1,243 / 1,397
91章 天才恋愛作家現る?
1238. 天才作家の意外な正体
しおりを挟む
お茶会のテーブルの上に、リリスは読み終えたばかりの恋愛小説を置いた。
「これ、アンナが書いたでしょ」
お茶に呼ばれたアンナにそう尋ねた。双子の片割れを抱いたアンナは目を見開き、本を見て微笑んだ。隣に座るイザヤが息子をあやしながら目を逸らす。
お茶を一口飲んだアンナは目を伏せ、少し時間を置いてからカップをソーサーへ戻した。ルーサルカはお気に入りの茶菓子をひとつ口へ入れ、ルーシアに「アベルは一緒に来なかったのね」と揶揄われて噎せる。慌てたシトリーがお茶を差し出し、慌てて喉を潤した。
「ふふっ、そうですよね。リリス様まで騙せるなんて」
偲び笑うアンナの思わぬ言葉に、全員が目を見開く。まさか? そんな視線を向けたルシファーに、イザヤが真っ赤な顔で俯いた。息子が耳を掴んで引っ張る。苦笑いしたアンナが、息子の気を引いて夫の耳を離させた。微笑ましい家庭の一場面を見ながら、擦れた声でルシファーが沈黙を破る。
「イザヤ、なのか?」
信じられない。そう匂わせたルシファーへ、おずおずと頷いた。リリスは驚き過ぎて口を押えて絶句し、大公女達は予想外すぎる真実に固まる。あの愛らしい令嬢の仕草やセリフを書き記し、傷ついたご令嬢を熱く口説く男性を描き切った作家が……目の前の武人と見抜く者はいなかった。
「ええ。意外な才能でしょう? 実は日本でも書いていたそうです、私にも内緒にしてて。先日偶然知ったんです。私が大好きな作家の小説の続きが読みたいと話したら、その作家が兄でした」
「夫だ」
さっと訂正するイザヤだが、顔も耳も腕も……見える場所はすべて真っ赤だった。照れるとぶっきらぼうになるのは知ってたが、ここまで赤くなるのは余程照れているのだろう。
「素晴らしい才能だ。作家本人がいるならちょうどいい。先日の話を決めてしまおう」
今後の娯楽開発において読書が重要、とまだ簡素な案をルシファーが切り出す。あっという間に議論が始まり、ルーサルカやシトリーが懸念を表明する。というのも予算を与える作品に基準を設ける方向性らしい。だが今後の発展を考え、ルーシアとレライエは作家自身に頑張る気があれば、チャンスを与えるべきと主張した。翡翠竜は深く考えずに、婚約者を支持する。
双方の意見はどちらももっともな話で、ルシファーはにこにこしながらリリスの口に焼き菓子を運ぶ。こうした議論は活発に行う方がいい。遺恨を残しそうになったり、違う方向へ話が逸れたときに口を挟むだけでよかった。年長者の役目はそのくらいと考えるルシファーの膝で、リリスはお茶のカップに檸檬を滑らせる。
「ルシファー、青いお茶が飲みたいわ」
「アデーレに頼んでおこう。明日でいいか?」
「そうね。今は盛り上がってるからお茶の色が黒でも気づかなそうだもの」
檸檬を入れるとピンクになる青いお茶は、リリスのお気に入りだ。檸檬を滑らせたことで思い出したのだろう。のどかな会話をする魔王と未来の魔王妃の前で、作家本人を巻き込んだ論争は白熱していた。
「結局どうなるのかしら」
「全体の方針としては、何らかの基準に達した作家に支援することになるだろうな。過去の事例を踏襲すればの話だ。もし日本人や大公女の知恵や発案で素晴らしいものがあれば、それを採用する」
儀式や形式にこだわるように見える大公達も、こうして議論を交わして発案し、実行してからも改善してきた。大まかな方向性は守ってきたが、新しい考え方を受け入れる土壌はある。
「まあ、しばらくはアイディアを出し尽くしてもらおうか」
笑うルシファーの頬を引っ張り、リリスが「悪い顔よ」と注意する。顔を見合わせてくすくす笑う2人の前で、熱くなった6人と1匹は意見を交わし続けた。
