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95章 結婚式が近づくと
1294. お祝いの準備は抜かりなく
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痴話喧嘩は思ったより知られていた。ある程度の魔力量がある者達は、ベルゼビュートの魔力が激増した瞬間に気付く。詳細を知らなくとも、何かあったと噂になった。事情を知るのは猫とベールだけのはずなのに、なぜか広まっていく。
ここには裏事情があり……実は浮かれたベルゼビュート自身が漏らしていたのだ。ここだけの秘密と言いながら、アデーレや親しい侍従に惚気を撒き散らす。その話を漏れ聞いた者達が広めた。途中でルキフェルやアスタロトにも到達したものの、実害はないので放置されたのだ。
ルシファーの耳に届く頃には、城で働く者の半数は知っていた。
「ベルゼ姉さんは激情家なのね」
「拗らせてるからな。嫉妬も激しいだろう」
一度も結婚まで漕ぎ着けないまま、周囲の話ばかり聞いて耳年増になっていく。そんなベルゼビュートだから、相手が魔獣ですらない動物の猫だったとしても、嫉妬して痴話喧嘩に発展するのだ。通常、恋人の膝に猫が寝ていても浮気とは考えない。
「それだけ愛してるってことだわ」
イザヤことトリイによる恋愛小説の影響をもろに受けたリリスは、うっとりと純愛に酔いしれる。物語も素敵だけど、目の前で展開されるベルゼビュートの恋も魅力的だ。今日のお茶会は大公女達と新作小説について盛り上がる予定だが、話題変更になるだろう。
くるくるとターンして、ダンスの練習を終える。ようやくワルツは覚えたリリスだが、まだクイックステップは足が縺れてしまう。一息ついてステップを再確認しているところに、書類片手にアスタロトが現れた。
「ルシファー様、準備にご協力を」
そう言って差し出した書類には、ベルゼビュートの結婚式に関する催し物の記載があった。リリスや大公女にも秘密なので、彼は口に出さなかったのだ。覗き込んだルシファーは、承知したと呟いてリリスを促した。
「ほら、今日はお茶会だろう? オレはいけないが、もう迎えが来てるぞ」
テラス側から様子を窺うルーサルカに手を振り、リリスはルシファーの手を取って庭に飛び出した。慌てて彼女のお気に入りのサンダルを用意したルシファーが、丁寧に履かせて送り出す。無邪気に手を振る少女達がガゼボに入るのを見届けて、室内に戻った。
「執務室で読む」
「かしこまりました」
すでに集まった貴族が十数人、そこへ大公3人とルシファーが加わり、こそこそと段取りを決めていく。ベルゼビュートはもちろん、この場にいない者に話を漏らさぬよう口止めをしてお開きとなった。窓の外はやや日が陰り始め、眼下のガゼボは盛り上がっている様子だ。
「転移魔法陣だけど、もう使えるよ。あとはここら辺だけかな」
ルキフェルが地図を取り出し、転移魔法陣を設置した地域を示す。残っているのは、魔力量が豊富で自力で空を飛べる竜族や神龍族が住まう領地だった。彼らは魔法陣が間に合わなくても、会場に駆け付ける手段を持っている。後回しにしたのは当然の判断だった。
「これから設置しちゃうね。あと火薬を倉庫から持ち出してるけど」
「管理をしっかりしてくれ」
花火用の火薬を持ち出したのはいいが、以前に準備していた研究所が吹き飛んだので、一応注意しておく。頷いたルキフェルは一足先に退室した。ベールは神獣や霊獣による祝いの舞を手配しに向かい、残されたアスタロトがそっと申請書を提出する。
「許可をいただきたいのです」
目を通した内容に問題はなく、書類の書式も整っている。予算枠も確保されたことを確認し、署名と押印を施した。
「折角だ、派手に祝ってやろう」
