87 / 159
第86話 資質は人に好かれること
しおりを挟む
倭国のさまざまな品を輸出する話は、なぜかアイリーンの手柄になっていた。兄シンが提案し、姉二人が乗ったのだ。実際のところ、第二王子ルイが来たことで話が始まった。突き詰めれば、彼はアイリーンに会うために海を渡っている。
大きな解釈で間違いではないだろう、と。その強引な展開に帝セイランは大笑いしながら、承諾書に押印した。末姫を可愛がる三人は仲が悪いのに、アイリーンのことなら結束する。その力は大きく、実家や母親の干渉を跳ねのける程だった。
「どうやら、帝に必要な資質は人に好かれることらしい」
押印した父が漏らした言葉に、シンは反論しなかった。皇太子の地位にいるが、いつ下ろされるか分からない。その不安より、アイリーンが女帝になれば力の限り支えたいと思ってしまった。この感情に嘘がないから、シンは皇太子の地位を下りない。
天真爛漫で自由なあの子を、帝の座に縛り付けるのは可哀想だ。神々が愛するあの子が変わってしまうくらいなら、憎まれ役を含めた苦行をすべて引き受ける気だった。自分がダメならアオイが、その次はヒスイが。防波堤となる覚悟は決まっている。
「あの子まで回しませんよ」
継承順位の一番最後に置いて、アイリーンを守ると言い切った。そんな息子に、セイランは眉尻を下げて悲しそうな顔をする。印章を置いて伸ばした手で、シンの頭を撫でた。
「嫌なら全員で放棄してもいい。私が生きている間なら、何とかしてやろう」
養子を迎えても構わないんだから。千年を超える直系の血筋だが、絶えるならそれも神のご意志だ。思わぬ発言に、食い入るように父親を眺めたシンが肩を竦めた。
「実行したら邪魔するでしょう」
「よく分かっているじゃないか」
笑い合って、何もなかったように別れる。これがいつも通りの日常で、誰も倭国の皇位継承を乱す気はない。上層部が荒れれば、被害を受けるのは民だと理解し、民を守るために生きるのが皇族である自覚はあった。
承認を得た書類を、呼び出したバローに渡す。ここから先は商人である彼の手腕次第だった。ルイが口添えの手紙を書いたこともあり、バローは意気揚々とフルール大陸へ戻る。今まで交流が深くなかった二つの大陸が、急激に接近し始めていた。
『僕、そういうの嫌い』
『そう? いいじゃない』
ココが唸る横で、腹を見せて寝るネネは軽く返す。少し離れた場所で、白蛇神はぺしんと尾で畳を叩いた。
『まあ、私は好きにさせてもらうよ』
神々の穏やかでないやり取りは、契約者のアイリーンも知ることはなく。ぐっすり眠る彼女の手に、白蛇神は額を押し付けた。ひんやりした感触に、アイリーンが目を開ける。まだぼんやりした意識の中で、冷たい白蛇神を引き寄せた。
「冷えてる、よぉ」
温めるように布団へ招きいれ、巫女は再び眠りの中に落ちていく。その温もりを、蛇神に分け与えながら。
大きな解釈で間違いではないだろう、と。その強引な展開に帝セイランは大笑いしながら、承諾書に押印した。末姫を可愛がる三人は仲が悪いのに、アイリーンのことなら結束する。その力は大きく、実家や母親の干渉を跳ねのける程だった。
「どうやら、帝に必要な資質は人に好かれることらしい」
押印した父が漏らした言葉に、シンは反論しなかった。皇太子の地位にいるが、いつ下ろされるか分からない。その不安より、アイリーンが女帝になれば力の限り支えたいと思ってしまった。この感情に嘘がないから、シンは皇太子の地位を下りない。
天真爛漫で自由なあの子を、帝の座に縛り付けるのは可哀想だ。神々が愛するあの子が変わってしまうくらいなら、憎まれ役を含めた苦行をすべて引き受ける気だった。自分がダメならアオイが、その次はヒスイが。防波堤となる覚悟は決まっている。
「あの子まで回しませんよ」
継承順位の一番最後に置いて、アイリーンを守ると言い切った。そんな息子に、セイランは眉尻を下げて悲しそうな顔をする。印章を置いて伸ばした手で、シンの頭を撫でた。
「嫌なら全員で放棄してもいい。私が生きている間なら、何とかしてやろう」
養子を迎えても構わないんだから。千年を超える直系の血筋だが、絶えるならそれも神のご意志だ。思わぬ発言に、食い入るように父親を眺めたシンが肩を竦めた。
「実行したら邪魔するでしょう」
「よく分かっているじゃないか」
