【完結】神狐の巫女姫☆妖奇譚 ~封印された妖を逃がした陰陽の巫女姫、追いかけた隣大陸で仮面王子に恋しました~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
6 / 159

第6話 言い方悪いけどチャンスよね

しおりを挟む
 初めてのフルール大陸への移動……いつもならベッドに入る時間なのに。

 ぼやきながら、アイリーンは目元を擦った。わくわく感より、眠気が勝るあたり子どもなのかも。でも成長期の睡眠って大事だと思うわ。

 畳ベッドから追い出され、キエの手で綺麗に着替えさせられる。昼間に見た可愛い鶯茶のワンピースだった。着られるのは嬉しいけれど、やっぱり眠い。一つ、大きな欠伸をした。

「さあ、となさいませ」

 叱られて唇を尖らせる。アイリーンの仕草に、キエは言い聞かせた。

「姫様が逃したのですよ」

「分かってるわ。古い封印を放置した先祖を恨ん……っ」

 文句を言う口を塞がれる。じっと動かないキエの様子に、思わず固まって息をひそめた。周囲の様子を窺っていたキエの手が離れる。

「妙な言葉を口走らないでください。姫様は言霊の力が強いのですから」

「ごめんなさい」

 言霊を込める気がなくても、うっかり言葉にした声は取り戻せない。誰かを罵った悪口が、そのまま効力を発したことがあった。一緒に遊んだ子どもだったと思う。思い出したアイリーンは素直に謝った。

 幼くて自制も知らない頃、玩具の取り合いで「大っ嫌い、もう2度と会いたくない」と泣いた。普通ならなんて事ないケンカだ。しかしアイリーンの言葉は言霊となり、その子は事故で足を失った。2度と皇宮へ遊びに来られなくなったのだ。

 妹の力の大きさに気付いたシン兄様が、周囲の大人からアイリーンを庇った。幽閉せず、能力を制御する力を身に付けさせるべきだと。閉じ込めても言葉は奪えない。薬で声を奪う案まで出たというから、よほど脅威だと思われたのだろう。

 人の悪口は思っても口に出さない。言葉にして書き記さない。祓いの力が強い者ほど他者に影響を与えるのだから、自らを律して真っすぐに生きる。溜め込んだ感情は悪い方向へ引っ張られやすい。様々な教育の成果が、今のアイリーンを形成していた。

 自由奔放が過ぎてお転婆でも許されるのは、この事件の影響でもある。兄が救ってくれた命を無駄には出来なかった。いつも心を穏やかに保つ必要があることを、アイリーンは理解している。

「でも、どうやって大陸を渡るの?」

 海辺に行くだけでも、数日かかる。海を渡る時間も含めたら一週間は必要だった。昼間は皇族として振る舞いながら、夜だけ海を渡るのは物理的に無理だわ。

 こてりと首を傾げて尋ねるアイリーンの髪をツインテールに結いながら、キエは和風メイド服の胸元からするりと紙を取り出した。着物と同じ右前の合わせは、懐紙を含めたいろいろな小物が隠されている。魅惑の胸元ね。

「こちらをご利用ください。ココ様のお力があれば飛べます」

「ココ、これ分かる?」

 祓えの巫女が使う文字と違う、複雑な文様が描かれていた。アイリーンの疑問にひょこっと顔を覗かせたココは、肩に飛び乗って覗き込む。少しすると頷いた。

『平気。向こうにある屋敷の目印に向けて飛ぶみたいだよ』

 フルール大陸との公式の国交はない。だが民間レベルの交易や交流は続いており、商人や貴族の中には土地を買って屋敷を所有する者もいると聞いていた。話だけで、希少な皇族が海を渡ることはない。だから他人事だと思っていたアイリーンは、わくわくする気持ちを隠せなかった。

 言い方は悪いけど、これはチャンスだわ。自然と緩みそうになる口元を引き締め、深呼吸する。それからキエに向かって頷いた。

「頑張るわ」

「姫様、頑張るだけなら誰でも出来ます。必ず結果を伴ってくださいね」

 解き放った責任を取れと厳しく現実を突きつける侍女に、皇族の末姫は改めて重々しく承諾を口にした。キエは本当に釘を刺すのが上手なんだから。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

夜の声

神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。 読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。 小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。 柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。 そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

うちの弟がかわいすぎてヤバい無理!

はちみつ電車
恋愛
3歳の時、弟ができた。 大学生に成長した今も弟はめっちゃくちゃかわいい。 未だに思春期を引きずって対応は超塩。 それでも、弟が世界で一番かわいい。 彼氏より弟。 そんな私が会社の人気者の年上男性とわずかに接点を持ったのをきっかけに、どんどん惹かれてしまう。 けれど、彼はかわいがってくれる年下の先輩が好きな人。好きになってはいけない.......。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

寡黙な男はモテるのだ!……多分

しょうわな人
ファンタジー
俺の名前は磯貝澄也(いそがいとうや)。年齢は四十五歳で、ある会社で課長職についていた。 俺は子供の頃から人と喋るのが苦手で、大人になってからもそれは変わることが無かった。 そんな俺が何故か課長という役職についているのは、部下になってくれた若者たちがとても優秀だったからだと今でも思っている。 俺の手振り、目線で俺が何をどうすれば良いかと察してくれる優秀な部下たち。俺が居なくなってもきっと会社に多大な貢献をしてくれている事だろう。 そして今の俺は目の前に神と自称する存在と対話している。と言ってももっぱら喋っているのは自称神の方なのだが……

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...