62 / 159
第61話 ケンカは仲の良い証拠
しおりを挟む
数日後、届いた荷物の多さに眉根を寄せた。部屋に詰めたら、居場所がなくなる。仕方なく管理人に相談したところ、空いている部屋の使用許可が出た。もちろん、規定通りに追加料金を払う。
今年の入学者は寮に入る者が少なかったらしく、ぽつぽつと部屋が空いていた。荷物を運びこむ三人の様子を見て、自分達もと申請に走る上級生や新入生の姿が見受けられる。騒がしくも忙しい引っ越し作業は、入学日までの貴重な休日をほぼすべて潰した。
「ドナルドがサボるから」
ニコラが不満そうにぼやく。ドナルドは鍛錬があると言っては抜け出し、一番力があるにも関わらず引っ越し作業を手伝わなかった。王子ルイが強く言わないため、それも不満なニコラである。ルイにしたら、そもそも自分達で荷物を整理する自覚が足りなかった。
王宮にいた頃は、一から十まで侍女や侍従がこなしてくれる。運ぶ手伝いはするものの、押し込んで終わりのルイに顔を引きつらせたのは、ニコラだった。
子爵家の次男であるニコラは、さほど裕福な家庭で育っていない。貴族にも生活水準の違いがあり、金のあるラクール伯爵家とは雲泥の差だった。三男とはいえ、甘やかされて育ったドナルドに手伝う感覚は身についておらず、ニコラはむっとした顔で片づけを開始した。
「すまない。これはどうしたら」
困惑顔でルイが尋ねるたび、手を止めて指示を出す。だが、ルイは手伝うだけマシだった。自分は手伝ったつもりで、邪魔をしまくるドナルドは悪びれない。
「こっちは運んだぞ」
言葉通り、箱を動かしてある。だが荷ほどきはされていなかった。大人しく穏やかなニコラだが、ついにキレた。
「もう知りません!! 勝手にしてください。僕は別の部屋に行きます」
料金の請求はルイに押し付け、自分の荷物をかき集める。その姿に慌てたのはルイだった。この三人の中で、一番倭国の知識を持つのが文官候補のニコラだ。見捨てられたら生活に困る。切実な理由で、宥めに入った。ついでにドナルドを捕まえ、彼に頭を下げさせる。
「機嫌を直してくれないか」
「損ねていません」
ぷいっと取り付く島なく言い放たれ、ルイは言葉を選び直した。
「悪かった、許してほしい」
幼馴染みである王族の低姿勢に、少しだけ落ち着きを取り戻す。ドナルドも悪気がないだけで、叱られたら理解する。きちんと言い聞かせない自分が悪い、とニコラは諦めた。この二人を無事に祖国へ帰すまで、三年近く我慢する。その覚悟が決まったともいえよう。
「わかりました。では荷物をこのようにして……」
本気で怒ったニコラを初めて見たドナルドは、大きな体格に似合わぬ姿で荷物に手を掛ける。肩を落とし背を丸め、しょんぼりとした表情で木箱を開け始めた。力仕事を彼に任せ、ルイはニコラの指示通り中身を分類していく。服、宝飾品、日用品、積み上げた荷物を押し入れに並べた。
棚が足りず、卒業生の残した家具をかき集める。一部屋を物置にしてなんとか収めた。新生活は前途多難なスタートとなりそうだ。
今年の入学者は寮に入る者が少なかったらしく、ぽつぽつと部屋が空いていた。荷物を運びこむ三人の様子を見て、自分達もと申請に走る上級生や新入生の姿が見受けられる。騒がしくも忙しい引っ越し作業は、入学日までの貴重な休日をほぼすべて潰した。
「ドナルドがサボるから」
ニコラが不満そうにぼやく。ドナルドは鍛錬があると言っては抜け出し、一番力があるにも関わらず引っ越し作業を手伝わなかった。王子ルイが強く言わないため、それも不満なニコラである。ルイにしたら、そもそも自分達で荷物を整理する自覚が足りなかった。
王宮にいた頃は、一から十まで侍女や侍従がこなしてくれる。運ぶ手伝いはするものの、押し込んで終わりのルイに顔を引きつらせたのは、ニコラだった。
子爵家の次男であるニコラは、さほど裕福な家庭で育っていない。貴族にも生活水準の違いがあり、金のあるラクール伯爵家とは雲泥の差だった。三男とはいえ、甘やかされて育ったドナルドに手伝う感覚は身についておらず、ニコラはむっとした顔で片づけを開始した。
「すまない。これはどうしたら」
困惑顔でルイが尋ねるたび、手を止めて指示を出す。だが、ルイは手伝うだけマシだった。自分は手伝ったつもりで、邪魔をしまくるドナルドは悪びれない。
「こっちは運んだぞ」
言葉通り、箱を動かしてある。だが荷ほどきはされていなかった。大人しく穏やかなニコラだが、ついにキレた。
「もう知りません!! 勝手にしてください。僕は別の部屋に行きます」
料金の請求はルイに押し付け、自分の荷物をかき集める。その姿に慌てたのはルイだった。この三人の中で、一番倭国の知識を持つのが文官候補のニコラだ。見捨てられたら生活に困る。切実な理由で、宥めに入った。ついでにドナルドを捕まえ、彼に頭を下げさせる。
「機嫌を直してくれないか」
「損ねていません」
ぷいっと取り付く島なく言い放たれ、ルイは言葉を選び直した。
「悪かった、許してほしい」
幼馴染みである王族の低姿勢に、少しだけ落ち着きを取り戻す。ドナルドも悪気がないだけで、叱られたら理解する。きちんと言い聞かせない自分が悪い、とニコラは諦めた。この二人を無事に祖国へ帰すまで、三年近く我慢する。その覚悟が決まったともいえよう。
「わかりました。では荷物をこのようにして……」
本気で怒ったニコラを初めて見たドナルドは、大きな体格に似合わぬ姿で荷物に手を掛ける。肩を落とし背を丸め、しょんぼりとした表情で木箱を開け始めた。力仕事を彼に任せ、ルイはニコラの指示通り中身を分類していく。服、宝飾品、日用品、積み上げた荷物を押し入れに並べた。
棚が足りず、卒業生の残した家具をかき集める。一部屋を物置にしてなんとか収めた。新生活は前途多難なスタートとなりそうだ。
83
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる