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38.兄弟って不思議な感じだわ
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「すまなかった! 俺の不手際だ」
一国の王が謝罪した? 目を見開く私を膝に乗せたまま、エル様は立ち上がろうとしない。やっぱり謝罪を向けた先はエル様みたい。国同士の問題になるから、私は黙っていた方がよさそうね。
「陛下、いや……兄上。マルノー侯爵家に関しては、私に一任してもらう」
「……それは、その」
もごもごと口を動かした後「その呼び方は狡い」と陛下が唸る。普段は兄上と呼んでいないから、特別な意味があるのかしら。立場を明確にしたエル様のけじめのような気もするけれど。
「貴族院が騒ぐなら、私が黙らせる」
叱るような口調でぴしゃりと言い渡す。エル様の声はいつもより低かった。顔を覗く私と目があえば、ほわりと笑ってくれる。怖いとは思わなかった。エル様は臣籍降下なさるけれど、現時点でまだ王族だ。王族なら表の穏やかな笑みと、裏の厳しい一面を持っている。
罪人を処断して国を維持する。その一点において、王族はどこまでも非情でなければならない。たとえ血を分けた家族であっても、情だけで罰を免じてはいけないと習った。その教えを実行するエル様は、有能な王族なのだ。
「わかった、お前に任せよう。だからもう一度だけ兄と呼んでくれないか」
「臣下となる弟相手に、何を馬鹿な発言をするんですか。……兄上」
何でしょう、この関係。兄弟の兄が可愛くて、弟が甘える姿は不思議と……その、胸が高鳴るのですね。我が家は兄と姉なので、弟がいない。だから知らずに育ってしまったんだわ。もったいない。私が弟ならエル様みたいだったの?
妹として十分すぎるほど甘やかしてもらったが、違う気がした。分かりあってて我が侭を言う感じが、見ていて楽しい。にこにこしながら見守る私に、陛下は申し訳なさそうに眉尻を下げた。代わりに頭は上げてもらった。
他国の国王陛下に頭を下げられるなど、心臓に悪いわ。
「マルノー侯爵家が、今回騒ぎを起こした女性の家名ですか?」
「ああ。この国の公爵家に年頃のご令嬢がいないので、自分が一番だと自惚れた愚か者だ」
なるほど。公爵家に適齢期のご令嬢がいなければ、侯爵家が王族に嫁ぐことも珍しくない。その理屈が適用され、自分が王弟殿下の婚約者になると思い込んだ。ところが政略結婚で他国から王女が来たので、焦ったのね。ただの馬鹿じゃないの。
「エル様は私でよろしいですか?」
答えを知っている。なのに尋ねるのは、狡いかしら。でも私は狡い子だから、遠慮したりしない。エル様は私の旦那様になるんだもの。
「もちろんだ、アン以外の妻は要らない」
ほわりと笑ったら、国王陛下が可愛いと褒めてくれた。でも私が聴きたいのは、エル様の褒め言葉なの。じっと見つめる目蓋にキスをもらい、閉じた目を開いた私にエル様の笑顔が飛び込んだ。
「その愛らしい笑顔を振りまくと、嫉妬してしまうな」
ゴトン! 何かが落ちる音がして、エル様と二人で振り返る。扉の脇にある飾りを倒した陛下が、申し訳なさそうに出て行った。こっそり出ようとして失敗したの? ふふっと笑った私の頭に顎を乗せて、エル様もくつくつと喉を震わせて笑った。
一国の王が謝罪した? 目を見開く私を膝に乗せたまま、エル様は立ち上がろうとしない。やっぱり謝罪を向けた先はエル様みたい。国同士の問題になるから、私は黙っていた方がよさそうね。
「陛下、いや……兄上。マルノー侯爵家に関しては、私に一任してもらう」
「……それは、その」
もごもごと口を動かした後「その呼び方は狡い」と陛下が唸る。普段は兄上と呼んでいないから、特別な意味があるのかしら。立場を明確にしたエル様のけじめのような気もするけれど。
「貴族院が騒ぐなら、私が黙らせる」
叱るような口調でぴしゃりと言い渡す。エル様の声はいつもより低かった。顔を覗く私と目があえば、ほわりと笑ってくれる。怖いとは思わなかった。エル様は臣籍降下なさるけれど、現時点でまだ王族だ。王族なら表の穏やかな笑みと、裏の厳しい一面を持っている。
罪人を処断して国を維持する。その一点において、王族はどこまでも非情でなければならない。たとえ血を分けた家族であっても、情だけで罰を免じてはいけないと習った。その教えを実行するエル様は、有能な王族なのだ。
「わかった、お前に任せよう。だからもう一度だけ兄と呼んでくれないか」
「臣下となる弟相手に、何を馬鹿な発言をするんですか。……兄上」
何でしょう、この関係。兄弟の兄が可愛くて、弟が甘える姿は不思議と……その、胸が高鳴るのですね。我が家は兄と姉なので、弟がいない。だから知らずに育ってしまったんだわ。もったいない。私が弟ならエル様みたいだったの?
妹として十分すぎるほど甘やかしてもらったが、違う気がした。分かりあってて我が侭を言う感じが、見ていて楽しい。にこにこしながら見守る私に、陛下は申し訳なさそうに眉尻を下げた。代わりに頭は上げてもらった。
他国の国王陛下に頭を下げられるなど、心臓に悪いわ。
「マルノー侯爵家が、今回騒ぎを起こした女性の家名ですか?」
「ああ。この国の公爵家に年頃のご令嬢がいないので、自分が一番だと自惚れた愚か者だ」
なるほど。公爵家に適齢期のご令嬢がいなければ、侯爵家が王族に嫁ぐことも珍しくない。その理屈が適用され、自分が王弟殿下の婚約者になると思い込んだ。ところが政略結婚で他国から王女が来たので、焦ったのね。ただの馬鹿じゃないの。
「エル様は私でよろしいですか?」
答えを知っている。なのに尋ねるのは、狡いかしら。でも私は狡い子だから、遠慮したりしない。エル様は私の旦那様になるんだもの。
「もちろんだ、アン以外の妻は要らない」
ほわりと笑ったら、国王陛下が可愛いと褒めてくれた。でも私が聴きたいのは、エル様の褒め言葉なの。じっと見つめる目蓋にキスをもらい、閉じた目を開いた私にエル様の笑顔が飛び込んだ。
「その愛らしい笑顔を振りまくと、嫉妬してしまうな」
ゴトン! 何かが落ちる音がして、エル様と二人で振り返る。扉の脇にある飾りを倒した陛下が、申し訳なさそうに出て行った。こっそり出ようとして失敗したの? ふふっと笑った私の頭に顎を乗せて、エル様もくつくつと喉を震わせて笑った。
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