「これ、アンナが書いたでしょ」
お茶に呼ばれたアンナにそう尋ねた。双子の片割れを抱いたアンナは目を見開き、本を見て微笑んだ。隣に座るイザヤが息子をあやしながら目を逸らす。
お茶を一口飲んだアンナは目を伏せ、少し時間を置いてからカップをソーサーへ戻した。ルーサルカはお気に入りの茶菓子をひとつ口へ入れ、ルーシアに「アベルは一緒に来なかったのね」と揶揄われて噎せる。慌てたシトリーがお茶を差し出し、慌てて喉を潤した。
「ふふっ、そうですよね。リリス様まで騙せるなんて」
偲び笑うアンナの思わぬ言葉に、全員が目を見開く。まさか? そんな視線を向けたルシファーに、イザヤが真っ赤な顔で俯いた。息子が耳を掴んで引っ張る。苦笑いしたアンナが、息子の気を引いて夫の耳を離させた。微笑ましい家庭の一場面を見ながら、擦れた声でルシファーが沈黙を破る。
「イザヤ、なのか?」
信じられない。そう匂わせたルシファーへ、おずおずと頷いた。リリスは驚き過ぎて口を押えて絶句し、大公女達は予想外すぎる真実に固まる。あの愛らしい令嬢の仕草やセリフを書き記し、傷ついたご令嬢を熱く口説く男性を描き切った作家が……目の前の武人と見抜く者はいなかった。
「ええ。意外な才能でしょう? 実は日本でも書いていたそうです、私にも内緒にしてて。先日偶然知ったんです。私が大好きな作家の小説の続きが読みたいと話したら、その作家が兄でした」
「夫だ」
さっと訂正するイザヤだが、顔も耳も腕も……見える場所はすべて真っ赤だった。照れるとぶっきらぼうになるのは知ってたが、ここまで赤くなるのは余程照れているのだろう。
「素晴らしい才能だ。作家本人がいるならちょうどいい。先日の話を決めてしまおう」
今後の娯楽開発において読書が重要、とまだ簡素な案をルシファーが切り出す。あっという間に議論が始まり、ルーサルカやシトリーが懸念を表明する。というのも予算を与える作品に基準を設ける方向性らしい。だが今後の発展を考え、ルーシアとレライエは作家自身に頑張る気があれば、チャンスを与えるべきと主張した。翡翠竜は深く考えずに、婚約者を支持する。
双方の意見はどちらももっともな話で、ルシファーはにこにこしながらリリスの口に焼き菓子を運ぶ。こうした議論は活発に行う方がいい。遺恨を残しそうになったり、違う方向へ話が逸れたときに口を挟むだけでよかった。年長者の役目はそのくらいと考えるルシファーの膝で、リリスはお茶のカップに檸檬を滑らせる。
「ルシファー、青いお茶が飲みたいわ」
「アデーレに頼んでおこう。明日でいいか?」
「そうね。今は盛り上がってるからお茶の色が黒でも気づかなそうだもの」
檸檬を入れるとピンクになる青いお茶は、リリスのお気に入りだ。檸檬を滑らせたことで思い出したのだろう。のどかな会話をする魔王と未来の魔王妃の前で、作家本人を巻き込んだ論争は白熱していた。
「結局どうなるのかしら」
「全体の方針としては、何らかの基準に達した作家に支援することになるだろうな。過去の事例を踏襲すればの話だ。もし日本人や大公女の知恵や発案で素晴らしいものがあれば、それを採用する」
儀式や形式にこだわるように見える大公達も、こうして議論を交わして発案し、実行してからも改善してきた。大まかな方向性は守ってきたが、新しい考え方を受け入れる土壌はある。
「まあ、しばらくはアイディアを出し尽くしてもらおうか」
笑うルシファーの頬を引っ張り、リリスが「悪い顔よ」と注意する。顔を見合わせてくすくす笑う2人の前で、熱くなった6人と1匹は意見を交わし続けた。
41
あなたにおすすめの小説
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる