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12.くそっ、また出遅れた
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襲い掛かるミューレンベルギアは、人目など気にしなかった。長い髪を振り乱し、鬼の形相で迫る。あと数歩で彼女の握る凶器が刺さる……!
「舐めていただいては困ります、えいっ」
気合いの声が響いたと同時に、ミューレンベルギアは宙を舞った。簪に似た髪飾りを握り、突き立てようとした手首を掴まれて、背中から床に叩きつけられる。
「……くそっ、また出遅れた」
大国の皇太子殿下とは思えない悪態が口をつく。それもそのはず、守ろうとした婚約者の姫は自ら敵を排除した。二度目なので、何とか間に入ろうとしたコルジリネを残して……。実は以前も同様の事件があり、彼女があっさり退けた実績がある。
「あら、お口が悪くてよ……きゃっ」
くすっと笑って注意しようとしたカレンデュラは、後ろから抱き付いたビオラの勢いによろける。可愛い声が漏れた彼女の腰に、ビオラがしがみついていた。
「うわぁあああ! よかったぁ、無事でよかっ、たよぉ」
泣きじゃくりながら、スカートに顔を埋めるビオラは、聖女と呼ぶには幼かった。あらあらと苦笑して桃色の髪を撫でるカレンデュラに、皇太子は額を押さえて呻き声を出す。
「こっちでも出遅れた」
抱き寄せて「大丈夫か、もう心配いらない。私が守る」と囁く予定だったのに。助ける役目は当のお姫様が自らこなし、抱き締める役は聖女に奪われた。肩を落とすコルジリネの肩を、戻ってきた双子の騎士が叩く。
彼らが捕える予定だった狐は、タンジー公爵家のクレチマスによって地に押し付けられていた。ミューレンベルギア妃は、投げ飛ばされた時に肩を脱臼したようだ。床に背を強く打ち付けて動けないところを、即座に拘束された。痛いと訴えるも、完全に無視される。
「皆様、夜会はここまでですわ。ご機嫌よう」
デルフィニューム公爵令嬢カレンデュラの一人舞台は、幕を下ろす宣言で終わる。顔を見合わせた貴族も、これ以上留まる気はないようだ。今夜の目撃情報を肴に、どこかで盛り上がろうと先頭を切ったのは騎士団長の息子だった。
父に言い含められたらしい。噂好きな貴族を引き連れて、王宮から引き上げた。この時点で、捕獲する必要がある第一王子派は拘束済み。悪巧みに関与しない貴族も帰ったことで、王宮は一気に静かになった。
カレンデュラからハンカチを借りたビオラは、鼻を啜りながら後ろをついてくる。廊下に出ると、得意げな顔のティアレラがいた。捕獲作戦は成功と笑う彼女のドレスは、一切乱れていない。ただ、いつもより背が低く感じられた。
すっと足を踏み出した彼女の爪先は裸足で、慌てて駆け寄った婚約者のシオンが靴を差し出す。膝を突いた彼の肩に手を置いて、靴を履かせてもらう姿は、なかなか様になっていた。
「ああいうの、いいわね」
「私もやろうか?」
「素敵だけれど、見ている方がいいわ」
劇や小説のワンシーンのようで絵になるけれど、自分が当事者になりたいとは思わない。あっさり態度を翻した婚約者カレンデュラの手を取り、エスコートしながらコルジリネは内心でぼやいた。
母上の言う通り、女性の心と願いは簡単に掴めない。答えがスッと出る政の方がよほど楽だ、と。
「舐めていただいては困ります、えいっ」
気合いの声が響いたと同時に、ミューレンベルギアは宙を舞った。簪に似た髪飾りを握り、突き立てようとした手首を掴まれて、背中から床に叩きつけられる。
「……くそっ、また出遅れた」
大国の皇太子殿下とは思えない悪態が口をつく。それもそのはず、守ろうとした婚約者の姫は自ら敵を排除した。二度目なので、何とか間に入ろうとしたコルジリネを残して……。実は以前も同様の事件があり、彼女があっさり退けた実績がある。
「あら、お口が悪くてよ……きゃっ」
くすっと笑って注意しようとしたカレンデュラは、後ろから抱き付いたビオラの勢いによろける。可愛い声が漏れた彼女の腰に、ビオラがしがみついていた。
「うわぁあああ! よかったぁ、無事でよかっ、たよぉ」
泣きじゃくりながら、スカートに顔を埋めるビオラは、聖女と呼ぶには幼かった。あらあらと苦笑して桃色の髪を撫でるカレンデュラに、皇太子は額を押さえて呻き声を出す。
「こっちでも出遅れた」
抱き寄せて「大丈夫か、もう心配いらない。私が守る」と囁く予定だったのに。助ける役目は当のお姫様が自らこなし、抱き締める役は聖女に奪われた。肩を落とすコルジリネの肩を、戻ってきた双子の騎士が叩く。
彼らが捕える予定だった狐は、タンジー公爵家のクレチマスによって地に押し付けられていた。ミューレンベルギア妃は、投げ飛ばされた時に肩を脱臼したようだ。床に背を強く打ち付けて動けないところを、即座に拘束された。痛いと訴えるも、完全に無視される。
「皆様、夜会はここまでですわ。ご機嫌よう」
デルフィニューム公爵令嬢カレンデュラの一人舞台は、幕を下ろす宣言で終わる。顔を見合わせた貴族も、これ以上留まる気はないようだ。今夜の目撃情報を肴に、どこかで盛り上がろうと先頭を切ったのは騎士団長の息子だった。
父に言い含められたらしい。噂好きな貴族を引き連れて、王宮から引き上げた。この時点で、捕獲する必要がある第一王子派は拘束済み。悪巧みに関与しない貴族も帰ったことで、王宮は一気に静かになった。
カレンデュラからハンカチを借りたビオラは、鼻を啜りながら後ろをついてくる。廊下に出ると、得意げな顔のティアレラがいた。捕獲作戦は成功と笑う彼女のドレスは、一切乱れていない。ただ、いつもより背が低く感じられた。
すっと足を踏み出した彼女の爪先は裸足で、慌てて駆け寄った婚約者のシオンが靴を差し出す。膝を突いた彼の肩に手を置いて、靴を履かせてもらう姿は、なかなか様になっていた。
「ああいうの、いいわね」
「私もやろうか?」
「素敵だけれど、見ている方がいいわ」
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母上の言う通り、女性の心と願いは簡単に掴めない。答えがスッと出る政の方がよほど楽だ、と。
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