110 / 159
第109話 留学の意味が変わる
しおりを挟む
日常に戻って、寮と学校の往復が始まる。学校長に呼ばれて、留学期間をいくらでも伸ばしていいと聞かされたのは、数日前だった。皇太子シンが約束を守ったのだと、ルイは嬉しく感じる。
ニコラは嬉しそうに、学ぶ予定を変更した。二年の期限が撤廃されたなら、学ぶ内容を減らして時間をかけるつもりのようだ。同級生に気になる女性がいるようだ。もしかしたら、フルール大陸に帰らなくてもいいと思っているかもしれない。
ドナルドも似たようなもので、訓練に夢中だった。訓練場を駆け回り、山盛りの白米を食べてよく眠る。パン食より腹持ちがいいと笑っていた。どちらも実家を懐かしむホームシックには程遠い。倭国での生活を堪能していた。
「まあ、いいか」
深く考えることをやめ、ルイは畳に転がる。このまま倭国に骨を埋めてもいいんじゃないか。そんな気がし始めていた。アイリーンと結ばれなくても、彼女が暮らす大地で朽ち果てるなら、それも愛情なのでは? と。自分でも極端だと思うが、正す気はなかった。
ただ、時折感じる街での視線は、自分達が余所者なのだと知らしめる。幼子を連れた母親が避けて通ったり、金銭のやり取りで手が触れると驚かれたり。フルール大陸も多少は異民族に対する態度の違いはあるが、こちらは閉鎖された国だっただけに区別が激しい。
ルイはこの扱いを差別とは考えていなかった。見知らぬ外見の者が現れれば、母は子を守ろうとするのが当然だし、驚くのも同じだ。異国人を知らないから、こういった対応が目立つ。話しかければきちんと答えてくれるし、品物を売らないなどの拒絶はなかった。
「ルイ様はどうするんですか?」
図書館で借りたという本を読みながら、ニコラが声をかける。寝転んだ姿勢から、ニコラに向き直った。
「何が?」
「僕はこのまま倭国に居残る気ですけれど、王子であるあなたはそう簡単ではないでしょう?」
一文官候補の子爵家の子と、第二王子では国の対応が違う。王家はルイに帰ってくるよう促すのでは? そう尋ねられて、再び天井を仰ぐ形に転がった。両手両足を広げ、畳を満喫する。
「帰りたくはないな」
「巫女様がいるから?」
巫女の為に祠へ通い、彼女を助けて褒美をもらった話は、彼も知っている。惚れた女性なのでしょう、と断言された。否定できないのは、自覚があるからだ。恋心は膨らんで、愛情に変わり始めた。まだ止められると思うが、止めたくないのが本音だった。
「そうだけど、それだけじゃない」
新しい文化に触発されたし、魔法が使えなくて大変な思いもした。彼女の置かれた環境が少しわかって、守りたいと願う。だが、白蛇神の言葉が印象に残っていた。
願いを叶えよう――賽銭分だけ。それならもっと多額の金額を投げ入れたら、大きな願いでも叶うのだろうか。ドラゴンが地下に眠る大陸で、溢れんばかりの魔力の恩恵を得てきた。そんな俺でも、異国の神に願っていいなら。
「彼女が泣かなければ、それでいいさ」
俺が幸せに出来なくても、彼女が幸せならばいい。ルイは溢れた言葉に苦笑いした。そうだ、俺じゃなくてもいい。でも、出来たら……アイリーンを助けるのが俺だったら。最後の部分を飲み込み、明日、賽銭を奮発しようと決めた。
ニコラは嬉しそうに、学ぶ予定を変更した。二年の期限が撤廃されたなら、学ぶ内容を減らして時間をかけるつもりのようだ。同級生に気になる女性がいるようだ。もしかしたら、フルール大陸に帰らなくてもいいと思っているかもしれない。
ドナルドも似たようなもので、訓練に夢中だった。訓練場を駆け回り、山盛りの白米を食べてよく眠る。パン食より腹持ちがいいと笑っていた。どちらも実家を懐かしむホームシックには程遠い。倭国での生活を堪能していた。
「まあ、いいか」
深く考えることをやめ、ルイは畳に転がる。このまま倭国に骨を埋めてもいいんじゃないか。そんな気がし始めていた。アイリーンと結ばれなくても、彼女が暮らす大地で朽ち果てるなら、それも愛情なのでは? と。自分でも極端だと思うが、正す気はなかった。
ただ、時折感じる街での視線は、自分達が余所者なのだと知らしめる。幼子を連れた母親が避けて通ったり、金銭のやり取りで手が触れると驚かれたり。フルール大陸も多少は異民族に対する態度の違いはあるが、こちらは閉鎖された国だっただけに区別が激しい。
ルイはこの扱いを差別とは考えていなかった。見知らぬ外見の者が現れれば、母は子を守ろうとするのが当然だし、驚くのも同じだ。異国人を知らないから、こういった対応が目立つ。話しかければきちんと答えてくれるし、品物を売らないなどの拒絶はなかった。
「ルイ様はどうするんですか?」
図書館で借りたという本を読みながら、ニコラが声をかける。寝転んだ姿勢から、ニコラに向き直った。
「何が?」
「僕はこのまま倭国に居残る気ですけれど、王子であるあなたはそう簡単ではないでしょう?」
一文官候補の子爵家の子と、第二王子では国の対応が違う。王家はルイに帰ってくるよう促すのでは? そう尋ねられて、再び天井を仰ぐ形に転がった。両手両足を広げ、畳を満喫する。
「帰りたくはないな」
「巫女様がいるから?」
巫女の為に祠へ通い、彼女を助けて褒美をもらった話は、彼も知っている。惚れた女性なのでしょう、と断言された。否定できないのは、自覚があるからだ。恋心は膨らんで、愛情に変わり始めた。まだ止められると思うが、止めたくないのが本音だった。
「そうだけど、それだけじゃない」
新しい文化に触発されたし、魔法が使えなくて大変な思いもした。彼女の置かれた環境が少しわかって、守りたいと願う。だが、白蛇神の言葉が印象に残っていた。
願いを叶えよう――賽銭分だけ。それならもっと多額の金額を投げ入れたら、大きな願いでも叶うのだろうか。ドラゴンが地下に眠る大陸で、溢れんばかりの魔力の恩恵を得てきた。そんな俺でも、異国の神に願っていいなら。
「彼女が泣かなければ、それでいいさ」
俺が幸せに出来なくても、彼女が幸せならばいい。ルイは溢れた言葉に苦笑いした。そうだ、俺じゃなくてもいい。でも、出来たら……アイリーンを助けるのが俺だったら。最後の部分を飲み込み、明日、賽銭を奮発しようと決めた。
85
あなたにおすすめの小説
夜の声
神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。
読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。
小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。
柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。
そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。
プライベート・スペクタル
点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。
この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。
その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。
(※基本 隔週土曜日に更新予定)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
寡黙な男はモテるのだ!……多分
しょうわな人
ファンタジー
俺の名前は磯貝澄也(いそがいとうや)。年齢は四十五歳で、ある会社で課長職についていた。
俺は子供の頃から人と喋るのが苦手で、大人になってからもそれは変わることが無かった。
そんな俺が何故か課長という役職についているのは、部下になってくれた若者たちがとても優秀だったからだと今でも思っている。
俺の手振り、目線で俺が何をどうすれば良いかと察してくれる優秀な部下たち。俺が居なくなってもきっと会社に多大な貢献をしてくれている事だろう。
そして今の俺は目の前に神と自称する存在と対話している。と言ってももっぱら喋っているのは自称神の方なのだが……
うちの弟がかわいすぎてヤバい無理!
はちみつ電車
恋愛
3歳の時、弟ができた。
大学生に成長した今も弟はめっちゃくちゃかわいい。
未だに思春期を引きずって対応は超塩。
それでも、弟が世界で一番かわいい。
彼氏より弟。
そんな私が会社の人気者の年上男性とわずかに接点を持ったのをきっかけに、どんどん惹かれてしまう。
けれど、彼はかわいがってくれる年下の先輩が好きな人。好きになってはいけない.......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる