【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
2 / 97

02.婚約成立したのに牽制するの?

しおりを挟む
 フェルナン殿下は穏やかな笑みを浮かべ、私へ手を差し伸べた。先ほど支えてもらった後、自由になった手は胸元でもじもじと落ち着かない。分かっているわ、これは淑女への礼儀だもの。この手の上に私の手を……重ねればいい。

 単純なことで、何度も騎士やお兄様のエスコートを受けたことがあるのに、照れて真っ赤になった。手も赤い気がするから、首や耳も真っ赤かも。私の倍ちかくある大きな手は、ところどころに節があった。ごつごつしていて、お父様やお兄様の手とは違う。

 騎士団の人みたいだわ。そう思いながら手を重ねた。温かい。じわりと伝わる温もりに口元が緩んだ。

「愛らしいお方で嬉しく思う。このような形ではなく、どこかの宴で出会いたかった。いや、それでは誰かに奪われてしまうな」

 こんな幼い王女に、そんな求婚の言葉は不要なのに。ただ連れていける立場で、私のことを思いやって気遣いを口になさるなんて。やっぱり素敵な人だわ。作り笑顔を捨て、満面の笑みで会釈した。

「ありがとうございます、私もフェルナン王弟殿下と縁が繋がり、嬉しく思います」

 本心だけど、社交辞令だと思ったみたい。フェルナン殿下にとって、私は恋愛対象外の子どもだもの。困ったように眉尻を下げたのに、笑顔は崩さなかった。殿方って、ご夫人やご令嬢方より表情が豊かなのかしら。

 両親や兄姉へ挨拶を行い、フェルナン王弟殿下は私の婚約者となった。いえ、私がフェルナン殿下の婚約者として隣国へ赴くのね。一応、婚約の許可を取りに来た形式を整えたのだ、と教えてもらった。政はよく分からない。どちらでも同じじゃないの?

 それぞれに部屋へ引き上げ、私は婚約者のフェルナン殿下とお茶の席が設けられた。黒髪に琥珀の瞳をもつフェルナン殿下は、用意された椅子が窮屈みたい。大きな長椅子を用意させ、私と並んで座ってもらった。正面にお母様が同席する。

「この子は末っ子なので、甘え癖がありますの」

 幼いのだからと牽制するときの言い方ね。前にも他国の使者に同じような言葉を使っていたわ。なぜ婚約者にそんな牽制が必要なのか、私は首を傾げながらお母様を見つめる。表情が険しく感じられ、フェルナン殿下は苦笑いを浮かべた。

「姫はまだ蕾、花開くまで見守る覚悟はあります」

 王族の言い回しは独特だ。言質を取られたら大変だから、幾通りにも読み取れるよう言葉を濁す。私もその話し方は学んでいるけれど……今のは「幼い姫だから、大人になるまで手出ししません」で合っている? お母様は「甘える年齢の姫に無茶しないわよね」と釘を刺したって意味ね。

 読み解きながら、用意された茶菓子に手を伸ばす。ところが普段の椅子から移動したせいで、テーブルが遠かった。飛び降りたら届くけれど、淑女として問題だわ。迷って手を引っ込めようとしたら、フェルナン殿下がお皿を引き寄せてくれた。

「無作法で申し訳ない」

 自分が取るためと言い訳しながら、ご自分の膝にお皿を置いた。ちらりと上目遣いで窺うと、笑顔で差し出される。一つ、焼き菓子を手にした。

「ありがとうございます」

 綺麗なオレンジ色のジャムは、日差しを浴びてきらきらと輝く。フェルナン殿下の瞳の色に似ているわ。甘酸っぱい香りを頬張り、私は猫の尻尾のように足を揺らした。これは癖で、嬉しかったりすると出てしまう。お行儀が悪い所作を、お母様が視線で咎める。でも……フェルナン殿下は笑顔だし、大丈夫よね。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

処理中です...