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第104話 御簾は秘密を抱えている
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仕事を奪われたと項垂れる近習を横目に、セイランは少しばかり眉尻を下げた。家族の食事に恩人を招くだけなのに、どうして自分だけ御簾越しなのか。親族より恩人の方が大事だろう、と不満があった。
食事の間に、ルイとアイリーンの様子を眺め、よいツマミだと頬を緩める。そんな最中、ふとした疑問が湧いた。賽銭程度で、白蛇神が願いを叶えるはずはない。かの神を動かしたのが、末娘か隣大陸の王子か、気になったのだ。
素直に疑問を口に出したところ、全員が固まった。おそらくルイは御簾の存在を忘れていただろう。我が子らは単に、近習を無視した振る舞いに驚いただけ。大した問題ではない、とセイランは簡単に片付けた。
「えっと……白蛇、神、さま?」
ルイがぎこちなく繰り返す。この時点で帝は思い違いに気づいた。彼が固まったのは、目の前の動物が神の化身だと気づいていなかったから。皇族にとって神々は獣の姿で地上に降りるのが常識のため、その視点は逆に驚きだった。
「願い事は?」
聞きたい部分だけまた尋ねる。さすがに近習が渋い顔で止めに入った。その手を振り払う。御簾の中の攻防が外に漏れることはなく、想像して溜め息を吐いたのは長姉と皇太子くらいだ。
「あら、神様への願いは外で吹聴してはいけないのよ」
アイリーンが何を言い出すの、と呆れ顔で注意した。その脇でヒスイが、リンは度胸あるわねと苦笑いする。父セイランへ堂々と意見した後、アイリーンはルイに向き直った。
「気にしないでね。神様へのお願い事は人に話さない方がいいのよ」
うっかり口にしなくてよかった。ルイは胸を撫で下ろした。と同時に、彼女と恋仲になりたいなんて願い、彼女の父や兄姉の前で言えない。絶対に吊し上げられるぞ、と視線を泳がせた。
『我はそなたも気に入っておる故、楽しみにしているが良い』
大仰な話し方の白蛇神に、ルイはぺこりと頭を下げた。会釈と呼ぶほど上品ではなく、そう……近所の小童が悪戯をして謝る時のような。何とも戯けた所作だった。
食事が終われば、それぞれに引き上げる。時折揺れる御簾の向こうを想像し、皇太子シンは肩を落とした。近習にしっかり叱られてしまえ、と放置を決め込む。長姉アオイは視線を妹に固定し、次姉ヒスイも子犬姿のネネを見つめた。
「ご馳走様でした。ルイ、食後のお茶に付き合って」
「あ、ああ」
ちらっと隣のシンを窺うが、ダメと言われなかったのでアイリーンを追いかける。慌てて姉二人が立ち上がり、彼らを追った。足元をするすると移動する白蛇、はしゃいで転がるように走る子犬。ココはアイリーンの肩に飛び乗り、居場所を死守した。
「父上、いい加減にしてください」
貧乏籤を引かされた皇太子は、仕方ないので御簾を巻き上げた。お膳を転がさなかったのが不思議なほど、セイランは抵抗したようだ。押さえ込まれて、口を塞がれ呻いていた。
「皇太子様!」
「不敬罪とか言わないから安心して。きちんと部屋に連れ帰ってくれ。あとで、父上には穢れのことを……じっくり、聞くから」
お前が犯人だと知ってるぞ。そんな口調で脅しをかけ、シンは可愛い妹を守るために彼らを追いかけた。
食事の間に、ルイとアイリーンの様子を眺め、よいツマミだと頬を緩める。そんな最中、ふとした疑問が湧いた。賽銭程度で、白蛇神が願いを叶えるはずはない。かの神を動かしたのが、末娘か隣大陸の王子か、気になったのだ。
素直に疑問を口に出したところ、全員が固まった。おそらくルイは御簾の存在を忘れていただろう。我が子らは単に、近習を無視した振る舞いに驚いただけ。大した問題ではない、とセイランは簡単に片付けた。
「えっと……白蛇、神、さま?」
ルイがぎこちなく繰り返す。この時点で帝は思い違いに気づいた。彼が固まったのは、目の前の動物が神の化身だと気づいていなかったから。皇族にとって神々は獣の姿で地上に降りるのが常識のため、その視点は逆に驚きだった。
「願い事は?」
聞きたい部分だけまた尋ねる。さすがに近習が渋い顔で止めに入った。その手を振り払う。御簾の中の攻防が外に漏れることはなく、想像して溜め息を吐いたのは長姉と皇太子くらいだ。
「あら、神様への願いは外で吹聴してはいけないのよ」
アイリーンが何を言い出すの、と呆れ顔で注意した。その脇でヒスイが、リンは度胸あるわねと苦笑いする。父セイランへ堂々と意見した後、アイリーンはルイに向き直った。
「気にしないでね。神様へのお願い事は人に話さない方がいいのよ」
うっかり口にしなくてよかった。ルイは胸を撫で下ろした。と同時に、彼女と恋仲になりたいなんて願い、彼女の父や兄姉の前で言えない。絶対に吊し上げられるぞ、と視線を泳がせた。
『我はそなたも気に入っておる故、楽しみにしているが良い』
大仰な話し方の白蛇神に、ルイはぺこりと頭を下げた。会釈と呼ぶほど上品ではなく、そう……近所の小童が悪戯をして謝る時のような。何とも戯けた所作だった。
食事が終われば、それぞれに引き上げる。時折揺れる御簾の向こうを想像し、皇太子シンは肩を落とした。近習にしっかり叱られてしまえ、と放置を決め込む。長姉アオイは視線を妹に固定し、次姉ヒスイも子犬姿のネネを見つめた。
「ご馳走様でした。ルイ、食後のお茶に付き合って」
「あ、ああ」
ちらっと隣のシンを窺うが、ダメと言われなかったのでアイリーンを追いかける。慌てて姉二人が立ち上がり、彼らを追った。足元をするすると移動する白蛇、はしゃいで転がるように走る子犬。ココはアイリーンの肩に飛び乗り、居場所を死守した。
「父上、いい加減にしてください」
貧乏籤を引かされた皇太子は、仕方ないので御簾を巻き上げた。お膳を転がさなかったのが不思議なほど、セイランは抵抗したようだ。押さえ込まれて、口を塞がれ呻いていた。
「皇太子様!」
「不敬罪とか言わないから安心して。きちんと部屋に連れ帰ってくれ。あとで、父上には穢れのことを……じっくり、聞くから」
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