笑い合って、何もなかったように別れる。これがいつも通りの日常で、誰も倭国の皇位継承を乱す気はない。上層部が荒れれば、被害を受けるのは民だと理解し、民を守るために生きるのが皇族である自覚はあった。
承認を得た書類を、呼び出したバローに渡す。ここから先は商人である彼の手腕次第だった。ルイが口添えの手紙を書いたこともあり、バローは意気揚々とフルール大陸へ戻る。今まで交流が深くなかった二つの大陸が、急激に接近し始めていた。
『僕、そういうの嫌い』
『そう? いいじゃない』
ココが唸る横で、腹を見せて寝るネネは軽く返す。少し離れた場所で、白蛇神はぺしんと尾で畳を叩いた。
『まあ、私は好きにさせてもらうよ』
神々の穏やかでないやり取りは、契約者のアイリーンも知ることはなく。ぐっすり眠る彼女の手に、白蛇神は額を押し付けた。ひんやりした感触に、アイリーンが目を開ける。まだぼんやりした意識の中で、冷たい白蛇神を引き寄せた。
「冷えてる、よぉ」
温めるように布団へ招きいれ、巫女は再び眠りの中に落ちていく。その温もりを、蛇神に分け与えながら。
83
あなたにおすすめの小説
夜の声
神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。
読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。
小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。
柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。
そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。
プライベート・スペクタル
点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。
この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。
その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。
(※基本 隔週土曜日に更新予定)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
寡黙な男はモテるのだ!……多分
しょうわな人
ファンタジー
俺の名前は磯貝澄也(いそがいとうや)。年齢は四十五歳で、ある会社で課長職についていた。
俺は子供の頃から人と喋るのが苦手で、大人になってからもそれは変わることが無かった。
そんな俺が何故か課長という役職についているのは、部下になってくれた若者たちがとても優秀だったからだと今でも思っている。
俺の手振り、目線で俺が何をどうすれば良いかと察してくれる優秀な部下たち。俺が居なくなってもきっと会社に多大な貢献をしてくれている事だろう。
そして今の俺は目の前に神と自称する存在と対話している。と言ってももっぱら喋っているのは自称神の方なのだが……
うちの弟がかわいすぎてヤバい無理!
はちみつ電車
恋愛
3歳の時、弟ができた。
大学生に成長した今も弟はめっちゃくちゃかわいい。
未だに思春期を引きずって対応は超塩。
それでも、弟が世界で一番かわいい。
彼氏より弟。
そんな私が会社の人気者の年上男性とわずかに接点を持ったのをきっかけに、どんどん惹かれてしまう。
けれど、彼はかわいがってくれる年下の先輩が好きな人。好きになってはいけない.......。
王子様と過ごした90日間。
秋野 林檎
恋愛
男しか爵位を受け継げないために、侯爵令嬢のロザリーは、男と女の双子ということにして、一人二役をやってどうにか侯爵家を守っていた。18歳になり、騎士団に入隊しなければならなくなった時、憧れていた第二王子付きに任命されたが、だが第二王子は90日後・・隣国の王女と結婚する。
女として、密かに王子に恋をし…。男として、体を張って王子を守るロザリー。
そんなロザリーに王子は惹かれて行くが…
本篇、番外編(結婚までの7日間 Lucian & Rosalie)完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる