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第115話 ちょっと手を伸ばすだけだもの
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ルイが帰国する。その一報を聞いて、アイリーンは悲しくなった。すぐに会える距離にいたのに、と胸を押さえる。でも、私には神々との契約があるから、簡単に隣大陸へ飛べない。
『会いに行けばいいじゃない』
『僕だって協力するよ』
ココとネネが、勝手に心を読んだような返答を寄越す。驚いて目を見開いたアイリーンへ、二匹の契約獣は逆にびっくりしたようだ。なぜダメだと思い込んだのかを尋ねてきた。素直に返した答えは、以前のように役目があるわけでもないのに、神の力を使ってはいけない、と考えた彼女の意見だ。
『僕らが構わないのに?』
『目の前にあるお稲荷さんを我慢する必要あるかな。欲しければ食べればいいんだよ。ちょっと手を伸ばすだけだもの』
恋人との逢瀬を、食べ物に例える辺り……神狐はお子様なのか。呆れ顔で舌をちろちろ覗かせる白蛇神ミミが足りない言葉を補った。
『我らは契約主の願いを叶える存在だ。巫女と契約した神が契約獣に身を落とすのは、大多数の声を聞き届ける神の役目を放棄する故。つまり契約した巫女の願いを叶えることは、当然のこと』
信仰する人々の願いを聞くから神であり、神格が維持される。その役目を放棄し、たった一人の願いを叶えるために己の地位を投げだすのが、契約獣だった。遠回りだが、民の為になる一面もある。それゆえ、他の神々は神格を預かって契約が終われば返してくれるのだ。
一時的に神格を手放すから、一柱と数えず一匹となる。その原理まで語り、白蛇は牙を見せて笑った。
『ここまでお膳立てしたのだ、大団円の幕を引くのはそなたの役目であろう?』
「そう、なのかな」
恋人に会うため隣大陸行きたい話が、神格まで絡んだお話に発展するなんて。半分も理解せず、アイリーンは聞き流した。難し過ぎてよく分からないわ。今は頭の中が、ルイに会う方法でいっぱいだったし。会いに行ってもいいって部分だけ、理解すればいいよね。
誰しも飽和状態のとき、それ以上詰め込めないものだ。アイリーンはにっこりと笑って、考えることを放棄した。契約した神獣達が三匹揃って、隣大陸への往復を助けてくれる。過去の体験から判断して、三匹なら三往復できるはずだ。
ほっとしながら、ルイに明日会いに行こうと決めた。ルイがフルール大陸に帰っても、あの屋敷経由で会えるよと話すために。
『リンは絶対に理解してない』
『いいんじゃない?』
ココが低い声でぼやくも、ネネは楽天家だ。深く考えなくても、彼女なら自然に良い方へ向かうに決まっている。軽い返事をして、ごろりと畳に寝転がった。背中が痒いが子犬形態では足が短くて届かない。くねくねと体を揺らして、畳に擦りつけた。
「ネネったら、可愛いんだから」
ふふっと笑ってアイリーンが膝に抱き上げた。背中の痒かった部分を、ちょうど撫でる指にうっとりする。むっとした神狐が飛び上がり、膝の上の子犬を踏んづけた。ぎゃん! 鳴いたネネを睨み、叱ろうとしたアイリーンを無視して飛び出す。
「ちょ! ココ!!」
『嫉妬は醜いものよのぉ』
「障子破かないでよ、私が叱られるでしょ!」
のんびり構えるミミは、アイリーンの嘆きに苦笑いする。神狐が通り抜けた障子の穴は、くどくど叱るキエが桜の形の紙を貼って塞いだ。
『会いに行けばいいじゃない』
『僕だって協力するよ』
ココとネネが、勝手に心を読んだような返答を寄越す。驚いて目を見開いたアイリーンへ、二匹の契約獣は逆にびっくりしたようだ。なぜダメだと思い込んだのかを尋ねてきた。素直に返した答えは、以前のように役目があるわけでもないのに、神の力を使ってはいけない、と考えた彼女の意見だ。
『僕らが構わないのに?』
『目の前にあるお稲荷さんを我慢する必要あるかな。欲しければ食べればいいんだよ。ちょっと手を伸ばすだけだもの』
恋人との逢瀬を、食べ物に例える辺り……神狐はお子様なのか。呆れ顔で舌をちろちろ覗かせる白蛇神ミミが足りない言葉を補った。
『我らは契約主の願いを叶える存在だ。巫女と契約した神が契約獣に身を落とすのは、大多数の声を聞き届ける神の役目を放棄する故。つまり契約した巫女の願いを叶えることは、当然のこと』
信仰する人々の願いを聞くから神であり、神格が維持される。その役目を放棄し、たった一人の願いを叶えるために己の地位を投げだすのが、契約獣だった。遠回りだが、民の為になる一面もある。それゆえ、他の神々は神格を預かって契約が終われば返してくれるのだ。
一時的に神格を手放すから、一柱と数えず一匹となる。その原理まで語り、白蛇は牙を見せて笑った。
『ここまでお膳立てしたのだ、大団円の幕を引くのはそなたの役目であろう?』
「そう、なのかな」
恋人に会うため隣大陸行きたい話が、神格まで絡んだお話に発展するなんて。半分も理解せず、アイリーンは聞き流した。難し過ぎてよく分からないわ。今は頭の中が、ルイに会う方法でいっぱいだったし。会いに行ってもいいって部分だけ、理解すればいいよね。
誰しも飽和状態のとき、それ以上詰め込めないものだ。アイリーンはにっこりと笑って、考えることを放棄した。契約した神獣達が三匹揃って、隣大陸への往復を助けてくれる。過去の体験から判断して、三匹なら三往復できるはずだ。
ほっとしながら、ルイに明日会いに行こうと決めた。ルイがフルール大陸に帰っても、あの屋敷経由で会えるよと話すために。
『リンは絶対に理解してない』
『いいんじゃない?』
ココが低い声でぼやくも、ネネは楽天家だ。深く考えなくても、彼女なら自然に良い方へ向かうに決まっている。軽い返事をして、ごろりと畳に寝転がった。背中が痒いが子犬形態では足が短くて届かない。くねくねと体を揺らして、畳に擦りつけた。
「ネネったら、可愛いんだから」
ふふっと笑ってアイリーンが膝に抱き上げた。背中の痒かった部分を、ちょうど撫でる指にうっとりする。むっとした神狐が飛び上がり、膝の上の子犬を踏んづけた。ぎゃん! 鳴いたネネを睨み、叱ろうとしたアイリーンを無視して飛び出す。
「ちょ! ココ!!」
『嫉妬は醜いものよのぉ』
「障子破かないでよ、私が叱られるでしょ!」
のんびり構えるミミは、アイリーンの嘆きに苦笑いする。神狐が通り抜けた障子の穴は、くどくど叱るキエが桜の形の紙を貼って塞いだ。
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