「ええ。あのベルゼビュートがようやく人妻ですか」
「その表現は生々しいな」
「もう少ししたら、リリス様も同じように呼ばれますよ?」
途端に頬を赤く染めるルシファーを見て、アスタロトは微笑んだ。
ここには裏事情があり……実は浮かれたベルゼビュート自身が漏らしていたのだ。ここだけの秘密と言いながら、アデーレや親しい侍従に惚気を撒き散らす。その話を漏れ聞いた者達が広めた。途中でルキフェルやアスタロトにも到達したものの、実害はないので放置されたのだ。
ルシファーの耳に届く頃には、城で働く者の半数は知っていた。
「ベルゼ姉さんは激情家なのね」
「拗らせてるからな。嫉妬も激しいだろう」
一度も結婚まで漕ぎ着けないまま、周囲の話ばかり聞いて耳年増になっていく。そんなベルゼビュートだから、相手が魔獣ですらない動物の猫だったとしても、嫉妬して痴話喧嘩に発展するのだ。通常、恋人の膝に猫が寝ていても浮気とは考えない。
「それだけ愛してるってことだわ」
イザヤことトリイによる恋愛小説の影響をもろに受けたリリスは、うっとりと純愛に酔いしれる。物語も素敵だけど、目の前で展開されるベルゼビュートの恋も魅力的だ。今日のお茶会は大公女達と新作小説について盛り上がる予定だが、話題変更になるだろう。
くるくるとターンして、ダンスの練習を終える。ようやくワルツは覚えたリリスだが、まだクイックステップは足が縺れてしまう。一息ついてステップを再確認しているところに、書類片手にアスタロトが現れた。
「ルシファー様、準備にご協力を」
そう言って差し出した書類には、ベルゼビュートの結婚式に関する催し物の記載があった。リリスや大公女にも秘密なので、彼は口に出さなかったのだ。覗き込んだルシファーは、承知したと呟いてリリスを促した。
「ほら、今日はお茶会だろう? オレはいけないが、もう迎えが来てるぞ」
テラス側から様子を窺うルーサルカに手を振り、リリスはルシファーの手を取って庭に飛び出した。慌てて彼女のお気に入りのサンダルを用意したルシファーが、丁寧に履かせて送り出す。無邪気に手を振る少女達がガゼボに入るのを見届けて、室内に戻った。
「執務室で読む」
「かしこまりました」
すでに集まった貴族が十数人、そこへ大公3人とルシファーが加わり、こそこそと段取りを決めていく。ベルゼビュートはもちろん、この場にいない者に話を漏らさぬよう口止めをしてお開きとなった。窓の外はやや日が陰り始め、眼下のガゼボは盛り上がっている様子だ。
「転移魔法陣だけど、もう使えるよ。あとはここら辺だけかな」
ルキフェルが地図を取り出し、転移魔法陣を設置した地域を示す。残っているのは、魔力量が豊富で自力で空を飛べる竜族や神龍族が住まう領地だった。彼らは魔法陣が間に合わなくても、会場に駆け付ける手段を持っている。後回しにしたのは当然の判断だった。
「これから設置しちゃうね。あと火薬を倉庫から持ち出してるけど」
「管理をしっかりしてくれ」
花火用の火薬を持ち出したのはいいが、以前に準備していた研究所が吹き飛んだので、一応注意しておく。頷いたルキフェルは一足先に退室した。ベールは神獣や霊獣による祝いの舞を手配しに向かい、残されたアスタロトがそっと申請書を提出する。
「許可をいただきたいのです」
目を通した内容に問題はなく、書類の書式も整っている。予算枠も確保されたことを確認し、署名と押印を施した。
「折角だ、派手に祝ってやろう」
「ええ。あのベルゼビュートがようやく人妻ですか」
「その表現は生々しいな」
「もう少ししたら、リリス様も同じように呼ばれますよ?」
途端に頬を赤く染めるルシファーを見て、アスタロトは微笑んだ。
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