
「一理ある」
頷くルシファーが真っ先に手をつけ、続いて大公達が続く。リリスもぱくりと口に含み、幸せそうに笑った。ルーサルカやアベルも食べる頃、慣れた手つきでルキフェルがコーヒーを運んできた。
「プリンだから紅茶でもよかったけど」
研究所は眠気覚ましも兼ねて、普段からコーヒーを淹れている。その道具を使ったので、紅茶より早く準備ができた。たっぷりとミルクを足すのはリリスとルキフェルだ。アベルは砂糖のみ、他の面々はブラックで口をつけた。
「そちらはどうでした?」
アスタロトの問いかけに、ルシファーが苦笑いを浮かべる。
「ミヒャール湖だったか、湖に行ったら人族の生き残りに襲撃された」
「うわぁ……最悪っすね」
アベルが顔を顰めて、気の毒そうな視線を向ける。だが彼らも襲撃されたのだから、似たような状況だった。
「そちらは?」
話を向けられ、ルーサルカが説明役を買ってでた。
「狩りの後、ゲーテ達と合流してお義父様お勧めの赤い椿を見に行ったのですが……狒々に囲まれました。お義父様がいなくなったのを待って襲われたので、アベルが頑張ってくれて」
「ほう。あの魔剣はどうだった。よく斬れるだろう」
褒美として剣を与えたルシファーが、切れ味を尋ねる。アベルは思い出したように首をかしげた。
「それが、斬れる時と斬れない時があって」
「ちゃんと魔力を流したか?」
「なんですかそれ」
「「……え?」」
使い方を間違えたのではないかと指摘するルシファーに、アベルはきょとんとした顔で反射的に言葉を吐き出す。向かいでベールとルキフェルが奇妙な顔をした。
「魔剣って、魔力を流さないと斬れないよ?」
ルキフェルが「嘘でしょ」と呟きながら、彼らにとって当たり前すぎる事実を突きつけた。異世界から来たアベルには寝耳に水だ。魔法を使うときに魔力を使うのであって、剣術にも魔力が必要と知らなかったのだ。
「流す、んすか?」
驚きすぎて言葉がおかしなことになったアベルに、大公3人と魔王が頷いた。沈黙が落ちる。
「まさか棍棒代わりに振り回したのですか? あの名剣を……」
「いや……あの、あとで試してみる……ます」
まだぎこちないアベルの応対に、4人は自分達の説明不足に気づいて肩をすくめた。
41
あなたにおすすめの小説
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる