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51.支え合う夫婦に憧れる
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馬車で揺られて、途中の小さな町で一泊する。お菓子も肉も野菜も、日用雑貨さえ。専門店が一つずつあるだけの、村を少し大きくしたような町だ。
ぐるりと見て周ったが、すぐに終わってしまった。エル様とのお散歩が楽しかったし、気分転換になったので笑顔が絶えない。宿も一つしかなくて、一番上のお部屋を用意してもらった。
お風呂はお湯を運ぶので大変だと知り、体を拭くお湯だけ運んでもらう。だって髪は昨晩洗ったわ。体も散歩だけだから拭けば汗も落ちる。宿の夫婦は気遣いが嬉しかったのか、朝食に珍しい果物を出してくれた。
庭の木に実るんですって。赤くて長細い、緑の手足みたいなのが生えている。不思議な植物は初めて見た。宿の主人が「驚きますよ」と前置きして、食卓で切る。中は真っ赤で、黒い種がたくさん。黒い種はそのままたべていいと言われ、驚いた。
「甘いけれど、酸っぱい!」
不思議な味で美味しくて、半分も食べてしまった。種もぷちぷちと弾ける。私が気に入ったのを知り、さらに数個のお土産を差し出される。遠慮したのだが、エル様は貰っていいと笑った。
「ありがとうございます」
お礼を言って、赤い果物を籠に並べた。見た目も鮮やかだし、屋敷の皆で食べたいわ。冷やしたほうが美味しいかも。水っぽい食感で、もしかしたら長持ちしないのかしら。
国境に近い町で実るのに、アルドワンでもエル様の砦でも見たことがない。エル様は宿の主人と何やら話し込んでいた。重ねてお礼を言ってくれたのかも。王族だから、いろいろ大変よね。
「さあ、出かけるぞ」
「はい!」
宿の夫婦は仲良く見送ってくれた。老夫婦と表現するには若いけれど、新婚とは呼ばない。そんな夫婦の立ち姿は、さり気なく夫が妻の腰に手を回して支えていた。あんな風に、似合いの夫婦になるのが目標ね。
砦まで距離は半分、馬車の旅を楽しみながら風景に目を配る。働く農民は馬車を見ると手を止めて、手を振ったり会釈をした。領主として、エル様が慕われている証拠だわ。アルドワン王国で農業視察に出た時と重なり、頬が緩んだ。
揺れる馬車の中、エル様の膝に座っていたら何も怖くない。酔うこともないし、頭をぶつける心配もないの。ただ、すごくドキドキするから、エル様にバレたら恥ずかしい。時折髪に触れたり、抱き上げ直すエル様に、一人で座れますと伝えたら却下された。足が疲れたんじゃないの?
小さな林を通り抜ければ、立派な砦が見えてきた。囲まれた城塞都市のようなエル様の屋敷は、外側の見張り台の方が目立つ。門をくぐりながら、帰ってきたんだわと感じた。これからは、ここが私の家でお城。
正式な婚約者となり、やがて妻となってエル様を支える。そのための屋敷や砦だった。初めて来た時より胸が高鳴る。
「エル様、私……あなた様を支える良い妻を目指します」
「アンはそのままで素敵だ。変わらず笑顔で過ごしてくれたら嬉しい」
髪を撫でる手が心地よくて、うっとりと身を任せた。
ぐるりと見て周ったが、すぐに終わってしまった。エル様とのお散歩が楽しかったし、気分転換になったので笑顔が絶えない。宿も一つしかなくて、一番上のお部屋を用意してもらった。
お風呂はお湯を運ぶので大変だと知り、体を拭くお湯だけ運んでもらう。だって髪は昨晩洗ったわ。体も散歩だけだから拭けば汗も落ちる。宿の夫婦は気遣いが嬉しかったのか、朝食に珍しい果物を出してくれた。
庭の木に実るんですって。赤くて長細い、緑の手足みたいなのが生えている。不思議な植物は初めて見た。宿の主人が「驚きますよ」と前置きして、食卓で切る。中は真っ赤で、黒い種がたくさん。黒い種はそのままたべていいと言われ、驚いた。
「甘いけれど、酸っぱい!」
不思議な味で美味しくて、半分も食べてしまった。種もぷちぷちと弾ける。私が気に入ったのを知り、さらに数個のお土産を差し出される。遠慮したのだが、エル様は貰っていいと笑った。
「ありがとうございます」
お礼を言って、赤い果物を籠に並べた。見た目も鮮やかだし、屋敷の皆で食べたいわ。冷やしたほうが美味しいかも。水っぽい食感で、もしかしたら長持ちしないのかしら。
国境に近い町で実るのに、アルドワンでもエル様の砦でも見たことがない。エル様は宿の主人と何やら話し込んでいた。重ねてお礼を言ってくれたのかも。王族だから、いろいろ大変よね。
「さあ、出かけるぞ」
「はい!」
宿の夫婦は仲良く見送ってくれた。老夫婦と表現するには若いけれど、新婚とは呼ばない。そんな夫婦の立ち姿は、さり気なく夫が妻の腰に手を回して支えていた。あんな風に、似合いの夫婦になるのが目標ね。
砦まで距離は半分、馬車の旅を楽しみながら風景に目を配る。働く農民は馬車を見ると手を止めて、手を振ったり会釈をした。領主として、エル様が慕われている証拠だわ。アルドワン王国で農業視察に出た時と重なり、頬が緩んだ。
揺れる馬車の中、エル様の膝に座っていたら何も怖くない。酔うこともないし、頭をぶつける心配もないの。ただ、すごくドキドキするから、エル様にバレたら恥ずかしい。時折髪に触れたり、抱き上げ直すエル様に、一人で座れますと伝えたら却下された。足が疲れたんじゃないの?
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正式な婚約者となり、やがて妻となってエル様を支える。そのための屋敷や砦だった。初めて来た時より胸が高鳴る。
「エル様、私……あなた様を支える良い妻を目指します」
「アンはそのままで素敵だ。変わらず笑顔で過ごしてくれたら嬉しい」
髪を撫でる手が心地よくて、うっとりと身を任せた。
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